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ょぅι゛ょと髭モジャ

人間と接触します

 森を通っておそらくは街道なのだろうと思われる道に出た。

 轍の跡も残ってることから、馬車、あるいは馬に相当する生き物が引く車がそこそこの頻度で往来するのだろう。


 ここまでの道筋、ウサルとお喋りしながらやってきたミミルだが、この子の体力、なんか凄い気がする。


 断言出来るほどしっかりした記憶は残ってないが、人間だった頃の俺でさえ息を切らしそうな森の中の道なき道筋を、ミミルはウサルとお喋りしながら、時々はスキップすらしたりして歩いてここまで来たのだ。


 ミミルが凄いのか、この世界の人間が凄いのか、比較対象がいないから分からない。


 まあ、はしゃぎ過ぎて途中で一回コケたけどな。

 膝小僧すり剥いて血が出てたんで、体の中に非常用として確保しておいた水(当然、ばい菌やらなんやらは生体ろ過済み)で洗い流したんだが、水が乾く間もなく傷口が消滅していた。


 生体活性化の時に力を入れ過ぎたらしい。

 純粋な寄生体である俺ほどでは無いが、宿主であるミミルも人間からすると「超絶」と言っていいほどの回復力を身につけてしまったようだ。

 ちょっとした切り傷、擦り傷程度なら瞬くうちに回復してしまう。


 痛みと見えた血で泣きそうになっていたミミルも、すぐに痛みが止んで血どころか傷口すら消えてしまったので、べそをかきかけた口のまましばらくとまどっていた。

 笑ってしまうのも悪いが「ほぇ?」という声が聞こえそうな表情のまま、傷口があったあたりを見つめるミミルは実に微笑ましい。

 撫でくり回して抱きかかえたいほどだ。


 宿主がケガや病気をしないよう気を付けるのも寄生体としての嗜みだが、命に関わったり、後に残る様なケガでない場合、それを未然に防いでしまうのも別な意味での危険を増やすことにもなりかねない。

 この辺り、他の寄生体の意見も聞いてみたいところだが、俺の様な知性を有した寄生体が居るのかも分からないので、代替案としては子育て経験のある人間に聞いてみるべきだろうか?


 そう、人間・・・。

 この世界に生まれて(?)以降、生きている人間はミミルしか会ったことの無い俺だが、村の状況を見る限りかなり物騒なことも起きているのは確かだ。

 かといって人間に全く接しないで生きていくというのも、宿主であるミミルが人間である以上望ましくない。

 理想としては親切な優しい人間の大人と接触して、その庇護下に入るのが望ましいが、記憶を失っているミミルも、ボロボロの異世界知識を抱えた俺も共にこの世界の常識が無い。


 なにが自然でなにが不自然なのか分からないのだ。

 現状ウサ耳を本人の希望もあって標準装備しているが、それを「化け物」扱いする人間が居るかもしれない。

 「違う」ということは人間、特に人間の集団においては排斥、攻撃の対象にされやすいということに繋がる。

 物理的には俺が完璧に守り通す自信はあるが、心を守るのは難しい。


 ・・・ってせっかくミミルとウサル使って楽しく話しながら、色々とこれからのことを考えてたのに鬱陶しいモンスターだな。


 知覚力に優れているのか、こっちの防衛ラインギリギリの線をずっと追いかけてきやがる。

 群れ作るモンスターって厄介だよなぁ。

 群れのリーダー分かれば少し楽になるんだけど・・・。

 面倒臭え、まとめて殲滅だ!

 ヒャッハー!

 汚物は消毒だぁー!

 



 ◆

 ◆




 ミミルが少し疲れた様子を見せたので、巨大化したウサルの背中(頭?)に乗せて道を行く。

 ウサルの普段の動きは飛び跳ねる様な移動だが、ミミルを乗せているため俺が寄生する前にやっていた様な這いずる動きに変えている。

 その気になれば四足歩行や多足歩行も出来るが、ミミルの乗り心地、安全性が最優先である。

 個人的には六脚歩行とかもやってみたいトコだったが、歩行というのはどうしても重心移動が起きるため、乗っている人間の体は移動時には常時揺られることになる。自分の趣味で宿主に迷惑をかけるなど寄生生物の風上にも置けない。

 

 見えないくらい細い糸状の俺自身で周囲の警戒は引き続き行っている。

 警戒と対処が目的なので、周囲に破壊を振りまいたりはしない。

 その気になれば周囲を更地に変えながら進むなんてことも出来そうな気がするが、必要は無いし、そんなことに夢中になってエネルギーを浪費して、主目的であるミミルの庇護に差し障りが出たら本末転倒である。


 座りやすい様にクッションと鞍の中間の様な形状、言ってみれば生体チャイルドシートに変形したウサルの上部でミミルはご機嫌である。

 自作の即興の歌なんかも歌ってたりする。

 「だいしゅき、うしゃるた~ん♪」とかウサルの歌なんかも作ってくれたりして、自分自身の分身でありながらウサルに嫉妬を感じる。

 自分の分身を憎しみで殺せる気がするとかヤバくね?


 さて、そんな俺の嫉妬の対象にもなっているウサルだが、俺から完全に独立している訳ではなく、長期間離れて存在することは出来ない。

 ミミルとスキンシップをしたり、近くに寄ったりした時などに俺本体と接続状態になってその存在を保っているのだ。

 よって今みたいに乗るという形でべったりくっ付いている状態は俺にとっても楽な状態。

 乗られて重い?

 自分の宿主で可愛い女の子だぞ?

 むしろご褒美です!

 このまま世界一周だって出来る気がするね。


 

 ◆

 ◆




 「ひげモジャ・・・。」


 俺とミミルの前に現れた男は、まさにミミルの言葉通り「髭モジャ」の大男だった。



 当然、唐突に現れた訳ではなく、その接近に俺は気付いていたが、モンスターや肉食の獣の様に問答無用で排除する訳にもいかず、一人きりで歩いていたことから会話などから「どういう人間」なのかの見当をつけることも出来ずに、警戒はしつつも接近を許したのだ。


 大きな斧を担いではいたものの、武器というよりは道具といった印象。

 周囲の動物やモンスターや人間を警戒するというよりは、森の木々の状態を確認している様な目線。

 物騒というか血なまぐさい印象はしないんだよな・・・。

 樵じゃね?

 体のでかさは脅威だが、なにかあればウサルと俺本体でミミルをすっぽり包んでしまえば問題ないだろう。


 そんな感じで俺たちの前には髭モジャの大男が立っているわけだが、俺らがこの髭モジャを怖がるなら分かるが、何故かこの大男の方が怖がっている感じがする。


 俺の本当の実力を理解したのか?

 警戒が必要か?

 

 「こんにちわ、おじさん。僕はウサル、こっちの可愛い女の子はミミル。」

 「え? こっちの白いふわふわが喋ったのか?」

 「あい、うしゃるしゃんはとってもものしりなの。あ、おじしゃん、こんにちわ、ミミルでしゅ!」

 「お、おう。・・・俺が怖くないのか?」


 おどおどした大男の前で不思議そうに首をかしげるミミル。


 「あー、おじさん見た目迫力あるからねぇ・・・。」

 きっと見た目だけで怖がられて子どもに泣かれたことが何度もあるのだろう。

 怖がられて「泣かせてしまう」ことを恐れてたんだな。

 宿主が人間であるミミルであるから俺も対応したけど、別の生き物に寄生してたら見た目で問答無用で攻撃してたかもしれないくらいの外見だからな。


 「こわい? なんででしゅか?」

 子どもの最強攻撃のひとつである「なんで?」がミミルの口から発せられた!

 髭モジャに999のダメージ、こうかはばつぐんだ。


 なんて小ネタはおいといて、ストレートに「なんで?」と言われると返答に困るもんだよな?

 大人が「なんとなく」で済ませていることや、あえて曖昧なままにしていることを指摘されて絶句するなんてことも良くある。


 たぶん、「本当、なんでなんだろうなぁ?」とか内心でため息をついているんだろうが、他人、しかも子どもの「感じた」ことに文句を言っても不毛だとも理解してるのだろう。


 見た目で苦労してんだなぁ、と落とした肩をポンと叩いて励ましたくなる俺だった。




 ◆

 ◆




 髭モジャこと樵のガルバンとミミルと俺は町へ向かって歩いている。


 ミミルが記憶を失っていること、どうやら怖い思いをしたらしいことなどをウサルの背中でミミルが眠っている間に髭モジャに説明した。


 ガルバンも今日は木を切りに来た訳ではなく、言ってみれば休みの日であって、それでも特にすることも無いので森の様子を見に来たのだというような話をしてきた。


 体が大き過ぎて街中の建物では窮屈であることや、見かけで子どもや女性に怖がられること、それに見かけの割に温厚なガルバンに絡んで自分を強く見せようとする馬鹿が居ることなどから、ガルバンは街から離れた場所に炭焼き小屋を作ってそこに住み込んでいるのだという。


 ああ、居るよな、自分が強い、勇気があるとか主張する為に、罪の無い鎖に繋がれた大人しい大きな犬を殴る小学生の様な馬鹿は。


 善人ではあるがミミルのためにコネクションを増やすという意味ではあまり役に立たないかもしれない、このガルバンは。

 ただ、ガルバンが気兼ねなく付き合える住人であれば、ミミルにとっても安全な相手であると思われる。

 いきなり玉石混交の大量の人間との付き合いが生じる様な、交友関係の広い人間で無かったことはかえって幸運だったかもな?


 久々の大人、同性との会話で、少し人間だった時の感覚を思い出した俺だった。




 ◆

 ◆




 人がせっかく宿主の安眠を守りつつ、この世界の住人とコミュニケーションを楽しんでいたというのに、空気を読まない馬鹿が近寄ってきた。


 偽ガルバンといった感じの髭モジャが現れた。

 目つきが悪く、衛生状態も悪そう、要は臭そうなヤツだ。


 ニヤニヤと笑ってるが、自分が絶対的に有利だとでも勘違いしてるんだろうなぁ。


 ガルバンの見てくれが手ごわそうだから、隠れた場所から仲間に攻撃させようとしてたみたいだ。

 まあ、とっくに排除済みなんだけどな?


 向こうがこちらを視認出来る距離まで近付いてきて、俺が気付かない訳が無いだろ?

 やり取りも確認したし、弓なんかを持ってやる気満々の完全ギルティだったから液体に近い状態にまでバラバラにしといた。

 元が人間だったなんて分からないんじゃね?

 こういうことをしている事情とかあるのかもしれねえけど、俺の宿主に害意を持って近付いた時点でアウトだ。


 で、この偽ガルバンも排除するのは簡単なんだが、いい具合に証人になってくれそうな人間が居る状態で「ちょっとしたデモンストレーション」をしてみようかな、などと思っているのだ。

 つまり「見境無く暴力は振るわないが、強くて悪意を排除出来る存在」であるという情報をガルバンを通じて他の人間に伝えてもらおうというわけだ。


 体の先端を硬質化すれば、切ったり、貫いたり、叩き潰したり、削ったり、噛み砕いたり出来るし、力を入れれば捻り潰したり、千切ったり、ひん曲げたり、軟体動物にしたり出来るけど、思いっきり手加減して、マシュマロ質感のままウサルの耳を巨大化させた拳の形にして、全身を均等に同時に左右から挟む様にぶん殴る。


 柔らかいから血が出る様なことは無い。

 点や線に力がかかるわけでも無いから切れたり穴が開いたりはしない。

 ひたすら均等に、全身をいっぺんに殴る。

 傍から見るとギャグマンガやコントの様な光景だろうが、意外と神経を使う。

 力を入れ過ぎればどれだけ体を柔らかくしておいても致命傷になってしまう。

 水面ですら一定以上の高さから落ちればコンクリート同然になるのだ。

 全力の10分の1でも蚊を潰したのと同じ状態になる。


 3発も殴ると意識を失ったが、例え意識があっても全身打撲で動けないだろう。

 

 「山賊かなんかみたいだね? 真面目に働いてご飯が食べられないという訳でもないだろうに、なんでこんなことをするんだろうねぇ、人間の考えることは僕には分からないや。」

 人外宣言しつつなんか縛る物でも、とガルバンを促す。

 

 「引き摺ってけばいいんじゃないの?」と言ってみたが、ガルバンは結局肩に担いで歩くことにしたようだ。


 一連のやり取りにも関わらず、俺が十分に配慮したとはいえ、ミミルはすやすやと眠っている。


 「寝る子は育つ」とは言うものの「あんまり順調に成長してすぐに大人になってしまうのも寂しいなぁ」などと思う俺だった。




超絶回復+超ハイペースレベルアップ+α+寄生生物無双+可愛さ∞=無敵

+αはその内明らかになります

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