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ょぅι゛ょとお子様ランチ

お待たせしました

 

 「おっかいもの~♪ おかいもの~♪ だいじなおちゅかい♪ しゅぱいしゅを、かいにゆくんだよ~♪」

 籐の様な植物製の買い物籠をぶら提げて、ミミルが歌いながら歩くと町の人たちの表情が皆少しずつ柔らかなものになっていく。


 今日はミミルが食堂を手伝う日だが、ニシャちゃんがお母さんとお出かけしていて不在、シルバーくんも街の男の子たちと遊んでいるため、時間が空いてしまったミミルが「なにか、てちゅだうことはないでしゅか?」とアマンダに尋ね、ちょうど切らしてしまったスパイスのお買い物という「おつかい」を頼まれたのが今の状況。

 重過ぎず、それでいてその重量の割には高くて、業務に必要なものとミミルが「おつかい」を重要なものと認識して、やり遂げることに達成感を感じられるおつかい、と色々アマンダも考えてくれている。


 「お手伝い」用のエプロンドレスを着て、弾むように歩いていくミミル。

 一歩一歩足を運ぶ度にスカートが風に揺れる花の様にゆらふわと動く。

 怪しい大きなお友達が湧いて来そうな光景だが、実の所、ミミルのおつかいコースの安全は確保されている。

 

 アマンダがおつかいの内容をミミルに説明している間に、今日は休日だったはずの冒険者たちがおつかい先のお店の方にあらかじめ事情を伝達に行ったり、道筋の安全確認や何かあれば事前の排除をするべく先行しているのだ。

 俺もかなりの過保護だという自覚はあるが、少なくとも宿の常連の連中は俺に対して「過保護過ぎるんじゃ?」とは言えない状況にあるだろ、これ。


 見た目はウサルと離れて一人でおつかいというレアなシチュエーションだが、実のところ、本体は一緒なので心配で居てもたっても居られないということは無い。

 ミミルは俺の存在は知らないので、一人でおつかいを頑張るのをウサルたちは食堂で待っているということになっている。


 だが、実の所、3号だけは隠れてこっそりカメラマンをしているんだけどな。

 スチルじゃなくビデオが欲しいトコだな、これは?

 これを記録に残さずして何を残す!?


 アマンダから渡されて、ミミルが首から紐で下げている小さな皮袋にはお店で支払うお金が入っている。

 紐の先はエプロンの内側に入っているが、ミミルはそのちっちゃな手でエプロン越しに袋を握っている。

 大事な物だと分かっているから落とさないようにと、初めてのお使いにウキウキ気分の中でもしっかりと考えているのだろう。


 普段の生活ではウサルが支払ったり、支払うまでも無くお店側が「ミミルちゃん今日も可愛いねぇ」と、くれちゃったりするので、田中さんとこで駄菓子とかを買う時以外でミミルが買い物をしたことは無かったりする。


 お金の使い方自体は計算のお勉強を兼ねても練習もしてるのだけれどね。

 実践というか、実地というか、そういう機会はあまりないのだ。


 ミミルに似合う可愛らしいお財布とか、お小遣い帳とか用意してあげるべきかね?


 「ごめんくだしゃーい!」


 お店に到着だ、さーて、ミミル、お使いはここからが本番だぞ?



 ◆

 ◆



 「ただいまー!」


 ミミルが無事おつかいを果たして食堂に戻ってきた。


 冒険者たちが拍手で迎え、アマンダがぎゅっと抱きしめる。


 冒険者の中にはタッチの差で戻ってきた連中も居て、しらっとした調子で「ミミルちゃんが戻ってくるのを待ってましたよ」という顔をしているが、微妙に呼吸が乱れている者も居る。


 「おちゅかいにたのまれたしゅぱいしゅ、かってきました! これ、おちゅりでしゅ!」

 「どうもありがとうミミルちゃん。たすかっちゃったなー! これ、お駄賃ね!」


 アマンダから貰ったお駄賃を誇らしげにウサルに見せに来るミミル。

 他の冒険者たちにも見せたりして、少しテンションが上がっているようだ。


 「無駄遣いしちゃダメだよ、ミミル?」

 「しまちぇんよー! こんどほねしゃんのおみしぇにいって、おかしをいーっぱい、かうんでしゅ!」


 ウサルでミミルとやり取りしつつ、2号でアマンダや冒険者たちに礼を言う。

 ミミルだけでなく、みんな何かをやり遂げた顔をしている。

 うん、なんかいいよね、こういうの。


 「これは、僕からミミルへのご褒美だよ! 頑張ったね!」

 そう言ってウサルが取り出したのは、ミミルのおつかいをしている最中に2号が買ってきたウサギの顔の形をしたポシェット。


 見ようによってはウサルにも見える。

 お財布だと落としてしまう可能性もあるので、小銭入れにも使えてハンカチなども入れておける小さなサイズのポシェットを買ったのだ。

 

 ミミルはさっそくそこにお駄賃を入れると肩からかけ、それを嬉しげに振りながら周りに見せて回っている。

 ジャラジャラと小銭の音がしている。

 

 「良かったわねー、ミミルちゃん!」

 「あい!」

 「それじゃ、ミミルちゃんの買ってきてくれたスパイスで、おいしいお昼ご飯を作りますか!」


 

 ◆

 ◆



 お昼のピークをミミルの笑顔とアマンダのテンションで乗り切って、お手伝いの時の定番の少し遅いお昼ご飯。


 昼の定食で余った素材にひと手間かけて、田中さん辺りに聞いたのかアマンダはお子様ランチを作って出してきた。


 「うわーい、あまんだしゃん、こりぇ、ミミルがたべていいの?」

 

 アマンダの作る料理はいつもおいしいので、食事時にはミミルの目が輝くが、今日はいっそうキラキラと輝いている。


 ハンバーグには目玉焼きが乗って、付け合せにはウインナーが入ったナポリタン。

 エビフライもサラダもあって、ご飯は小さめのオムライスになっている。

 スープはあっさりしているが手間のかかったコンソメ。

 カリカリのクルトンが浮いているのが嬉しいところだ。

 それらが乗ったプレートは・・・「うしゃぎしゃんでしゅ!」になっている。


 このプレート、ガーデオ特製だな、きっと。

 

 「そうよ、ミミルちゃんのために作ったの、おいしいわよ~!」

 「ありがとー、あまんだしゃん! いただきましゅ!」


 待ちきれない様子でお礼といただきますを言うとさっそくフォークを持ち、エビフライに突き刺すミミル。

 一口食べてはニコニコ、次に何を食べようかと真剣な眼差し。

 スプーンに持ち替えてオムライスへ。

 「野菜もちゃんと食べなさい!」と言われる前に自分からサラダを食べて(偉いぞ!)、コンソメスープで一息。


 大人になっちゃうとお子様ランチが食べられないのはネックだよな。

 大人向けの定食よりよっぽど美味そうなお子様ランチを出すレストランとかあると、「くそっ、食いてえなぁ!」とか思ったもんだ。


 子どもの時はなんか恥ずかしくてあんまり頼めなかったけど、今思えば頼んでいい年齢の時にもっと食っとくべきだった。

  

 ミミルの足元(というより椅子に座ってぷらぷらさせている足の下)ではイヌルもご飯を食べている。

 余りモノ中心だが、前世の俺よりよっぽどいいものを食っている。

 骨とかあってもバリバリ食ってる。

 この辺はやっぱ狼だよなぁ。

 ウサルや俺だと「食う」ってより「吸収する」だからな。


 俺らがまったりとしている中でもミミルは健啖ぶりを発揮して、最後に取っておいたハンバーグと目玉焼きの黄身をぱくり。

 幸せそうな顔で「ごちしょーしゃま!」と手を合わせた。


 これだけおいしそうに、うれしそうに食べてもらえれば、アマンダもさぞ満足だろう。


 「はーい、ミミルちゃん。デザートですよー!」


 ガーデオに張り合ってるのか、最近、アマンダはデザートにも凝り出したんだよな。

 ミミルも女の子、当然「甘いものは別腹」。


 嬉しそうにデザートのマンゴー(っぽい果物)プリンにスプーンを入れた。




 ◆

 ◆


 

 朝と午後のイヌルの散歩はミミルの担当だが、夜のお散歩は2号と4号の担当だ。


 加護の塊イヌルは、かなり俺やウサルたちとは異なっていて、本能的なものに左右される部分が多い。


 この散歩への欲求もそのひとつだ。


 ミミルとの散歩の際にはミミルでも散歩させられる小さな子犬サイズか、ミミルを(場合によってはニシャちゃんも)乗せて歩ける大きなサイズを取るイヌルだが、2号たちとの散歩の際には本来のサイズになって、かなり積極的に歩き回る。マーキングはしないけどな?


 つまりはミミルとの散歩は飼い主とのコミュニケーションの一環、2号たちとの散歩は運動欲求に従った本気モードというわけだ。


 夜になると見慣れた町もかなり雰囲気が変わって、ミミルを歩かせるには問題のある場所なんかもあったりする。

 2号や4号の顔馴染みの冒険者たちも昼よりこの時間帯の方が遭遇することが多い。


 「あ、2号さんチーッス! なんか・・・凄い犬? っすねぇ、モンスターっすか?」


 「こんばんわ、4号さん、今日も筋肉にキレがありますねぇ!」


 「あら、2号さん。先日はどうもありがとうございました。」


 「おう、2号さんとミミルちゃんトコのわんこか!」


 「いつもの串焼き10本だね、まいどあり! にしてもその犬の食いっぷりはすげえなぁ!」


 2号と4号が遠出をした時以外は定番のコースも既に決まっていて、だいたい一時間くらいかけて散歩をする。


 帰ってくる頃には大体ミミルがお風呂から上がっている。


 「おかえりなしゃい、いぬるしゃん、2ごうしゃん、4ごうしゃん!」


 イヌルに抱きつきながらミミルが迎えてくれる。


 先にベッドに横になったイヌルに抱き抱えられる様にして、ウサルを抱えたミミルがベッドに。


 2号が窓、4号がドアの側に立って、ミミルの「おやしゅみなしゃい!」の声と共に灯りを消す。


 ミミルも寝つきがいいが、イヌルも負けてないんだよな。


 こいつ、寝言も言うし、俺らと違ってしっかり寝てるみたいだしな。


 まあ、「ミミル第一!」という基本部分が一緒なら問題ないだろ?


 「わふぅ・・・。」


 ホント、こいつなんなんだろうな?

 俺以上の謎存在だぞ、イヌル。

 


たぶん、イヌルは巨大化して怪獣サイズにも成れます

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