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ょぅι゛ょと魔法

勇者召喚の意外な影響です


 どれだけ言葉を連ねても、伝え足りない、伝えきれないのが「好き」という気持ちだ。

 だから「うしゃるたんだいしゅき~!」というミミルの言葉にウサルを介して、俺の気持ちを上乗せして伝えるのだ「僕もミミルのことが大好きだよ!」と。



 「はいはい、あんたたちのラブラブっぷりは分かったら、今日はガーデオさんトコに行くんでしょ? 魔法習いに。そろそろ出かけた方がいいんじゃないの?」

 そんなことを言うアマンダにしても、毎朝、飽きもせずミミルをぎゅーっと抱きしめては「今日も可愛いわねぇ」とデレデレになってるくせに。

 だんだんと加減も出来る様になってはきているが、油断するとミミルが窒息してしまうので監視はまだまだ必要だ。

 溢れる愛情が胸に回っているのか、最初に会った時より更に大きくなってる様な気がするんだよな・・・。


 今日のミミルは薄いピンクのブラウスに濃い茶色のジャンパースカート、髪の毛は「可愛くさせてぇ~」と常連客の女性の手によって編み込みにされている。

 「やっぱ、女の子はいいわよねぇ、うちは男ばっかでこういうの出来なくて」と、手際よく楽しそうに仕上げられてしまった。 

 自分の体なのだが、どこがどうなっているか全く分からない高度な技術だ。

 「似合ってるー!」「可愛いー!」と周りのお姉さんたちに誉められてミミルが頬に手を当てて照れている。


 3号の撮影も絶好調で、お守り代わりにと依頼に出かける冒険者たちに写真を略奪されまくっている。

 ミミルの写真で商売をするというのも抵抗感があるので言われるまま渡しているが、なんらかの歯止めが必要かもしれない。


 「いってきまーしゅ!」

 ミミルを囲んでウサル、2号、3号と宿を後にする。

 すっかり蕩けきって手を振る冒険者たちに「こいつら本当に大丈夫か?」と不安になる俺だった。



 ◆

 ◆



 露天のおばちゃんに「ミミルちゃん、これ食べてきな!」と貰った果物を食べながら歩くミミルと俺たちの目に入ってきたのは、巨大なモコモコした毛玉だった。


 「くましゃんでしゅ。」

 寄生前に脅威を感じていた熊のモンスターより更にデカい。

 ミミルの目線からだと壁のようだ。


 首輪をしてそこにお財布と買い物籠をぶら下げて、ごくごく普通に買い物をしている。

 賢いなぁ、誰かのペットか使い魔かなんかだろうか?


 大人しいなら全身でモフモフ感を堪能したいところだ。


 ミミルの髪も再現出来ているのだから、モフモフな分身も作れるかもしれないな、そんなことを考えながらショタジジイの店に入る。

 定休日ということで客はいない。

 認識阻害で誤魔化せるものの、やはり最初の内は人目が無い方がいいだろうと、定休日の今日、ミミルの最初の魔法のお勉強をすることになったのだ。


 「いらっしゃい、ミミルちゃん。」

 営業用以上のスマイルだな、ショタジジイ!

 そのケーキも普段以上に力が入ってるんじゃねーか!?



 ◆

 ◆



 「まずはお勉強の前にケーキとお茶をどうぞ!」

 「ありがとうごじゃいましゅ、いただきましゅ!」

 ジジイ、実は俺と同じ不定形生物じゃねーだろーな!?

 蕩けきってるじゃねーか!


 おいしそうに食べるミミルの笑顔は破壊力抜群だけどな!

 俺でもいまだに慣れるどころか思考停止することがあるくらいだ。

 


 「あー、斉藤さんに会ったんだね。」

 ミミルがケーキを食べ終え、お茶をゆっくりと飲みながら先ほど来る途中で見かけた光景について話すと、そんな答えが返ってきた。


 なんでも召喚された勇者の一人の斉藤さんという女性が、旅の途中でモンスターに母熊を殺された子熊を保護。

 可愛がって育てていたものの元の世界に帰るに当たっては別れざるを得なく(連れて行こうとしたが「猟友会とか来ちゃうから!」との別の勇者の説得に泣く泣く諦めたそうだ)、「たとえ別々の世界になっちゃっても貴方は私の子どもだからね!」と友人となっていた王族や騎士たちに後を託していったのだそうだ。

 危険なところに行く際には預けていたりしたこともあって、城の人たちにもすっかりと懐いており、頼みが無かったとしても可愛がられていたことだろうという話。

 賢く人の言葉も理解し、言葉は話せないものの自分の意志を「なんとなく」ではあるけれど伝えることの出来たその熊は亜人として受け入れられ、その子孫たちもまた同じ様な力を持って「良き隣人」として受け入れられているのだとか。斉藤さんの子どもとして、その子孫は「斉藤」の苗字を国からも認められているそうだ。

 

 「まほーをおべんきょーしゅれば、くましゃんともおはなしできましゅか?」

 キラキラと目を輝かせて質問をするミミル。

 ショタジジイの話を聞いて、俺もなんとなく「勉強しておいた方がいいんじゃね?」程度に思っていた魔法の勉強に、ミミルが自分から乗り気になった瞬間だった。



 ◆

 ◆



 ショタジジイがパチン、と指を鳴らすと店内の照明が落ちた。

 「最初は熱とかを伴わない純粋な『光』の魔法から始めてみようか。これなら失敗してもそんなに大変なことにはならないからね。」


 照明を落としたとはいえまだまだ昼間、外に比べれば暗いが十分な明るさはある。

 ただ、まあ、照明を昼でも点けてる理由は理解した。

 ショタジジイの髪がうっすらと光っているのが分かる。

 昼でこれじゃ、夜は完全に目立ちまくるな。


 「結界も張ったからね。人払い魔法もかけてあるし、それじゃ練習しようか?」

 「あい、がんばりましゅ!」


 「魔法には実のトコ正解は無いんだ。やってみたら出来ちゃった、だからこれでいいんだろう、の積み重ねなんだよね。もっともらしい顔して偉そうなことを言ってる魔法使いも居るけど、単なるカッコつけだね。」

 おい、それでいいのか天災級!

 「ミミルちゃんは熊さんとお話がしたいんだっけ? 他にしてみたいことはある?」

 「いっぱいのおはな! あとおそらのくもをたべてみたい!」

 「そっか、お勉強すればきっと出来る様になるよ!」

 「あい!」


 「じゃ、まずは見ててね・・・『光よ!』」

  立てた指の先にピンポン球サイズの光が灯る。

 「魔法に慣れるとこういうことも出来るよ!」

 光の玉が光の粉の尾を引きながら移動する。

 うーんと、ゼ○ダの妖精? 


 「ほわぁ・・・しゅごいでしゅ、しゅごいでしゅ!」

 

 「それじゃ、ミミルちゃんもやってみようか。指先に光が集まるのをイメージして・・・そうそう。」

 真剣な顔をして自分の指先をじっと見つめるミミル。

 実に賢そうだ。

 将来は大魔法使い確定だな!

 「そうしたら呪文を唱えみよう、失敗しても大丈夫だからね、慌てず、落ち着いて『光よ!』だよ?」


 「あい、『ひかりよ!』」

 ミミルの言葉と同時に周囲が全て真っ白に染まる。


 「目が、目がぁ~!」

 こんな時にも余裕だな、ジジイ!

 嬉しそうにネタに走ってるんじゃねーよ!

 「理解してくれる相手が居ないとネタにも張り合いがないじゃない。」

 こんなんがこの世界最高峰の魔術師で大丈夫か?

 「大丈夫だ、問題ない!」

 ダメだ、このショタジジイはやくなんとかしないと!


 「凄いなぁ、ミミルちゃんは、ちょっと光を集めすぎちゃったけどね。今度はかるーく、『ちょっとお願い』って感じでやってみようか?」

 「あい、『ひかりよ!』」


 「目が、目がぁ~!」

 天丼かよ!



 ◆

 ◆



 あの後、練習を重ねたミミルだが、結局バレーボールサイズより光の玉は小さくならなかった。

 「頑張ったご褒美だよ」と先ほどのものとは別のケーキを食べて、今はウサルのふわゆらベッドでお昼寝タイムだ。

 3号の撮影も絶好調で、デジカメでもメモリカードの容量が一杯になるペースで撮り続けている。


 「才能があるとは思ってたけど、これほどまでとはねぇ。ホント、着火の魔法を最初の呪文に選択しなかった過去の僕を褒めてあげたいよ。」

 「そうなのか? 調節がうまくいってなかったみたいだけど?」

 「あのねえ、普通の魔法使える人がザ○、凄い魔法使いがガ○ダムだとするでしょ? ミミルちゃんは超銀河グレン○ガンみたいなもんなの。ザ○やガ○ダムで市街戦は出来てもグレン○ガンじゃ難しいでしょ? 元もとの魔法の素養だけじゃなく、精霊とかにも愛されてるみたいだし、加護持ちにならなかったのって希望者多過ぎて調整つかなかったんじゃないの? その上、誰かさんのせいでレベルまで上がってるしさあ!」

 「この世界の人間には全く分からない例え方どうもありがとう。」

 「今までは本人が魔法に関する認識が無かったんで魔法的な働きかけを世界にしてなかったからあれだけど、さっきミミルちゃんが言ってた魔法でやりたいこと・・・魔法的なお願いの仕方したら呪文とか無しでも今でも出来ちゃうよ?」

 「いや、魔法の勉強した方がいいといったのはそっちだろう?」

 「変な形で半端な知識を得たら、この世界とはいかないだろうけどこの国くらいはあっと言う間に滅ぶからね。」

 「つまりはミミルは凄い! ということだな!」

 「なんで嬉しそうなんだよ、この寄生生物は!」

 「ミミルが凄いのはいいことじゃないか!?」


 ショタジジイに「ダメだこいつ」って目で見られた・・・解せぬ。



 ◆

 ◆



 ショタジジイの妖精風の光を見つめるミミルの写真は、食堂に集まった冒険者たちから大絶賛を浴びた。

 「絵を描く人間が絶望しそうな一枚よね」とアマンダ。


 ミミルは「しょれでね、しょれでね!」と今日の魔法のお勉強について、手をぶんぶんさせながら熱心に話している。

 同じことの繰り返しで退屈しないかと心配していたが、当人的にはすごく楽しかったらしい。

 ちょっとほっぺたを赤くして軽く興奮状態のようだ。

 お昼寝を済ませたのでまだまだ元気いっぱい。

 依頼があまりうまくいかなかったのか、少し凹んだ感じだった冒険者もつられて笑顔を取り戻している。


 「ミミルちゃん、あれで最小限なんですよね?」

 「私たちがやったら『そう言われれば光ってるかも』って感じになっちゃいますよ?」

 「私たちで才能があるって言われるんだから、微妙な人が見たら軽く絶望出来るレベル。」

 魔法少女たちが微妙に煤けている。


 邪魔しちゃ悪いと思って、ミミルが魔法の練習をしている間は見る側に回って、寝ている間に少し練習したが、俺には魔法の才能が無いみたいだ。

 「一部のモンスターと同じで魔力の運用が自己強化に特化してるみたいだね。ミミルちゃんが使おうとしている時に一緒に使おうとすると影響が怖いし、君は使おうとしない方がいいんじゃないかな?」とのショタジジイの忠言もいただいている。

 こう生体ファン○ルみたいなのに憧れる部分もあったんだけどな。

 分身によるマルチレンジ魔法攻撃は諦めた方がいいみたいだ。


 「『ひかりよ!』」

 光のバレーボールがふよふよと動いてね?

 習ってないの誘導?

 ミミルはやっぱ天才だな!



 ◆

 ◆



 楽しかった一日も終わり、パジャマに着替えたミミルは寝る前の歯磨きも終えて、ぬいぐるみの様にウサルを抱えている。

 あのショタジジイ、本気でパジャマ作ってやがった。


 桜色のウサ耳着ぐるみパジャマ。

 下手に下に居る人間に見せたら可愛がられまくって、今夜は寝る事も出来なくなるだろう。

 本人のタレ耳とは違うピョコンと立ってゆらゆら揺れるウサ耳。

 その気の無い人間でも鼻血を流す出来映え、いい仕事してやがる。


 適温調整、清潔化の付与は・・・まあ、いいだろう。

 全属性防御力アップ、状態異常無効ってなによ!

 パジャマに付ける代物じゃないだろう!


 何と戦わせる気だよ!


 本人お気に入りだけどさ。


 「うしゃるたん、おやしゅみなしゃい・・・。」


 おやすみ、明日もミミルにとっていい一日だといいな!



勇者召喚された面子は大友(♂)、榊原(♂)、斉藤(♀)、袴田(♀)の優等生4人組で田中さんと留学生のマイケルが巻き込まれました

熱血剣道少年の大友君が途中で死亡、「デブ食ってろピザ!」と言われてたマイケルが、異世界生活で劇的ビフォー○フターなダイエット(ピザとコーラが無かったため)を果たしてその穴を埋め、攻撃魔法も治療魔法も使えず全く期待されてなかった田中さんの活躍もあって魔王を倒し、田中さん以外は元の世界に帰りましたが、あまりにも変わり過ぎていたマイケルは不審者扱いで警察に拘留されたというオチ。

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