御池千弥
短編『失恋決定日』の内容とほぼ同じです。
ちょっとばかし付け足しています。
その日、私の七度目の失恋が決定した。
毎朝の通勤電車。いつも同じ車両で私が立つ扉とは反対側の扉にもたれている彼。
見ているだけで、眺めているだけで幸せだった。
目の保養になるし色々妄想するのは楽しかった。私の憩いのひとときだったというのに!
今朝、たった今ガラガラと崩れ落ちた夢の欠片に私は打ちのめされた。
視線の先には私の憧れの人と可愛らしい女性が見るからに昨夜一晩中一緒に過ごしましたよぉ〜って雰囲気でいちゃラブしてるのだ!
ただ茫然と凍ったまんま15分が過ぎ会社最寄り駅で流されるままホームに降りたところで、同期で親友の万葉に声をかけられた。
「おっはよぉ〜、千弥!ん?あれ?どうしたの?」
うるうる涙目で振り向いた私に、いつも能天気な万葉も流石に驚いたらしい。
そのままいつものコーヒーショップに向かい、そのままいつものモーニングセットを注文してそのままいつもの席に座る。
支離滅裂な私の説明にも概要は把握したらしい万葉が一口飲んだカップを置く。
「だから、積極的に攻めろって言ったでしょ?
だいたい、姿眺めて妄想に耽るからちょっと離れたところから見てるだけ〜って、あんたの存在すら認識されてないわよ。良くって毎朝見る風景の一部ね。そんなんで恋愛に発展するわけないでしょ」
もっとも過ぎて反論出来ない私はさらに凹んで小さくなる。
「おいおい、マヨケチャ。朝から話筒抜けだぞ」
有り難くもない私達二人の通り名をわざわざ告げながら万葉の隣に座ったのは同じく同期の古池徹夜。ただし院卒なので私達より二歳年上。
そう、万葉がマヨ。そして私のフルネームが御池千弥でケチャ。
マヨは良い。名前そのまんまだし。可愛い。でもケチャはないでしょ! 可愛くもなんともない。むしろ変だし。
むぅ〜〜〜
っと睨み付けたところで、この男は気にもとめずいつもの通り飄々として…いや、むしろニヤニヤしながらケチャップのしっかりかかったホットドッグにかぶりつく。
おい、そんなに私の失恋が嬉しいか?
いつもの一方的な睨み合いをしてたら万葉がぶった切った。
「はい、そこ喧嘩売らない。
ホント仲良しなんだから〜」
「仲良しなんかじゃない!」
なんて私の叫びはまるっと無視されて
「だいたい、いい年して眺めてるだけじゃ駄目っていい加減学習しなさい。そんなんだから失恋ばっかで交際に発展せず、未だに処女なんじゃない」
真っ赤になってぷるぷるしている私に目の前の男がさらに追い討ちをかける。
「おいおい、お子様に無理言うんじゃない。
こいつの精神年齢考えたら、もっと温かく見守ってやったらどうだ?
それに、本当に誰も現れなかったら俺が面倒みてやるよ。俺なら名前変わっても古池千弥でケチャのまんまだし、俺三男だから婿養子でも構わないぞ」
「はあ???」
有り得ない提案を万葉はスル〜っと無視して別の提案をする。
「とにかく今夜は合コンしましょ。夜迄に良い男集めとくから」
そうして集まった終業後は殆ど同期会に近い。
何が合コンだ!
確かに同期は男ばかりだしイケメンは多い。それは認める。でもね、知ってる顔ぶればかりじゃ出会いがないじゃない!
期待だけ持たせやがってぇ〜〜〜
万葉があちらで取り巻きに囲まれ女王様してるのを横目に、私の回りでも隣に陣取った古池やイケメン同期がぐるりと取り囲み生暖かい目で見守る中やけ酒となった。
見ようによっちゃあ『一人逆ハーレム』だけどね。あくまで他人様から見れば、だ。
くっそぉ〜、それに古池だってイケメンに属するんだった。
むぅ〜なんかムカつく………
普段余りに失礼なんで存在自体私の中では抹殺してたけど、同期の中でも群を抜いて出世街道まっしぐらの超エリート様だったよ。そう言えば………
ちくしょぉ〜〜〜
古池のバカ野郎〜〜、人のことをバカにしやがって!
みんなもみんなだぁ〜〜〜
優し過ぎるんだよぉ〜〜〜
「はいはい、よしよし……」
回りのイケメン同期が皆して相槌を打ちながら頭を撫で、料理やおつまみを取り分けドリンクをオーダーしてくれる。
やっぱりお子様扱いじゃないかぁ〜〜〜
そんなことを喚きながら意識がフェードアウトしていったような気がする………
ミーン、ミンミン、ミー
ミーン、ミンミン、ミー
蝉の声にゆっくり意識を取り戻せば、見知らぬ部屋。
なんとなく隣から感じるぬくもりに目をやれば、古池がニヤニヤ見下ろしている。
途端に覚醒するも、酷い頭痛に動くのを躊躇した。
顔をしかめる私を心配そうに覗き込んだ古池が近過ぎる。
「二日酔いか?無茶して飲むからだ。ちょっと待ってろ」
そう言って起き上がったヤツはパンツ一丁。
水泳をやってたらしく後ろ姿は逆三角形の見事な肉体美をさらしている。
ふと気になって我が身を振り返れば……有り得ないことに全裸!
慌ててシーツを巻き付けたが……
不安で真っ青になる。
程なくして戻って来た古池は錠剤を渡してくれた。ご丁寧にグラスにはストローまで。まったく気が効く男だ。
とにかく無言で薬をごっくんして、起き上がる。頭は痛いし気分は悪いが寝転んだままじゃ、なんか不利な気がする。
「あのぉ……」
「昨夜のこと覚えてるか?」
覚えていない。まったく、これっぽっちも。
なので正直に首を振る。
「だよな。とにかく何も着てないのは俺の責任じゃないぞ。
お前が風呂入るって、勝手に脱いでそのまま寝ただけだ」
羞恥に真っ赤になるが、ヤツはお構い無しで淡々と昨夜の醜態を説明してくれた。隠れる穴がない私は身も蓋もない。
「と言うわけで、俺は何も手は出していない。酩酊したお子様に手を出す趣味はないからな」
そうぬかしながら素早く動いたヤツは私を抱き寄せ軽く唇を合わせる。
あまりの予期せぬ展開に驚き後ろに反り返った。
「はあ?あんたさっき……」
続きの言葉は合わさった唇に呑み込まれた。そのままヤツの舌が侵入して侵していく。腕も身体もヤツにがっしり囲われ、おまけに後頭部まで左手でがっしり固定され身動きが取れず、唇と舌の動きだけで翻弄されていく。あまりのことに固まってされるがままだ。
しばらくたってやっと離れた唇が告げた。
「起きるまで待ってたんだよ。これからはお子様に合わせてゆっくり教えてやるよ」
もう一回意識を失って良いですか?
最終チェックしましたらすぐに『古池徹夜視点』を投稿しますので、もう少々お待ちくださいませ。