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ょぅι゛ょとシャボン玉

お待たせしました


「うしゃるたーん、こっちこっち!」

 たたたーっと先に駆けていっては、ニコニコとウサルを手招きするミミル。

 町の人たちも思わずほっこりとする全開笑顔だ。


 ミミルの足元には子犬サイズになったイヌル。

 幼女と子犬という田中さん悶絶モノの組み合わせである。

 季節が変わり春になったということと、ミミルも成長して少し大きくなったこともあって、新しい服を買いに来たのだ。

 ガーデオによれば、この「成長」は加齢によるものではなく、レベルアップによるものらしい。

 まあ、どの程度レベルアップによる恩恵があるかは不明だが、不自然に見えないという点ではいい要素だよな?


 生憎とアマンダは昼の仕込みで同行出来なかったが、前回の洋服購入時には一緒に行けなかった女性冒険者たちが、一週間前からスケジュールの調整をしてゾロゾロと付いて来ている。

 普段は自由に動き回って撮影をしている3号はそうした女性冒険者に抱えられては、色々と写真の注文をされている。

 ミミル専属カメラマンとして、その内個展でも開けるのではないかと言うくらい、実は名前を高めている3号である。


 ウサルたちは最近新しい芸……違った、能力を身に着けた。

 最近のレベルアップはステータスの上昇がほとんどで、新しいスキルを覚えるということは無かったのだが、今回のレベルアップで「一度でも取り込んだことのある植物ならなんでも体から生やせる」という能力を身に着けた。

 

 一見、地味だがなかなか凄い、特にミミルを楽しませるという点においては優れた能力である。

 季節外れの花や果物、野菜といったものを何時でも見たり、食べたり出来るようになったのだ。

 ウサルが出来るということは、当然、本体である俺も出来るんだがな?

 ウサルが魔法でやったということにして、ミミルの頭にタンポポを生やした時はアマンダの宿に居た冒険者の中には、その愛らしさに鼻血を出した者もいたくらいミミル+花は破壊力があるため、常用はしていない。


 そんな訳で、最近のウサルは日替わりで朝一のミミルのリクエストに応じて、頭の上に花を咲かせている。


 今日の花は真っ赤なチューリップ。

 ウサルがミミルを追いかけてピョンピョン跳ねる度にゆらゆらと揺れている。

 擬態ではなく本当に咲いているため、匂いもきちんとする。

 

 季節の先取りで夏物も選んでいて、ノースリーブのワンピースに合わせて麦藁帽子なんかも被ってみたり、その飾りとしてウサルがヒマワリを生やしてそれを帽子に付けてみたりと便利に使われている。

 鏡を見たミミルが嬉しそうなんで、苦労や手間なんて思わないけどな?


 今度はちょっとお嬢様っぽい薄手のカーディガンとの組み合わせか?

 元が良過ぎてなんでも似合っちゃうからな、ミミルは……。

 取り敢えず、ミミルが疲れた様子を見せたら冒険者たちにブレーキをかけるってことにして、基本、好きにさせとこう。

 自分たちが普段、防御力とか便利さとか優先のファッションになっちゃう分、冒険者の女性ってこういう時、思いっきり可愛かったり、「いつ、どこでそれを着るんだよ!」ってものを選んだりするけど、買う、買わないは別にして、それもミミルが嬉しそうにしているから、良し!

 宿に帰ったらミミルファッションショーの時にでも一杯ずつおごってやるか!?



 ◆

 ◆



 結局、当初の予算の三倍で買い物はなんとか納まった。

 2号と4号が稼いでるから、それほど節約は必要無いんだが、流石にモノには限度ってものがある。

 本人は色々な服が着れて大喜び、周囲もそんなミミルの可愛い姿を見れて大喜び、お店も品物が売れたというだけでなく、それをミミルが喜んでくれる姿を見れて大喜びなのだが、物理的に持って帰れる限界があるし、毎日、別の服を着ても一ヶ月以上のローテーションとかになると、一日の買い物としてはさすがに度を越しているだろう。

 

 ミミルは現在、楽しかったお買い物の話を嬉しそうにみんなに話している。

 一緒に行った冒険者たちも「これは私が選んだのよ」とか「ミミルちゃんにはやっぱりこういうのが似合うでしょ!」とか言いながら、自分が選んだ服を着たミミルの写真を他の人間に見せて回っている。


 ウサルは今日付き合ってくれた冒険者たちに、お礼として飲み物の一杯と共に自家製の花を一輪と、ミミルと一緒に写った写真を添えて渡している。

 それを見た仲間や他の冒険者たちが羨ましがって、次回の参加希望者は更に増えそうな按配だ。

 

 ミミルファッションショーはミミルの負担が大きいので、それぞれの服を着た時の写真を3号が変形したスクリーンに大写しにして見せている。

 画面が切り替わる度、「おおお」とか「きゃあ」とか声が上がって、普段とはまた別の盛り上がりを見せているアマンダの宿である。


 この店では少数派の男たちも、なんだかんだでしっかりとミミルの写真を鑑賞して喜んでいるが「流石に、買い物には一緒に行けないよなぁ」と肩を落としている姿には哀れさを感じる。

 その悔しさをバネにして、自分の子供が出来た時にかまい倒せ!

 ……嫌われない程度にな。



 ◆

 ◆



 今日のミミルは買ってもらった薄い水色のワンピースに早速袖を通したが、生地が薄めなため、その上からピンクのちょっとモコモコなカーディガンを羽織っている。

 見た目ふわふわでかさばって見えるが、重さはかなり軽い。

 ニシャちゃんが頬ずりをして目を細めている。

 ニシャちゃんは相変わらずミミルべったりで、引っ込み思案な点が改善された分、嫉妬深いところを見せるようになっていて、ウサルたちすら時にはライバル視したりする。


 シルバーくんは今日はお母さんとお出かけしているため、ミミルを独占した形のニシャちゃんは朝からご機嫌だ。

 アマンダの宿で朝食を一緒にとった後、部屋でウサルマットの上で少しゴロゴロとしながらお喋りをして、今から田中さんの駄菓子屋に向かうところだ。


 この町の遊びの仕掛け人でもある田中さんの駄菓子屋の店先では、新商品を家まで待ちきれずにその場で使ってしまった子供たちによって、ミミルやニシャちゃんが目をキラキラと輝かせる光景が広がっていた。


 お日様の光を浴びてキラキラと虹の輝きを見せ、風にそよぎながら空高くへと舞い上がっていく……シャボン玉である。


 田中さん自身は幻術で同じものを生み出せるが、凝り性のガーデオと二人で誤って口に入れても害が無く、目に入ったりしてもしみたりせず、何かに付着しても跡を残したりしないという安心、安全設計の特製のシャボン玉の液が作成され、オーソドックスな口に吹いて膨らませるものだけでなく、手に持って振って作る物や回転させて連続で飛ばす物など色々なタイプの物が作られたようだ。


 子供たちと一緒になって、嬉しそうにシャボン玉を飛ばしている田中さんに挨拶をし、ワクワクが止まらなくなっているミミルとニシャちゃんにシャボン玉を買ってあげる。

 色々なタイプがあるが、まずは基本の口で一つ一つ膨らませて飛ばすものだろう。


 シルバーくんが居たら、手に持って振って作るタイプの方がよかっただろうけどな?


 どうしても最初の内は液をつけ過ぎたり、息の加減がうまくいかなかったりで飛ばすことが出来なかったミミルだが、コツをなんとか掴んで飛ばせるようになると「うしゃるたん、うしゃるたん♪」と得意げに飛ばしては見せ、大きな物にチャレンジしては割ってしまって眉を下げ、ニシャちゃんと競い合いと忙しなく、それでいて嬉しそうにシャボン玉を飛ばしている。


 風で押し戻された誰かのシャボン玉が耳でパチンと弾けてニシャちゃんはびっくりしている。

 パチパチと目を瞬いて、それを見たミミルが首をかしげ、首をかしげたミミルを見てニシャちゃんが「なーに?」といった顔をして、いつの間にか二人して声をあげて笑っている。。

 大人の目線で見ると脈絡が無いが、こうした年齢ならではの感覚といったものがあるのだろう。


「どうです、この子供たちの笑顔とシャボン玉! つかの間とは言え、こうして楽園を地上に作ることが出来る。我輩、駄菓子屋やって良かったですぞ!」

 そのドヤ顔になんかムカついたんで2号で頭を叩いたが、それでも嬉しそうに田中さんは笑っている。


 そういや、このシャボン液の没バージョン、貰ったんで異次元収納にしまってあるんだよな……。

 没バージョンといっても性能的には製品版とほぼ同等なんだが、付いている匂いが果物の香りで「おいしそうだから飲んじゃう」子が出る危険性があるってので没になったものだ。

 ウサルの体内に一回取り込んで、口をラッパの様な形状にしてそこから量産したシャボン玉を飛ばす。


「うしゃるたん、しゅごーい!」

「なかにはいれちゃうくらいおおきいのにゃ!」

 ミミルやニシャちゃんだけでなく、周りの子供たちも大喜び。

 3号とイヌル以外で合体して、トランポリン状のウサルマットになり、中央からシャボン玉を飛ばすと子供たちのはしゃぎ具合が天元突破した。

 

 みんなではしゃいでシャボン玉飛ばして、ピョンピョン跳ねて、途中で人の入れ替わりはあったけど、気付けば空は夕焼け。


 子供たちもそれぞれのおうちへと「またね!」と言って帰って行き、ミミルとニシャちゃんもそれに笑顔で手を振ってアマンダの宿へ。

 一緒について来た田中さんは高いテンションで客たちに酒をおごってはいつの間にか3号に頼んでいた写真を見せてと大はしゃぎ。


 はしゃぎ過ぎてちょっと疲れちゃったミミルとニシャちゃんは夕飯を食べながらも既におねむな感じ。

 更なる盛り上がりを見せる食堂を後に部屋に戻った際には、既にミミルもニシャちゃんも夢の中だった。


 二人をパジャマに着替えさせ、着ていた服はハンガーにかけてミミルの安らかな眠りを守る仕事の開始だ。


 下の食堂ではまだまだ盛り上がりを見せているようだが、まあ、この程度ならミミルの眠りの妨げにはならないだろう。

 ミミルの寝顔を見ながら、また明日に備えて英気を養う俺であった。



シャボン玉を見上げると何故か口が開いちゃうんですよねぇ

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