ょぅι゛ょとエプロン
なんとかペースを戻そうとしてます^^;
「いらっちゃいまちぇー!」
元気なミミルの声が食堂に響く。
「げふぅ!」
なんかダメージ食らってるのが居るがそんなものはスルーだ!
ウサ耳ピョコピョコさせながら、笑顔でお出迎え。
ミミルサイズのちっちゃなお盆まで持って、エプロンドレスはもちろんガーデオの特製。
シミも付かず、しわも寄らず、万が一熱いものをこぼしても完璧にガードする耐熱付与、水やらシチュー類がしみ込まない耐水防御、ガサツな冒険者たちがうっかり振り回した手や足にぶつかっても怪我をしない物理反射、と安心の多重付与である。
もちろん、見た目も可愛い。
この年齢だからこそ似合う、これより大きくなってしまうとちょっと、もっと上の年齢になればかなり「痛い」ことになるピンクのエプロンドレス。
髪は動き回っても邪魔にならずに済むよう編みこまれた上でシニヨンに纏められている。
これ、俺の自力じゃ元に戻せるか怪しいぞ?
良くここまで編みこんだもんだよなぁ。
店は現在昼のランチタイム。
いつも通り満員だが、可愛いお手伝いの噂を聞いたのか、普段より客が多い気がする。
「しゅみましぇん。もうしばらくおまちくだしゃい!」
注文の合間にミミルは店の外に列を作っているお客さんに話しかけ、列の前の方に居るお客さんからは注文を聞いたりもしている。
喋り方が幼いんでちょっと頼りなく見えるけれど、ミミルの記憶力は優れている。こうして聞いた注文もしっかりと覚えていて、アマンダにきちんと伝えているのだ。
まあ、並んだ客たちの顔のとろけ具合からすれば、間違えたところで文句も出ないだろうが・・・。
「やっぱステーキは血の滴るレアだよな。」
「その血お前の鼻血だぞ?」
ようやく、といった感じで店内に入り、食事を始めた客の間では、そんなギャグマンガの様な光景も・・・。
「ミミルちゃん、注文いい?」
「あい! おうかがぃしましゅ!」
「A定食が1つと本日のおすすめ1つ。」
「えーてい、おしゅしゅめひとちゅじゅちゅでしゅね・・・あまんだしゃーん、えーてい、おしゅしゅめ、ひとちゅじゅちゅー!」
「うん、もう可愛いなぁー! 持って帰っちゃダメ?」
「気持ちは分かるがやめとけ! 街中敵に回すぞ?」
うん、お客さんが「遠いところ」に旅に行っちゃうとミミルも悲しむからな? 変なことは考えずにおけ?
◆
◆
「あのね、えっとぉ、みみるもおてちゅだいがしたいでしゅ!」
夕食後、のんびりといつものホットミルクを飲みながら、まだまだ手が空かないアマンダとお話が出来るカウンターに座ったミミルの一言に、飛び出して抱きついてしまったアマンダ。
料理の最中と言うことで、ウサルたちの連係プレーによるフォローが無ければ大惨事となっていたところだ。
それは客にも分かっていたのだろう。
4号がポージングをすると拍手が起こった。
時々、ミミルが果物を貰ったりする露店のおばちゃんのところで、おばちゃんの息子らしい、ミミルよりちょっと年上の男の子がお手伝いをしていて、回りの大人の人が褒めたり、お母さんに褒められて照れ臭そうにしていた姿を見かけたことがあるが、その影響だろうか?
唐突に思いついたというより、以前から考えていたことを口にしたという感じだ。
まだまだ、語彙の少ないミミルだが、自分の言葉でしっかりとアマンダに意思を伝えている。
言葉遣いと俺に会う以前の記憶を失っていることから、かなり幼く見えるミミルだが、物の考え方はしっかりしているし、お礼や挨拶もきちんと出来る。
記憶としては消えてしまっているが、村への襲撃でおそらくは亡くなってしまったであろうご両親がきちんとしたしつけをしていたのだろう。
「ミミルちゃんがお手伝いと聞いて!」
「ここはやはり可愛らしいエプロンドレスでしょう!」
骨だけでなくショタジジイまで来たのかよ!
引きこもりだったんじゃねえの?
あ、そう言えば「旅行」に行ってたっけ?
「ミミルちゃん、色は何色がいい?」
「んっとぉ・・・ぴんくがいいでしゅ!」
何の色か説明してねえじゃねえか!?
「半袖と長袖どっちがいいかな?」
「いや、ここは両方作って更に色違いも作るべきでしょう!」
いや、エプロンドレスばっかりたくさん貰っても困るからな?
「メイド服や、大正浪漫な給仕服も作るべきです!」
「ゴスロリとか、逆にスポーティな格好も要るね!」
なんか骨とショタジジイの周りに更に人が集まってきて、ミミルファッションショー開催決定の流れ?
まあ、そんな周囲は置いておいて、こうしてミミルはアマンダのお店をたまにお手伝いすることになったのだった。
◆
◆
「ミミル、似合ってるよ!」
「ミミルちゃん可愛い!」
「えへへ♪」
ガーデオが一晩で仕上げてくれたエプロンドレスを着て、ミミルはちょこちょこと動き回っている。
実のところ、ミミルはかなり力があるので一人前程度の料理ならば運ぶことは出来るが、背の高さが致命的なネックになって配膳は出来ない。
ウサルのフォローが入ればそれも可能になるが、「ミミルがお手伝いをする」ということが目的なので、なるべくウサルが付きっ切りでフォローするというのも避けたい。
そんなこともあって、ミミルのお手伝いは食堂に来たお客さんからの注文取りとなった。
前々からこちらが言ったことなどを後で口にしたりして「けっこう記憶力いいんじゃね?」と思っていたが、大人でも人によっては苦労する注文取りを問題なくこなしている。
やっぱウチの宿主は天才だよな!
「意外と即戦力になっちゃってるわね。下手な冒険者のバイトより使えるわ。可愛いだけで十分だと思ってたのに嬉しい誤算だわ。」
アマンダもベタ誉めしている。
なんでも冒険者としての稼ぎだけでは宿代や食事代に足りない、主に若葉マークの冒険者をバイトという形で救済措置を取る事があるそうだのだが、そうした連中よりミミルの方が役に立っているのだとか。
「またいりゃしてくだしゃーい! ありあとーごじゃいましたぁ!」
「ミミルちゃん、お疲れ様。お客さんの波もひと段落したし、ミミルちゃんもお昼にしましょ?」
良くお昼寝するから、そんなに体力が無い様な気がしてたが、ミミルは意外と体力もあるな。
体力がきつくなってくると起こりがちなミスとかも無く、今も充実した顔で「今日はありがとね、ほんと助かっちゃったわ!」とアマンダに頭を撫でて誉めてもらいながら作ってもらったスパゲッティを食べている。
ウサル?
ウサルは食器洗いフル稼働だよ?
現在進行形で・・・。
水を汲みに行かなくても異次元収納で貯めといた水があるからな。
「洗い物はまかせろー! ジャブジャブ!」って感じ。
人の食べるところを見て覚えたのか、ミミルはスパゲッティをフォークで巻き取っているが、どう見てもミミルの口より大きな塊になってるぞ、大丈夫か?
「おいちいね! あまんだしゃんはたべないの?」
「ミミルちゃんが食べ終わったら私も食べようかな?」
「おにゃかしゅきましぇんか? あまんだしゃん、あーん!」
「あ、ありがとう、ミミルちゃん! (モグモグ)とってもおいしいわ!」
そう来たか!
ミミルはやさしい、いい子だなぁ。
アマンダもウルっと来てる。
この手の不意打ちには大人は弱いよな。
たとえ好きな食べ物とかじゃなくても、凄く嬉しいよな、こういうの。
今夜来るお客はラッキーじゃね?
アマンダのやる気120%だぜ?
俺だってそうなる、誰だってそうだろ?
◆
◆
夜は流石に途中でミミルが眠くなってしまうので、お手伝いは昼間のみ。
それを聞いてがっかりしていた冒険者たちが大量に発生したが、まあ、しかたないよね?
それでも「おかえりなしゃいましぇー!」と宿に帰って来たところを昼間のテンションを引きずったミミルに迎えられて、ほっこりしていたし、暴れるとかそういった方向にはいかないだろう。
明日の昼の営業は今日以上の戦場になりそうだが・・・。
ミミルやウサルはともかくアマンダは大丈夫だろうか?
ミミルは今もまだエプロンドレスのまま。
製作者のガーデオも自分の店の店じまい後にやって来て、ミミルの姿に満足げな顔をしている。
同じ様にやって来た田中さんは意外と大人しいが、その視線はミミルの一挙手一投足に注がれている。
この観察眼が幻術に活かされているのだろう。
どんな激しいアクションでもスカートの中が何故か見えないミミルの幻術とかやりそうな気がする。
いつもは夜の方が賑やかなのだが、今日は昼間の方が凄かったので、少しまったりとしている様に感じる。
ここは酒が出るとは言っても女性客メインだからそれほど悲惨なことには(あんまり)ならないんだけどな、もともと。
度が過ぎるとアマンダの制裁措置が待ってるし。
ミミルはやり遂げた充実感でちょっと大人っぽくなったように見える。
俺のひいき目か?
でも、こう、少し凛々しくなったんじゃないかなぁ・・・。
昼間頑張ってお手伝いした疲れと、おいしい夕食をお腹一杯に食べた満腹感で沈没寸前か。
それじゃあ、おやすみなさいをして部屋に戻ろうか?
「あい! あまんだしゃん、がーでおしゃん、ほねしゃん、みなしゃん、おやしゅみなしゃい。」
7月の一時帰国前までは、この作品と他の作品を交互に更新していけたらと考えています