2話 〜scremble for soul〜
俺と霞城先輩は今、酒場に来ていた。
「先輩。バトラーって主にどうやって稼ぐんですかねぇ…」
聞くと、霞城先輩は「はぁ…」とため息をつき答えた。
「バトラーは、他のバトラーを倒してお金を稼ぐの。もらえるのは、倒したバトラーの持っているお金の七十五パーセントと、適当なアイテムのドロップだけかしら。」
「へぇ…」
ピピピピ…
「あ、メール」
「あれ?先輩もですか?何かの放送か?」
そして俺は中身を見て驚愕した。
『SFNをプレイしている方たち、こんにちは。私たちはテロ組織"SOUL"。SOULはこのSFNのシステムをすべて乗っ取りました。この意味はわかりますよね?。では、本題に入りたいと思います。これより全プレイヤーの利用難易度、特級、超ハードモードに変更します』
「な、なんだよこれ…」
「SFNはどんな手を使ってもハッキングは不可能じゃなかったの?」
『超ハードモードで、SFN内で死にますと、
そのプレイヤーは現実でも死にます。それと、痛覚も百パーセントまで上昇させておきました。刺されでもしたら、とても痛いデスよ?』
「ふざけてるのか…」
『それと、メニュー画面をチェックしてみてね。きっとログアウトができなくなってるはずです。』
俺はすぐにメニュー画面を開いた。
「んな馬鹿な…」
メニュー画面からログアウトボタンが消失していた。
「こんなことして、タダですむと思ってんのか…」
隣を見ると、霞城先輩が震えて硬直状態になっていた。
「先輩!しっかりしてください!先輩!」
クソ。ダメか…
「でも、もしプレイしていない人がいればその人が」
「プレイ中でない方は、強制的にログインさせさせてていただきました。あと現実の体については、私たちが保護しますので安心してください。そして、このゲームを終了させるには、今からアップデートする「ダークカントリー」という国を制圧してください。最後に、WRの変更はご自由に。では、検討を祈ります。』
SFN全体が静まり返った。
無茶苦茶だ。こんなこと。
頭の中が真っ白だ。なんも考えたくない。考えられない。
隣を見ると、もう先輩が泣き出しそうだ。
「先輩!しっかり!大丈夫ですから!」
「で、でも、死んだら本当に死んじゃうんだよ!」
そのうち先輩が悲しみで爆発しそうだ。
「まだ本当とは決まったわけじゃないし、さっき言ってたダークカントリーとかいうのを制圧すれば終わるって言ってたじゃないですか。だから、希望を捨てないでください!」
そういうと、なんとか霞城先輩も立ち直り、
「こんな状況でも万里はあたしを裏切ったりしない?」
たく。当たり前のことを。
「当たり前です!言ったでしょ?俺は先輩を裏切ったりしない」
これでやっと先輩は安堵した。
なにもかも急すぎるよ…。
なんとかしなくちゃ…!
「あ!」
そうだ!まずは…!
「サポートセンターに連絡!」
サポートセンターの職員は全員NACを外してパソコンを使ってやっている。
NACをつけてない限り、SFNへのログインは不可能なはずだ。
俺は急いでサポートセンターに連絡した。
しかし…
「ダメか…でない。一回大広間に言ってみましょう。情報を持ってる奴がいるかもしれません」
俺は霞城先輩の手を引いて大広間に向かった。
大広間はとても悲惨なことになっていた。
「どういうことだよ!」
「早くここからだして!」
「なんだよテロってよぉ!」
沢山のSFNプレイヤーがいっせいに叫んでいる。
「クソ…情報の集めようがないなぁ…」
「管理塔とかは?」
あああ!
「それだ!!」
俺たちが管理塔に向かおうとすると、
「無駄だよそこのカップルさんたち」
サングラスをかけた男が俺たちを呼び止めた。
「え?無駄って…」
隣で先輩がモゾモゾと、「カップル……カップル……」と、顔を赤くしていた。
「あ!言っときますけど俺たちカップルとかじゃねぇよ?ただのコンビだ!」
「そう?ゴメンゴメン。何故無駄かだったかな?管理塔そのものがアップデートで消滅したんだよ」
「消滅……だと………」
そしてサングラスの男がメニューのアップデート内容を見せてきた。
「ほらよ。アップデート内容に管理塔の撤去ってよ。わかったか?」
その他にも、さっきの音声メールでテロ組織SOULが言っていたことなどが色々のっていた。
「そ…そんな…」
「で、でも、テロ組織が俺らを保護する保証はねぇだろ!それに日本の人口を保護できる組織ってどんだけ馬鹿でかい組織なんだよ。」
サングラスの男は顎に手を当てて、少し考えてから言った。
「多分、奴らは絶対に俺らを保護する。これは彼らにとって実験のようなものだ。内容は知らないがな。それと、奴ら、テロ組織SOUL。SOULは日本語では魂だが、読み方はソウル。これはどう言う意味か分かるな?」
「韓国…」
「そう。つまりはテロ組織SOULってのは国そのものだ。だから国一つの人口だってなんとか点滴くらいできるんじゃねぇか?」
確かにそれなら納得がいく。俺らの管理も何らかの実験。国一つの人口の保護も国一つあれば何とかできるかもしれない。その国の名前はSOUL。つまり韓国。これなら全てつじつまが合う。
「あんたら…名前は?俺は白夜だ」
サングラスを持ち上げながら言った
「俺は万里。こちらは先輩の…」
「霞城麗華です」
そう答えると、白夜は葉巻を取り出した。
そして葉巻を吸いながら壁にもたれ掛かり、
「ほんと…どうなっちまうんだよ。どうせ俺ら。バトラーがダークカントリーとかいうのを制圧しなきゃいけないんだろうな。それに、死んだら本当にゲームオーバー。鬼畜すぎるぜ。」
「全くです」
きっと、これからはダークカントリーを制圧するのが目的になっていくだろう。
管理塔が消失してしまった以上、一気にレベルMAXとかにはできないだろう。
「RPGの世界に入り込んだようだ…」
* * *
あの事件から一ヶ月後。
俺と霞城先輩は東の町外れの廃墟エリアにきていた。
「先輩。後衛で俺の援護をおねがいします。」
「了解」
そして、ここら辺で一番高そうな建物の中へ入っていく。
「白夜さんは俺と一緒にお願いします」
「あいよ」
白夜はそう答えると、葉巻を吸いながら剣を構えた。
「さぁ。狩りの時間だ」
俺は背中に担いでいる、『聖剣アギト』を構えた。
前方から約十匹ほどの斧を持ったバケモノ。ゴブリンたちが攻めてきた。
「俺が右。白夜さんは左を!」
そういうと、白夜は「オケ」と言って猛ダッシュしていく。
俺も白夜に負けず、右へと走り出す。
ゴブリンはとても弱いが、大人数でくるとなかなか厄介だ。
「おぉおお!」
ズガ!っと俺の剣が左下から右上にかけてゴブリンの胸元を抉る。
左で白夜もゴブリンたちをどんどんなぎ払っていく。
「万里後ろだ!」
しまった。と、振り返ると、ゴブリンは目の前で力尽きた。
「先輩グッチョブ!」
先輩の援護射撃だったようだ。
俺は前を向き、ゴブリンを睨む。
そして、
「あぁぁあぁああァアアアア!!」
雄叫びを上げながら、俺はゴブリンたちに突っ込んでいった。
「いやぁ。疲れた疲れた」
白夜はまた葉巻を吸っている。
「疲れたって言ってもゴブリン十数匹だけじゃないっすか」
俺は、アギトを鞘に納め、建物にもたれ掛かった。
俺たちは今、前線でゴブリン狩りをしている。
最近はずっとそうだ。
「何かでた?」
何かとは、ドロップアイテムのことだろう。
「いや。金は少々でたけど、アイテムはこれというのは出てないな。」
「そもそもゴブリンからは大したものはとれないよ。レベルが高いモンスターじゃないと。」
そう。SFNがアップデートしてから、ダークカントリー付近にモンスターが発生し、そのモンスターはみんなレベルが異なり、高ければ高いほどドロップアイテムもレアになるし、その代わりにモンスターも強くなるのだ。
「にしても、白夜さんはよくあたしたちと組む気になりましたね」
白夜さんは「ふぅ〜」と葉巻を吸い、一息ついてから答えた。
「まぁな。ダークカントリーの制圧っていう目的も同じだし、色々と知らないことが多いっていうから、そういうの見てるとほっとけない性格なんだよ」
白夜はサングラスをカチっと中指で押し上げ言った。
「ほんと、サングラスかけてタバコ吸ってる奴から出てくる言葉じゃねぇよ」
そういうと、白夜は眉間にシワをよせ、少し怒ったように言った。
「人を見た目で判断するんじゃない。結構気にしてるんだから」
白夜さんなかなか意外だなぁ。
「にしても、毎日ゴブリンってもう飽きてきたんだよなぁ。もっとこう、でけぇの狩りたいんだけど…」
そう。この地獄のデスゲームが始まって、バトラーがダークカントリー周辺を狩るようになって、俺らも狩り続けてるのだが、毎日毎日ゴブリンばかりで、そろそろ飽きてきたのだ。
「それは無理だよ。大型のモンスターはすべて制圧組が占領してるから。あたしたちみたいな二流バトラーは狩りが許可されてないし、仮に許可されたとしてもあたしたちにはどうしようもできないわ」
制圧組とは、ダークカントリーの最前線で戦っている一流バトラーのチームで、その実力は凄まじいとのことだ。
「俺もいつか…」
俺がそういうと白夜が「ハァ」とため息をつき、
「やめといた方がいいぞ。なんせ制圧組は相当治安が悪いらしいからな。弱けりゃ馬鹿にされ、強すぎれば嫌味を言われる。それが毎日の集団だ。最前線に行きたいならバトラーのAランクライセンスを昇格するほうがいい」
WRにはランクがあり、C、B、A、S、SS、そして、EXの六段階に別れていて、俺たちは今Bランクになっている。
ランクを上げるには、WRことに異なるある条件を満たすとランクが上がる仕組みになっている。
「確か、Aランクの条件ってなんでしたっけ白夜さん」
白夜さんは待ってましたと言わんばかりに、SFNメニューウィンドウを開いた。
「AランクになるにはLv3のモンスターを倒さなけりゃならねぇ。Lv3のモンスターの特徴は、ゴブリンとかの雑魚とは比べものにならないデカさだ。そして、物理攻撃以外に、魔術を使ってくる。そこが厄介なところだな。」
そう。魔術はなかなか厄介で、戦うモンスターの魔術の種類を知らないで戦うのは、俺らのようなBランクの二流バトラーにとっては自殺行為だ。
「戦う前に対策が必要ってわけね」
「そう。だから俺らのような二流バトラーは、あらかじめ狩るモンスターを決め、そのモンスターの対策をしてから戦うのがセオリーだ」
キリっと白夜がセリフを言い終えると、霞城先輩が口を開いた。
「そうなると、一体どのモンスターが一番楽に倒せるんですか?」
Lv3でも、強いものもいればとても弱い奴もいる。
「俺らは剣士二人スナイパー一人のチームだ。狙うとしたら中距離攻撃の魔術攻撃モンスターがいいかと思う」
白夜さんってたまによく頭キレるよなぁ。
「で、その魔術攻撃モンスターは…?」
俺と霞城先輩はゴクっと生唾を飲む。
「魔銅龍。その名の通り、この竜は銅で体を固めており、魔術に特化したモンスターだ。この竜は魔術にだけ特化しているから動きは鈍い」
ほんとこの人結構知ってるよなぁ。
「しかし、体の銅がそこをカバーしていて、普通のマシンガンのような低火力の攻撃を数で押すような攻撃は全くです無意味。しかし、剣ならば一撃一撃が重く、すぐに銅を砕くことができる。スナイパーライフルも。一撃がでかいので、銅に阻まれることはないでしょう」
確かにこれならいける。と思ったが、
「実は、そいついるのがなかなか遠くて…歩いて一週間はかかる」
俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。
「一週間となると荷台が必要になってくる。運ぶための馬車も必要だ。それに…」
白夜が新しい葉巻を取り出し、一回吸ってから言った。
「俺らの実力じゃまだ無理だ」
確かにそうだ。ゴブリン退治しかしていない俺らにはまだLv3のモンスターがどれほどなのか知らないし、今まで雑魚だけで何匹もたむろしてただけだが、今回は強敵一体。戦い方も全然変わってくるだろう。
俺は白夜を睨み言った。
「だったら…もっと強くなればいい」
そう答えると、俺は身支度をすまし、一人で町の方角に向かった。
「おい…どこ行くんだよ!」
「ちょっと用事」
俺は、二人をおいて、そのまま町に向かったのだった。
***
「おい。計画の方はどうだ」
「はい。問題なく進んでおります」
ある男は「うむ」と答え、こう告げた。
「日本人の有能な能力の検査のために、SFNを利用するとは、なかなかなことを考えたなぁ。おい。救助班。住民の保護は完了したか」
「はい。日本人の確保は終了いたしました」
「うむ。ここまでは順調だが、あとはSFNプレイヤーがちゃんとダークカントリーを制圧してくれるかだよなぁ」
男は椅子にもたれ掛かり、独り言をブツブツ呟く。
「ダークカントリーの難易度は全世界探してもないほどの難しさだ。それに、死んだらほんとに死ぬゲームオーバー付きときたら、足が震えて攻略できないんじゃないかなぁ。まぁ、そこも実験の一つだけどね」
男は机に置かれたワインを一口飲み、
「さぁ。これからが本番だ。この「scrembl.for.soul計画」はなぁ!」