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ょぅι゛ょと人間山脈

会話&説明の多い回です

 朝一番にミミルの笑顔を見れるこの俺は世界で一番幸福な寄生生物だろう。


 寝ぼけ眼をこすっておはようの挨拶を済ませると、ウサルの補助を受けながら自分で顔を洗う。

 ふかふかのタオルを手渡すと顔と手の両方を動かしてグシグシ。

 歯ブラシ(可愛い熊の絵の付いたコップとセットでアマンダにプレゼントされた)で歯を磨き、良く口をゆすいでから「きちんとみがけてましゅよ!」といわんばかりにニッコリ。


 「ミミルは今日はどの服を着る?」

 「おはなのがいいでしゅ!」


 ばんざーいをしてウサルの手伝いを受けながら服を脱ぎ、その間に2号が用意しておいた服に着替える。

 

 階段を飛び跳ねるように下りるミミルは、傍から見るとちょっとあぶなっかしいが、見かけによらぬ運動神経の良さで軽快に動いている。

 まあ、万が一コケそうになっても前からウサル、後ろから2号でクッション&吊り下げでいつでもフォロー出来る態勢は取っているのだけれどな。


 俺に次ぐくらい幸福なのは、アマンダやこの食堂に朝食を取りに来る冒険者や街の人たちだろう。


 一日をミミルの笑顔と共にスタート出来るのである。

 前日の疲れも吹っ飛び、一日の活力も湧こうというものだろう。

 実際、これまでは遅めの朝食を取っていた人間の中にも、ミミルの朝食時間に合わせて頑張って早く起きるようになった者もいるそうだ。

 「ミミルちゃんのおかげであの子もちゃんと起きるようになったわ、ありがとうね」などと冒険者に頭を撫でられて「えへへ」と何故撫でられているのかはちゃんと理解出来ていないだろうが嬉しそうにしているミミル。


 朝食を済ますと本体とウサルとミミルは街の探検に出発。

 休みを取る予定だった冒険者たちの何人かも色々と理由をつけながら同行。

 手を繋いで歩いたり、肩車をしてもらったり、それでも「うしゃるたーん」となにかにつけてウサルに話しかけて本体としては嫉妬にかられるラブラブっぷりを見せている。


 さーて、「過」保護者でも安心の過剰防護状態でミミルは心配ないだろうし、2号はまたショタジジイのトコに話をしに行こうかな。ちょっとばかり「確認しなきゃいけないこと」もあるしね。



 ◆

 ◆




 「いらっしゃい、昨日の今日で来てくれるとは思って無かったよ。」

 「聞き忘れてたっていうか、昨日の時点では思いついてなかったことがあってな。」

 既にマサギ形態に変わっていた俺に、ごく自然に話しかけてくるショタジジイ。

 流石に年の功である。

 

 「ぶっちゃけ、この国って今戦争とか内乱とか起きてんの?」

 「いや、領主同士の小競り合いすら無いね。」

 「盗賊とか強盗団とかは?」

 「重犯罪は割りに合わないからねぇ、大きな集団とかはないよ。」

 「割りに合わないって?」

 「人間と亜人の説明をした時に言い忘れてたけどね、種族的に人間や亜人の範疇に入っても、社会的行動を取れない、要は周りに酷い迷惑をかける者は『人間扱いされない』んだ。」

 「つまりは・・・・・・えげつねぇなぁ、冤罪とかどうすんのよ?」

 人間扱いされないってことは「害獣」や「モンスター」と同じ扱いってことだろ?

 裁判もなんもなしに「討伐」か「駆除」される。


 「冤罪に関しては大体、神か亜神が抑止力として動くよ。」

 「あ、この世界の神様って結構マメなんだ。」

 「戦争とか政争とかには関与しないけどね。世界のルールに関わる部分は割りとマメに動いてるみたいだね。まあ、人間の方が無視しても滅多に酷い罰とかはないし、冤罪自体がまったく無いわけじゃないよ?」

 「そっか・・・となると余計にぁゃιぃなあ・・・。」

 「どういうこと?」


 「俺がミミルと出会った状況・・・詳しくは話してなかったけど、村中火をつけられて皆殺しだったんだよね。戦争か盗賊の被害に遭って、たまたま運良く助かった普通の村の子どもって思ってたんだけど、今聞いた様な状況の上で昨日聞いたミミルが『取替えっ子』かもしれないって話を合わせるとさ・・・ミミル目当てだったんじゃ、なんて思わない?」

 「手に入れさえすればなんとでもなると思う人間は居るだろうね。まだまだ小さな子、しかも女の子だしね。」

 「『国』単位の動きでもおかしくないよな?」

 「この国は大丈夫だよ、そんなことしたら僕が腹を立てるってこと理解してるから。」

 「本当に?」

 「この国って一回首都移転してんだよね。」

 「それがどうし・・・・・・ちなみに、元・首都はどうなってんの?」

 「山になってるよ。」




 ◆

 ◆



 「それで『取替えっ子』なんだけどさ、もしかして一目で見て分かる特徴があるの? 加護持ちみたいに。」

 「あー、あるよ。取替えっ子は頭のてっぺんが禿げる。で、そこが魔力で光を放つ。」

 「マジかっ!!」

 「いや、冗談だよ、目の前に僕という存在が居るんだから、そのくらい分かると思ったけど?」

 「ショタジジイの魔法は理不尽なものに決まってるから外見も魔法でどうにかしてると思った。」

 「・・・あのねぇ。そんないじり方出来るなら大人の姿を取ってるよ、その方が面倒が少ないし。」


 「で、本当のトコはどうなのよ?」

 「一目で分かるよ、特に夜なら尚の事。髪の色素が薄い上にその魔力に応じて光るからねえ。この店の照明、昼でも点けてるの単なるお洒落イメージじゃないからね?」

 「そういや俺が着いた時には火も消えて完全に立ち去ってたからな、襲撃は夜だったかもしれねえな。」

 「全滅と思われれば、たとえそこに取替えっ子が居たと知っている人間が居ても死んだものと思うだろうしね。口封じと本来の目的隠しを兼ねた皆殺しだろうね。」

 「ミミルさ、髪に火がついたらしくて、頭と目の周り酷い火傷を負っててさ、ひでえ話だと思ってたんだけど、それが無かったらあっさり見つかって、今頃どっかに連れ去られてたかもしれねえんだよな・・・。」

 「禍福はあざなえる縄の如し・・・だっけ? いや、そんな顔しないで欲しいな、彼とはオタ話しかしなかったわけじゃないんだから・・・。君が髪の毛に擬態してウサ耳着けて『加護持ち』扱いになってるから、当分は『取替えっ子』だとはバレないだろうし、しばらくは平気じゃないかな?」


 「ま、色々聞けて助かった。・・・っと、本体とミミルがこっちに向かってるらしい。来たらなんかうまいもんでも食わしてやってくれる?」

 


 ◆

 ◆


 

 

 目をキラッキラに輝かせながら、あまりにもおいしそうにミミルがケーキを食べるものだから、一緒のテーブルを囲んだ冒険者たちが自分の分のケーキを一口フォークで差し出しては、それを「いいの?」という目線をしてから口に入れて至福の表情を浮かべる姿を見て悶えたり、同じテーブルに着けなかった同行の冒険者が羨ましそうな顔をしたりと喫茶店の中にミミル時空が発生している。


 ちなみにミミル時空では幸福感が極限まで高まり、体感時間と現実時間の間に大幅なズレが発生する!


 「それにしてもサリアたちのお師匠様のお店と聞いていたから、てっきり魔道具のお店とかかと思ってたんですが、こんな素敵な喫茶店だったんですね。」

 そんな尊敬の眼差しの冒険者の言葉にも「いや、魔道具店とか可愛い女の子来ないじゃない、あんまり。ローブ被った陰気臭い男の相手して暮らすなんて嫌だよ、僕は。」と平気で尊敬をぶち壊す台詞を吐くショタジジイ。

 ブレねえな、おい!


 可愛い女の子を「見る」のが好きな人間だと理解している俺はともかく、他の人間の前で言ったら単なる女好きだぞ?


 「いやー、それにしてもミミルちゃんは実に創作意欲が掻き立てられるね! ウサ耳白魔導師ローブとかどうだろう? いやいや、その前に安らかな眠りを守るウサ耳着ぐるみパジャマかな? テンション上がってくるよね?」

 「いいからモチツケ。美ショタマスターファンの女の子がひいてるじゃないか。」

 「いいや、これでお落ち着いていられるくらいなら、そもそも物作りをする資格が無いね! パトスとインスピレーション無くしたら単なる作業だよ!」

 職業的職人全否定かよ!


 「おいしかったでしゅ、ごちしょうしゃまでした!」

 「また遊びに来てね。」

 美ショタと美幼女で絵になる光景なんだけどなぁ・・・。

 「ミミルちゃんは可愛いなぁ、これで僕はあと十年は戦えるよ!」

 何と戦う気だよ、おい!


 「いやあ、ミミルちゃんの存在を知ったら、彼もアンデッドになってまでして復活してきそうだね。悔しがって歯軋りする姿が目に浮かぶようだ!」

 「史上最強の幻術師の田中さん?」

 「うん、百まで平気で生きそうな顔して七十そこそこで死んじゃったから嫌がらせで墓碑銘本名にしたんだよね。」

 「ソウルネームでなく?」

 「うん。」

 ニコニコと微笑むショタジジイに「こいつより先に死んではいけない」そう思う俺だった。




 ◆

 ◆




 「ミミルちゃん、最後にこっち向いて! はい、チーズ!」

 パシャリ・・・その時、俺に衝撃が走る!


 ウサルと共にミミルが立ち去ったのも気付かないほどだった。


 「そ、それは、まさか、カメラなのか?」

 「彼が携帯の電池切れて血の涙流してたからね、あんまり得意じゃない光の魔法とかも勉強して作ったよ。」

 「私めにもいただけないでしょうか、なんでもします、お願いします!」

 この世界に来て初めて土下座をした。

 この体になって「物欲」というものから完全に切り離されたと思っていた俺だったが、これは心の底から欲しい。


 「んー、いいよぉ。その代わりミミルちゃんの写真ちょうだいね!」

 がっちりと握手を交わす俺たちだった。



 ◆

 ◆



 

 ショタジジイからカメラを入手した俺は、ミミル撮影用の分身を作り上げた。

 緑と白と赤のイタリアンカラーの憎いヤツである。

 元ネタの名前はミミルが発音し辛かったので3号とした。

 背中部分をスクリーン状に変形させて、撮影した写真を表示出来る。

 更にはこれまでに吸収した素材を利用して葉書サイズ大の写真を、希望に応じて同じものを複数枚出すことも出来る。

 写真は汚れたり破れたりしないよう加工済みだ。


 夕食前のひと時は大撮影会となった。


 みな自分とミミルが一緒に写った写真を見てニヨニヨしている。

 夕食のハンバーグを前にミミルもニコニコしている。


 召喚勇者たちがもたらしたというハンバーグは、それ以前からあった串焼き、シチュー等の煮込み類と共に、代表的なモンスター肉加工料理のひとつとなっている。

 つくねっぽいものはそれ以前からもあったという話だが、パン粉や玉子も混ぜたハンバーグは圧倒的な支持を集め、特に子どもが好む料理の代表格ともなっているそうだ。

 「おいしいでしゅよ、うしゃるたんもあーん!」

 さんざんケーキを食べさせてもらったミミルは人に物を食べさせてもらうことを覚え、それを自分がウサルにやってあげようとしている。

 ぐぬぬ、この分身、どこまで俺に嫉妬させるつもりだっ!


 ウサルは必要が無いだけで普通に食事は取れる。

 吸収した栄養の一部は本体を通じてミミルに送られることになるから無駄にはならない。


 ならないんだが・・・「腸をぶちまけろ!」ってやりたくなるのは仕方ない・・・腸無いけどな。


 あの後、ショタジジイと更に話をして、ミミルの村を襲った連中がまた近くに来たり、別のトコや人を襲ってるのを見たりしたら殲滅しても構わないとの言質を得た。

 同じ取替えっ子であるという境遇から来る同情だけでなく、ミミル本人も相当気に入ったショタジジイは、相手さえ特定されれば自分で手を下しかねない有様だったし。

 二人して黒い笑みを浮かべて、認識阻害の魔法がかかってなければ客が逃げ出していたことだろう。


 ミミルがこの国で平和に育ち、町や国に愛着を持つのはこの国にとってもプラスだ。

 そういう理屈で説得すれば、国の上の方も理解するだろうという話だった。 


 お腹がぽっこりと膨れるまでハンバーグを食べたミミルはちょっと苦しそうだ。

 俺による活性化もあるから、割とあっさり消化するだろうけどね。

 昼間のケーキは既に消化済みだし。


 色んな人と一緒に撮ったたくさんの写真を見て、また嬉しそうに笑うミミル。


 この笑顔を守るためなら国の一つや二つ、相手取って見せますよ!?




もしかするとなんかのフラグが立ったかもしれない

(田中さん復活とか・・・)

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