ょぅι゛ょとゆうしゃ
テンション低いとこの話は書けません^^;
「いぬるしゃん、ゴー!」
鬣の様な部分が変形した手綱を握り、毛が変形した鐙に足をかけ、腰を浮かせた姿勢でミミルが合図をするとイヌルが矢のように駆け出す。
俺やウサルの様な変形機能を有しているイヌルは当然ミミルの安全対策は行なっているが、見掛けによらず年齢不相応の運動神経の持ち主でもあるミミルで無ければ転げ落ちてしまう速度である。
どうやらイヌルは俺やウサルたちの技能的なものはしっかりと継承しているらしく、俺の得意技である見えない糸状の触手を伸ばすという方法も使っていて、急に何かが飛んできたり、ぶつかってきたりすることでミミルが脅威に晒されることを防ぐためにミミルを乗せている時は糸を自動展開している。
ロデオマシーンに比べればマシだが、短足で丸まっちいイヌルは体型のせいでどうしても走ると揺れる。
スムーズで高速なウサルへの騎乗に比べてかなりガクガクと揺れることになるミミルだが、どうやらそれが面白いらしく笑顔全開だ。
ニシャちゃんは流石にゆっくりと歩く時以外はイヌルに乗るのが難しいので、既にかなり乗り慣れたといえるウサルに乗っており、シルバーくんは元気に張り合って自分の足で走っている。
今日はシルバーくんの引っ越し祝いを兼ねたパーティ。
俺たちだけでなく、シルバーくんがこの町で知り合った男の子たちや、駄菓子屋の常連、それにシルバーくんのお母さんであるクレアさんの同業者の冒険者たちも顔を見せている。
こちらの町に比重を置いて暮らし始めていたシルバーくん親子だが、ホテル住まいだと怪獣サイズのお父さんが気楽に会いに来ることも出来ない。
それなのでこの町に来た当初から色々と物件を探していたらしいのだが、ようやく二軒並びで売りに出されていた家を見つけ、まとめて買い取って改装というか、一回全部ぶち壊して二軒分の土地をつなげて建て直したのだそうだ。
あるところにはお金はあるものだな。
家自体は割と普通の大きさなのだが、庭が広い。
元々の一軒分の敷地丸ごと庭になっている。
シルバーくんのお父さんが気楽に来れるつくりになっているそうで、既に昨夜の内にこの土地に精霊の祝福を与えていったそうだ。
前に建築中を見に来た時は草も木も無かったのが、何本もの木と草原の様な草が生い茂った庭になっているのはその「祝福」のせいなのだろう。
さすが、元・フォレストウルフの精霊である。
などと噂をすれば影で、一陣の風が吹くとそこにシルバーくんのお父さんが立っていた。
「お久しぶりです。息子がお世話になっております。」
「こちらこそ、いつもミミルと仲良くしていただいてありがとうございます。」
といった大人の挨拶もそこそこに「おとうさんだー!」「しるばーくんのおとうしゃんでしゅ!」「こんにちゎ!」と子どもたちに囲まれて、シルバーくんはお父さんの周りを駆けずり回るし、ミミルやニシャちゃんは前回同様お父さん登りをするし、他の子たちも最初こそ驚いていたものの、シルバーくんやミミルにつられてお父さんの周りで遊び始める。
「今日はわざわざありがとうございます」とクレアさんの挨拶に「これ、お祝いです」と2号と4号が獲ってきた鹿を丸ごと差し出す。
みんなが談笑している間、実は4号がずっとこれを担いでたんだ。
4号以外だとおそらくドン引きされる姿だったな。
4号は「まあ、4号だから」と何故か、そういった普通でないものを納得させる力を持っている。
この鹿、鹿とは言ってもれっきとしたモンスター。
巨漢の4号が担いでも実は地面に体がついちゃったりしてるんだよな。
コクヨウオオヅノシカが正式名、その名の通り黒曜石の大きな角が生えている。
うん、生き物なのに頭から鉱物が生えてくるんだ、この鹿。
角だけでもかなりの価値があって、貴族の館なんかにもトロフィーとして飾られたりしているくらいメジャーなモンスターだったりする。
鋭い角は下手な剣や槍を上回る殺傷能力を持っていて、狼や冒険者などでも返り討ちにあうこともある。
その肉は美味い。
宮廷なんかでもメインディッシュとして出されたりするらしい。
子鹿の方が美味いんだが、子どもも来る様な集まりに子鹿の死体ってのもなんなんで角の価値もプラスされる若いオスを狩って来た。
まあ、水族館行っても「綺麗」「可愛い」って言う人間と「美味そう」「腹減った」って言う人間が居るから一概には言えないけどな。
まだ、熟成されてないから今日食べるってのは無理だけど・・・残念ながら。
「あらあら、いいものをいただいてしまって」と魔力の手で受け取って家の中へ運んでいくクレアさん。
子どもたちが静かになったなぁ、と思っていたらシルバーくんのお父さんの長い毛を毛布の様にして寝てしまっていた。
下手なベッドより寝心地良さそうだな、ミミルも寝ちゃってる、シルバーくんもはしゃぎ疲れたのかすぴーすぴーと寝息を立てている。
冒険者たちは酒盛りモード、シルバーくんのお父さんの前にも樽が置かれているが、体のサイズからするとショットグラス程度にしかならない。
一息で飲み干し、後は子どもたちを優しい目で見ている。
今度は4号が酒を飲まされてるな・・・俺たち何でも吸収するから酔わないんだけどな。
ま、こういうのもたまにはいいか・・・。
◆
◆
「これもおいししょうでしゅ、これはこのあいだたべたし・・・ほねしゃん、これくだしゃい!」
アマンダのおつかいでお駄賃を貰ったのをきっかけにお小遣いをミミルにあげることにした。
お金は2号や4号がコンスタントに稼いでいるし、どうしてもまとまったお金が欲しければ素材を狩ったり、抽出したりで稼ぐことが出来る。
俺の異次元収納にはそうした素材なんかが結構入っているので、少なくともミミルが大きくなるまではお金に困ることはないだろう(取替えっ子に関する話がミミルに当てはまるなら大きくならないかもしれないだがな)。
これまではミミルにねだられたものをウサルが買ってあげるという形をとっていたが、お小遣いをあげてお菓子やおもちゃはミミルがその中から買うということになっている。
買って貰っている時もお菓子選びは真剣だったが、自分のお小遣いで買う様になって、いっそう真剣に時間をかけて選んでいる。
「けんでこうげきー!」
「ここはまほうだよー!」
「あぶない、にげろー!」
にぎやかな子どもたち、今はアニメではなく田中さんの幻術を駆使した新しい出し物に夢中になっている。
『いくぞ、正義の剣を喰らえ! ジャスティススラッシュ!』
『うぐあぁー、やられたー!』
幻覚の勇者が魔物を退治して、更にダンジョンを奥へと進んでいく。
これはこれまでのアニメ再現技術をベースにゲーム的に数値を決め、更には子どもたちの反応で選択肢を進めていくというアニメ+ゲーム+紙芝居的な出し物だ。
「ダンジョンを進んでいくと分かれ道に出たよ。勇者はどっちに行くかな?」
田中さんが子どもたちに問いかけると子どもたちは思い思いに自分の考えを言う。
基本的に多かった声に従って話は進むが、「さっきはこっちの子の意見が通ったから、今度はこっちの子ね」といった形で融通はきかせているようだ。
ずっと多数決ばっかりでいくと、最後まで自分の意見が通らない子がでてきちゃうからね。
悪ふざけで変な答えを言うとかならともかく、まじめに考えて言ったことが一回も通らないとつまらないし、理不尽さを感じてしまう。
どちらかというと多数決の少数派に成りがちであったであろう田中さんは、その辺はちゃんと分かっている。
ミミルもいっしょになって声をあげていて、自分の意見が通った時は手をパチパチと打って嬉しそう。
この勇者は田中さんによれば例の大友くんをモデルにしているのだとか。
いかにもな典型的勇者。
この見た目に近いのだとすれば、誰も途中で死亡リタイアするとは思えない主役フェイスだ。
恋愛沙汰抜きにしてもお姫様が死亡を信じられなかったのも分かる。
殺しても死にそうにないっていうか、平然と生き返りそうなナチュラルボーン主人公って感じ。
最後に真っ黒で首が三つあるドラゴン(ブラックキン○ギドラみたいな感じ)を倒した勇者は囚われていたお姫様を無事に助け出し、めでたしめでたしでエンディング。
某有名RPGの二作目のエンディングテーマをそのまんまパクって流してる。
子どもたちはみんなニコニコで拍手。
男の子たちは勇者ごっこを始めている子も居る。
ミミルもなんかウズウズしているのが分かる。
意外と肉体派のミミル、感情移入していたのはもちろんお姫様ではなく勇者だ。
駄菓子屋からの帰り道。
イヌルに乗ってウサルのかぶと(本体の髪変形)、ウサルのけん(1号の変形)、ウサルのよろい(2号の変形)を装備したミミルの気分は既に勇者だ。
ちょっと表面をツルツルした感じにして、ウサルの柔らかさはそのままだが、見た目はちょっと硬く見えている。
「うしゃるたんしょうびをしたミミルはむてきなのでしゅ! いぬるしゃん、ごーなのでしゅ!」
胸を張っておもちゃの剣を掲げ、丸々とした犬にまたがって町を進むミミル。
本人的には勇ましく格好いい姿だが、周囲の目はひたすら可愛らしく、愛すべきものを見る目だ。
「ミミルちゃん、これ持ってきな! おいしいよ!」
「いまのミミルはゆうしゃなのれす! ありがとうごじゃいましゅ!」
「かわいい勇者さまだね!」
勇者になりきっていてもお礼を忘れないミミルはえらいだろ?
ちゃっかりイヌルは串焼きを貰っている。
そのままアマンダの宿にまで進み入り口をくぐるとおいしそうな匂い。
「ただいまでしゅ、あまんだしゃん! おなかぺこぺこでしゅ!」
勇者も食欲には勝てないってか?
お腹もしっかり鳴っちゃってるしな。
来週は一時帰国で執筆出来ないので、今週中にもう一回は更新したいと思っています