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ょぅι゛ょとわたあめ

十円入れて自分で綿飴作れる機械って今でも街中にあるんでしょうか?



 ミミルと俺とウサルは神殿に来ていた。

 いや、自分の意思で来たわけじゃないぞ?

 拉致られてきたんだ。


「ミミルちゃん、可愛~い! ウチの子にならない!?」

 抱き抱えてほっぺすりすりしてる拉致犯。


 この神殿の女神さまなんだよなぁ~、まさか、こういう形で神に接することになるとは……。


「ほんと、申し訳ありません。悪気はありませんので、お許しください」

 神殿の偉い人っぽい、他の人より飾りの多い服着てるおじさんがウサルに平身低頭している。

 頭頂部がすっかりと薄くなっていて、苦労のほどがうかがえる。

 やっぱ、この世界の神様たちってフリーダムなんだな……。



 ◆

 ◆



 この世界の宗教建築物は大きく分けて二種類。

 一つは神殿、もう一つが教会である。


 神殿は神が自分で気に入った場所に自分で建てたり、人間に建てさせたりしたもの。

 教会は特定の神を信じる者がその教えを広めたり、神の手伝いをするために建てたもの。


 前者が神の家や別荘、後者が営業所と言ってもいいかもしれない。


 本体は割と上の方に居ることが多いらしいんだが、教会はともかく神殿だと時々降りてくる。

 だから、神様と直接面識ある人ってけっこういるんだよね、実は。

 田中さんですら亜神になりかけたってことを考えれば、別に不思議ではないんだが、前世の世界を考えると有名人レベルの存在の神様ってのに違和感を感じるのも無理はないだろ?


 で、このミミルの魅力にメロメロになってる女神様。

 実は、この世界ではかなりの有力者。

 旅行者、冒険者、船乗りたちからの信仰を集め、「迷子の守り神」とも呼ばれていて、お守りを持っている人の数は世界で一番多いのではないかとも言われているそうだ。


 確かにお守りが凄いんだけどね、この女神様。

 自分の家、帰るべき場所を指し示すんだ、このお守り。

 子どもに持たせる親も多いし、故郷を離れる若者への餞別としても、冒険初心者の必須アイテムとしても人気が高い。

「無事に帰ってきますように」、「無事に帰れますように」という気持ちや願いを叶える手助けをしてくれる、実に分かりやすい現世利益だな。


 逸話も多く、特に小さな子供が好きなのか、親からはぐれたり、迷子になった子供を自ら手を引いて送り届けたなんて話もよく聞く。


 弟さんも神になっていて、そちらは「旅人の守護神」と呼ばれている。

 こちらのお守りは目的地を指し示すというもので、この姉弟神のお守りをセットで持つ人もこれまた多い。

 ただ、弟神のお守りの方は、かなり強く目的地を願うか、はっきりとしたイメージを持たないと意味が無いらしい。

 おぼろげな記憶を元にとか、実在するかも分からない場所とかはダメだってことだな。

 それでもマジックアイテムとして通用しちゃうレベルのものが「お守り」として手に入るんだからすごいよな。


 で、元がダンジョン攻略のために作られたこの街にも当然の様に神殿があって、時々遊びに来るそうで、それがたまたま今日だったという話。


「ホント、ごめんね、姉ちゃん、迷子の守り神って言われてるけど、単なる可愛いもの好きだからさ……ほら、姉ちゃん、ちゃんと子供は自分のおうちに帰らなきゃいけないんでしょ? 抱えたまんまじゃミミルちゃんおうちに帰れないでしょ?」

「……うん。じゃ、じゃあさ、またミミルちゃんに会いに来れる様に、お姉ちゃん加護あげていいかな!?」

「あー、うん、いいんじゃないかな、僕の方からもお詫びに加護あげるよ」

 神殿の偉い人でもどうしようも無く、呼び出されたのがこの弟神。

 ふだんは威厳のある壮年の男性の姿を取っているのだが、姉に対応する場合は、この少年の姿になるのだそうだ(「そんなおじさん、お姉ちゃんの弟じゃな~い」と機嫌を損ねるのだとか)。


 女神の加護が胸の中央、弟神の加護が額の中央。

 額は実は俺本体側(ミミルと同化してこっちの意思では動かないが)なのだが、流石に神で、その辺は分かった上での処置らしい。精霊の加護が「力を与える」って感じなのに対して、神の加護ってのは何かあった時に力を通すためのラインを引くという形なので、イヌルの時の様なことは心配しなくても良いらしい。


 ともあれ、無事に神殿からの脱出に成功した俺たちだったが、ミミルがなんだか大人しい。

 可愛がられ過ぎて疲れちゃったのかと思って「疲れちゃったかい?」とウサルで尋ねても首を振る。

 加護のせいってことも無いだろうし「一体なんなんだろうな?」と思っていたら、ミミルが口を開いた。


「おそらのくもしゃんは食べられないんでしゅね……かみしゃまだったんでしゅね」

 雲が神だとは何を言っているのだろうと、可愛いミミルの言う事は全肯定の俺でも疑問に思う。


 歩きながらミミルの話を聞くと、俺や神官たちには若い女性と少年に見えていた神様は、ミミルには「光る雲」に見えていたらしい。


 そう言えば、普段の言動からはそういう「偉さ」が感じられないが、魔王すら騙した田中さんの幻覚による偽装もミミルには通じていない。

 ついつい、ミミルが凄いのは当たり前だと簡単に流していたが、神、それも一定の信仰を集めている神による偽装すら見抜いていた


 偽装を見抜く「真実の目」とでも言うのだろうか?


 ただ、田中さんがミミルを喜ばそうとしてやっている幻覚の場合は普通に楽しんでいるし、そもそもがミミル本来の目は火傷で失われて俺本体が修復・同化したものだ。

 この辺りについてはガーデオに聞くしかないだろうな?


 さて、そうなると現状の問題は「空の雲が食べられない」としょんぼりしているミミルをどう慰めるかということだ。


 わたあめって、原理的にはそれほど難しくない筈だよな?

 この世界なら火と風の魔法を組み合わせた魔法具でなんとかなりそうだよな?

 ミミルを喜ばせた後は、田中さんのお店で他の子どもたちも買える様にしてもいいし、何かお祭りの時に提供したりするのもいいだろう。


「ガーデオなら食べられる雲も知っているかもしれないよ、だから今度聞いてみようね?」

「でも、かみしゃまでしゅよ?」

「お空の雲が全部神様とは限らないよ? きっと甘くておいしい雲もあるはずさ!」

「あまいんでしゅか? ふわふわでしゅか?」と目を輝かせ出すミミルの口元からは「つー」っと透明な涎が。

「雲を食べる前にケーキを食べに行こうか?」

「がーでおしゃんのとこでしゅか! わーい!」

 ミミルがようやく笑顔になった。

 もっとキラキラの笑顔になる様に、ガーデオには頑張ってもらおうかな?




 ◆

 ◆



 ガーデオに田中さんも引き込んだ「ミミルに食べられるお空の雲をプレゼントしよう」プロジェクトが始動した。

 

「あっためて回すんだよな?」

「加熱して液体になった砂糖を、遠心力で小さな穴や隙間から飛ばして、それが空気で冷えて糸状になったところを割り箸に巻きつけて作るんだと我輩記憶しています。色を付ける場合は飴を細かく砕いてザラメの代わりにするんだったかと」

「回転と加熱だけか、原理としてはかなり簡単だね。必ずしも魔法を使う必要も無いんじゃないかな? 少しサイズは大きくなるけど昔、君が『内政チートだー! 産業革命だー!』って作った足踏みミシンの原理を応用すれば人力で回転させられるし……」

「我輩の黒歴史を簡単に暴露しないでくださいガーデオ!」

「いや、実際、君の作ったものは縫い目ガタガタで針も折れやすくてそのままじゃ使えたもんじゃなかったけど、改良されてしっかりこの国に広まってるよ? 僕も魔道具化したものを使ってるし」

「ノー!!! しっかり追い討ちまでかけてるじゃないですか!」

 

 へえ、ガーデオがミミルの服を作るのやけに早いと思ったら、ミシンなんてもんを使ってたのか!

 本題のわたあめの機械だが、子供用のおもちゃとかでもあったからそれほど複雑な仕組ではないと思っていたけれど、思っていた以上に簡単に作れそうで良かった。

 ガーデオと田中さんも乗り気でなにより。


「ふーん、こんな感じかな?」

 わたあめに関連した田中さんの飴細工に関する説明で、ケーキなどに使う糸飴を聞いただけで再現してしまうガーデオ。

 ……これだからハイスペック・ショタジジイは!

「お客さんも喜んでくれそうだね、いいことを聞いたよ」

 邪気無く笑うなよ、ドラゴン真っ青の高齢者のくせに……。

 裏のことも、人間の嫌な部分もさんざん見てきたのに、その笑顔を浮かべられるのは、最強と言われる魔法以上のチートと言っていいと思うぞ?




 ◆

 ◆



「うっわぁ……しゅ、しゅごーい! くもしゃんでしゅ! まっしろでふわふわでしゅ!」

「くも、おいしそうにゃ、たべていいのかにゃ?」


 完成したわたあめ機、ミミルとニシャちゃんの魔法のお勉強でのガーデオの店への訪問がお披露目になった。


 3号が残像を残す勢いで動き回って写真を撮っていることで分かる様に、ミミルの笑顔が天元突破しそうな勢いだ。

 もちろんニシャちゃんもニコニコ、ニシャちゃんのお耳もピコピコ。

 

 ミミルやニシャちゃんの顔よりもずっと大きいわたあめに二人がかぶりつく。

 わたあめしか見えなくなり、口に入れたら顔から離してお互いの顔を見て笑うミミルとニシャちゃん。

 ミミルのほっぺと鼻、ニシャちゃんの口の周りと前髪にわたあめがついている。


「あのね、あのね、うしゃるたん! あまいの! で、おくちのなかでとけちゃうの! しゅっごくおいしいよ!」

「たべて、あまいのはのこってるのにくもがなくなっちゃったにゃ! ほんとにおそらのくもにゃ!」


 二人は満足、それ以上に周囲の俺たちが満足。

 このプロトタイプは、この後、田中さんの駄菓子屋に置かれ、比較的小型な魔道具化したものと、屋台などに使う回転部分を人力(足踏みペダル)化したものが、ガーデオの発明品を扱う商会から販売されるのだとか。


 隙がねえな、ショタジジイ!

 自前の商会まであるのかよ!?

 まあ、俺としてはミミルの笑顔が見れたから細かいことはどうでもいいがな!?


 もっとミミルを喜ばせるために、俺も日本の伝統芸的な飴細工にでも挑戦しようかな?

 高度な金魚とかの細工は無理でもウサルの形なら作れそうじゃね?

 



おもちゃのヤツは作った後の手入れが大変だと言う話ですね

通販サイトなんかだと、そうしたわたあめ機用の色付きのわたあめの元とか売ってたりします

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