大賢者とその息子
【プロローグ】
それは100数十年前に生まれたといわれている。それは多くの魔物を生み出し、世界を混沌に陥れた。
その当時魔法も未発達であり、力の弱い人間は蹂躙され、世界の3割が魔物の領地となった。その後、聖剣と呼ばれる人類の希望が生まれるまで猛威を振るった災害の元凶を人は〔魔王〕と呼んだ。
神暦185年・・・聖剣を扱う勇者と3人の仲間により魔王は封印される。それは今から15年も前の話になる。
【第一章 一節:大賢者とその息子】
(・・・暗い。・・・周りを見渡しても何も見えないほどに暗い。聞こえてくるのは風の吹く音くらいだ。)
彼は周囲を何度も確認するが何も見えない、上も下も分からない。どれくらいそうしていたか分からないくらい、そんな時間を過ごしていた気がした。
(ここはどこだろうか?自分は一体何なんだろうか?)
彼は考え続けるが答えは出ない。答える者も存在しない。どれくらいそんな事を考えていたか・・・
(あれ?)
彼は不意に手に感触を覚えた。それは硬くて少し冷たい、土の感触。
(ここはどこだろうか?)
彼は立ち上がると再度周囲を観察する。すると遠くの方が白く光り始めているのが見えてきた。何かに、誰かに会いたかった。彼はただそれだけだった・・・。
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「早く、起きよ。バカ息子。」
齢80くらいだろうか、全身黒のローブを着けた老人は、ベッドに寝ている14歳程度の少年を怒鳴りつけながら、手に持っている鈍器のような杖で頭を叩いた。
ゴンッと部屋に重々しい音が響き渡る。
「・・・ッ、・・・ッ。」
少年は頭を押さえながら、ベッド上でもんどり打っていて、目には涙も浮かべていた。二人がいる部屋は質素な造りで遊ぶものなどはなく、部屋の至るところに練習したと思われる魔法陣が描かれていた。
「まったく、いつまでも堕落した生活をしおって。もう鳥も鳴いている時刻だぞ。」
老人はその部屋で唯一の窓から外を見ながらつぶやく。外にはまだ夜の帳が下りていて、鳥の鳴き声以外の音は聞こえなかった。
「ばっっっっかじゃねーの!!くそじじい。まだ、夜だろ、ヌカは夜行性の鳥だから、夜中鳴いてんじゃねーか。」
少年はしばらくすると起き上がり、老人を怒鳴りつける。まだ、痛みがとれていないのか目には涙を浮かべていて、顔は頭に血が上っている為か真っ赤だった。
「ふん。まーそれはどうでもいいとして、いいものを手にいれたからラフィルお前にも見せてやろうと思ってな。」
老人は少年の怒りの発言を何事もなかったかのようにスルーし、服の裾から一冊の本をラフィルと呼ばれた少年の目の前に出した。
「そんな宝石でごつごつした鈍器で叩いといて、よくもそんな事を・・・ん、これは何の本なんだよ?」
ラフィルは怒っていたが、この老人が人の話を聞かないのもよく知っていた。なので、老人の出した本に意識を切り替える事にした。そんなラフィルの態度に満足したのか老人は偉そうに話し始めた。
「よく見るがいいラフィルよ。ついにわしは手に入れたのだ。魔王を封印した一人であるこの大賢者テンザンが追い求めた最大の魔術書を。はっはっはっは。」
テンザンと名乗った老人はラフィルに本を突き出して高らかに笑う。目は子供のように無邪気な光を浮かべ、嬉しさのせいか本を握っている手は震えていた。
「ついに見つけたのかオヤジ。どこにあったんだ?」
ラフィルはさっきまでの怒りを忘れるほどに興奮し、本を凝視している。
「ふふふ。それはな、以前封印した〔禁断の書〕を手に入れたリーガルの本屋よ。やはりリーガルは侮れん。また、かような禁書の類を入荷していたとは。」
テンザンは一段声のトーンを落として真剣な表情で話す。それを聞いているラフィルも以前封印した禁書を思い出し、真剣な表情となっていた。二人は緊張からか背中に冷たいものを感じていた。
「しかし、オヤジ。それは本当にオヤジの求めた
魔術書なのか?また、封印しないといけないものではないんだな。」
ラフィルは部屋の角、机の下にある封印と書かれた箱をみながらテンザンに聞く。その表情には不安が浮かんでいた。しかし、テンザンは本の表紙を再度ラフィルに見せつけて、自信ありげな表情で答えた。
「これを見よ、ラフィル。これに名を付けるならば〔心理の書〕だ。わしらの願いはついに叶うのだ。」
ラフィルも本の表紙を見る。そしてその顔は歓喜の色に染まった。
それは片手で持てる程度の大きさで、全体にピンクがかった装飾の施された100ページ程度の本。
表紙には・・・
《あなたに恋の魔法をかけてあげる》
10歳くらいの女の子が魔法使いの姿で真ん中に描かれたそれは、今王都で大人気の少女漫画であった。
何か感想をもらえると嬉しいです。滑るネタが多いと思いますが、是非生暖かい目で見てもらえれば幸いです。