ょぅι゛ょと大きなつばさ
ミミルが空を飛びます
ショタジジイがあまりに五月蠅いので、今日のミミルの魔法のお勉強はニシャちゃんといっしょ。
シルバーくんの中では喫茶店は女性が多くてもみくちゃにされる怖い場所になってしまっているので、誘ったがこちらは来なかった。
初めて会うショタジジイにニシャちゃんは緊張気味だったが、以前のお勉強の続きで光の魔法を使うミミルを見てからは、そんな緊張を吹っ飛ばしてしまうほど魔法に夢中で、ミミルも最初にやった光の球を作る魔法の練習をしている。
「ニシャちゃんの場合、精霊の加護が付いてるんだろ? 魔法とか特に勉強しなくても平気なんじゃね?」
「人間、出来る事とやりたい事が違うってのは多いよね。精霊の力はわりと偏ってるから、将来的にニシャちゃんがどういう方向に進むかはわからないけど、選択肢を増やすお手伝いってトコかな?」
「爽やかな笑顔で建前を言うなぁ、このジジイは!」
「酷いなぁ・・・ミミルちゃんの魔法の勉強にもプラスになるかな? って思ったのもあるけどね。ミミルちゃんの場合、力が強過ぎて、逆に進展っていうか進歩が体感し辛いし、加護持ちの子は精霊のサポートを得てる様なもんだから制御が上手い子が多いしね。お手本になるかなって?」
「ミミルも精霊に好かれてるって言ってなかったか?」
「君に分かりやすく言うと有能な執事かメイドが一人付き添ってる状態が加護持ち、メイドや執事が大集団で何かしてあげようと競い合ってるのがミミルちゃん。どっちが、当人が何かしようとした場合上手くいくかは分かるでしょ?」
そういう例えだとなんか分かる気がする。魔法に限らずサポート役が多過ぎるとうまくいかないよな、色々と。
ニシャちゃんが練習をしている間、ミミルも光を変形させるという自分の課題に挑戦しており、光の球がうねうねと蠢いていて、何か怪しい生き物のようだ。
こう、爆発しそうな気もする。
「できましたっ!」
ニシャちゃんが指先に光を灯している。
ショタジジイの手本に比べると若干ほわほわと密度が足りない感じだが、それでもきちんと魔法の発動に成功している。
「にしゃたんしゅごいでしゅ!」小さな手をパチパチとたたき合わせて、ニッコニコでミミルも喜んでいる。
完全に気がそれてしまったので、自分が作っていた光は消えている。
それに気付いて一瞬眉尻が下がるが、すぐにニシャちゃんとその指先の魔法を見てニコニコ笑う。
「ミミルちゃんありがとう! こんにゃにはやくまほうをつかえるようににゃるとはおもってにゃかったよ! ガーデオしぇんしぇいもありがとう!」
ニシャちゃんもニコニコと嬉しそう。
・・・・・ショタジジイ、顔がデレデレだぞ?
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ショタジジイが珍しいことに用事でこの町を離れるということで、魔法の練習は次の一回はお休みなのだとか。
「あぶないことはしないように! 練習のし過ぎもダメだよ!」と、まるで親切なお兄さんの様な口ぶりでミミルたちに注意を与えている。
魔法のお勉強を始めたばかりのニシャちゃんには可哀相だが、どうしても行かなくてはいけない用事があるとのことで「そう言えばこのショタジジイ、お偉いさんだったんだよなぁ」と俺なんかはあらためて思い出した次第。
普段の幼女や少女を見てニコニコしてる姿からは想像つかないからなぁ・・・見た目はショタだし。
なんでも外国に行くらしい。
隣町かせいぜい首都だろうと思ってたら、引きこもりがちなジジイの癖に動くとなるとアクティブだな。
「おみやげおねがいしましゅ!」シルバーくんとお母さんのやり取りから「おみやげ」という言葉を覚えたミミルは、ここぞとばかりに覚えたての言葉を使っている。 お土産自体を期待しているというより、誰かにお土産をねだるという行為をしてみたかったって感じだな。
ショタジジイの場合、ミミルにおねだりなんてされたら喜んじまうんだけどな。
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「じゃあ、行くよ、5、4、3、2、1、Go!」
ミミルの頭の上で小さくなったウサルがカウントダウンをする。
俺本体の髪の毛を変形させて羽の様に大きく広げ、斜め後ろに突き出した二本の足の様な部分で大地を蹴り、大空へ飛び立つ。
本体は変形で薄く透明にカプセル状に覆い、ミミルが直接風を受けないようにしている。
見る人間がいないことは確認済みだが、もし見ている人間が居たら生身のまま髪の毛で空を飛んでいるように見えるだろう。
大空を滑空するミミル。
これは今後のミミルの魔法上達を見越して、ミミル自身に本体である俺の制御を部分的に行わせるためのデモンストレーションだ。
今後ミミルはおそらく加速度的に魔法を習得していくことになるだろう。
なんせ、本人の素質が桁外れな上に、教える側のガーデオも超一流だ。
この分野においては俺が下手に手を出すと、邪魔になる事はあっても助けにはならない。
俺の能力を使って最大限フォローするつもりではあるが、俺の「助けよう」という意識が邪魔になることもあるだろう。
幸い、分身であるウサルたちの能力は本体とさほど遜色が無い。
本体がミミルの頭から出来るフォロー程度であれば、ウサルたちが行うことも可能だ。
それなら、本体部分はミミルが自分で好きに動かせた方がいんじゃね?
そう考えた俺は「ウサルの魔法によりミミルの髪でもっと色々なことが出来る様にしてあげる」という虚構で、まずはウサルがどんなことが出来るか見せてあげた上で、本体がフォローしつつミミルが本体部分を操る練習をしようと考えたのだ。
将来的には意識のメインはウサルや2号たちに移して、本体の制御の大部分をミミルに委ねるなんてことも考えている。まあ、当分、先の話だけど。
ここのところは髪を拳の形にして、以前、ウサルが見せたパンチと同じ様なパンチをして見せたり(「ウサルパンチじゃなくてミミルパンチだね」と言ったら何故か照れていた)、ウサル自身が変形するような柔らかいクッション状にして衝撃を吸収して見せたり、雨が降った時に傘に変形して見せたりと少しずつ「こんなことも出来るよ」と見せてあげてきたのだ。
その集大成的なデモンストレーションが今回の大空への飛翔。
ミミルが今後、重力や風の魔法を取得すればより効果的に、より自由自在に使える様になるであろうものを、今の俺の力だけで行ってみせる。
ミミルカーに乗せた時の反応でも、ミミルは結構スピードが出るものが好きだったし、空を飛ぶ鳥を羨ましそうに見たり、ガーデオに「魔法がもっと上手になったらお空も飛べるようになるよ」と言われて目をキラキラさせていたし、きっと喜んでくれるだろうと、ウサルたちで実験を重ね安全性や何かあった時のフォロー体制まできっちり考えて、今回の飛行に臨んだのだ。
苦労の甲斐あって、ミミルは空から見る景色に「しゅごいでしゅ、しゅごいでしゅー!」と大喜びだ。
興奮しすぎて思わずよだれがつーっと垂れてしまうほど。
本人は全く気付いていなかったが・・・。
そんなお日様の様な笑顔全開のミミルの希望を聞きながら、行ってみたいという方向に動いてみたり、高く上ってみたりと楽しい空の旅。
いつまでも飛んでいたいと思うほどだが、ミミルの負担なども考え、あまり長時間は飛行せず、ゆっくりと着陸へ向かう。
リアルタイムで翼というか機体というか、髪の毛を変形させて浮力と推力を調整して速度を落とし、ミミルの足元にはウサルが変形して橇かスノーボードといった具合に変形して接地面のフォローに入って、ふんわりと着地。
着地してもしばらくは夢心地の様にぼーっとしていたミミルに心配になってウサルで「ミミル大丈夫!?」と声をかける。
なにかマズかったんだろうか、心に良くない影響があったんだろうかと不安になる。
そんなウサルの声に視線を向けたミミルは、ぼーっとした表情から「ニパッ!」と音が聞こえる様な笑顔に変わり「うしゃるたーん、ありがとー!」とウサルに抱きついた。
心配と不安でうろたえていた俺は、そんな俺の内心とのあまりの落差のある笑顔に圧倒され、今度はミミルに逆に心配されてしまうほど、ぼーっとしてしまった。
いやはやなんとも面目ない限りだ。
あらためてミミルの笑顔の破壊力を再認識した。
「ミミルに楽しんでもらえて良かったよ。練習すればミミルが自分で好きな様に飛べる様になるからね! 僕もお手伝いするから、ミミルも明日から練習だよ!?」
「ミミルがとりしゃんみたいにとべるようになるんでしゅか!? くももたべにいけるようになりましゅか? がんばりましゅ!」
ウサルでミミルと手を繋いで帰った。
最近は乗せて走ったり、お友達とミミルが手を繋いで歩いたり、4号までの多くの分身たちと一緒に歩いたりすることが多かったので、ウサルとミミル二人っきりという感じは本当に久々だ。
いつまでこうして手を繋いで歩けるかな、などとお父さんの様な気持ちになってしまった俺だった。
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ガーデオが帰ってくるのと前後して、これまで標高で一番高い位置にあったお城の順位が入れ替わったという話を聞いた。
それまでは山に囲まれた盆地にある古代の遺跡を基礎に用いた城が標高1630メートルで第一位だったのが、この国の北と国境を接している某国の王城が一夜にして城の堀を境に3000メートルの高さまで隆起してしまい、標高第一位になったのだそうだ。
そんな激しい変動にも関わらず、城下の建物には一切被害は無く、城の方も玉座の間が完全に崩壊した以外は被害が無かったそうだ。
なんとも不思議な話があるものだな?
うん、まさか誰かの仕業ってわけがないよな(棒
そんなことが出来る人間なんて居るわけが無いし(棒
いやあ、大自然の脅威ってやつか、怖いなぁ(笑
・・・・・・ジジイなにやってんだよ!
うん、まあ、「そういうこと」なんだろうけどさ。
玉座の間だけ壊すとか・・・・・・。
虐殺するよりよっぽど怖いわ!
今回はちょっと短めでした^^;




