秀才の過小評価
「おつかれ!いつも思うが君の体はいつ見ても健康体だな!食生活とか気にかけれるのかい?」
検査を終えた僕と鏡子さんは鏡子さんのおごりで完全個室のレストランに来ていた。
「まあそれなりには気にしてはいますよ。あまりコンビニ弁当や店屋物で済まさないようにはしてます」
鏡子さんは僕の注文したメニューを見て、うなずいた。
「なるほどだから君はそんなバランスのとれた食事になるんだな」
「もちろん外食でも基本的にバランスは気にして注文しますよ」
鏡子さんは思い出したように声を出して僕に提案してきた。
「……そうだ!例の生見さんを追っている『研究所』だが、どうやら北山彩音っという教授がやっている北山研究室が主体らしい。きっと、君の言っていたパンツスーツの女が北山だろう」
「そうですか……ありがとうございます」
まだ鏡子さんは付け答えることがあるらしく、さらに声をかけてきた。
「あとな、……どうやらこの件には『機関』も関わっているらしいんだ。あまり深追いして怪我をしないように気をつけてくれよ!」
「わかりました………」
……『機関』が関わっているだと!完全に他人事じゃなくなってきた。さらにこの『機関』が『あの機関』だったらこれは僕の清算しなきゃいけない過去の問題になる!
ついつい頭が白くなり険しい顔になってしまっていた僕に鏡子さんは付け加えるように言ってくる。
「ちなみに、わたしたち『院』は君たちの問題に一切かかわらないからな」
「わかってます。僕は僕の力でできることをするだけどです」
冗談めかしに鏡子さんは言う。
「君のできることって世界征服か?やめてくれよ。私はまだここにいたいのだからな」
僕はそれを聞いて険しい顔を少し緩ませた。
「そんなことないですよ。僕は世界征服なんかしませんし、できませんよ。できるとしたら砂場を作るぐらいですよ」
「そんなに自分を下に見なくてもいいのにな…まあ、なにをするにしても怪我をしないように気をつけてくれ」
「わかりました。なるべく安全にやります」
今の言葉を聞いていたからなのか、鏡子さんは安心したように微笑んだのだ。
「もうそろそろ、出るとするか。送って行くぞ」
「ありがとうございます」
鏡子さんは思い出したような顔をしてこちらを見ると、
「っあ!そうだ。広くん!もし生見さんに『院』について知りたい、って言われたら言ってもいいわよ。私たちは逃げるようなこともしてないし、他の学術島の陰を知っちゃったんだしね。ただその子以外には言わないようにね」
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僕は朝の講義に出るために七時に起き朝食をとっていた。
今朝のTVには昨日の男たちを閉じ込めたことなど放送されておらず。そのことが、彼らが『研究所』や『機関』の関係者であることを物語っている。
「やっぱり、どうにかしないといけないよな……昔の僕みたいな目に生見さんを合わせるわけにはいかない!」
なにか心の中で整理がついた僕は緑の革の鞄をもって家の玄関を開け、朝陽の当たる道路を歩き、日の届かない地下鉄のある駅に向かう地下道を進んだ。
地下鉄の駅では懐かしいにおいを嗅ぎながら、改札を抜けた。
「また、戻ってきたけどもう僕以外の誰かが傷つくのなんて見たくない。僕は僕のできることをやろう」
僕の乗った地下鉄は僕の意志と関係なく、暗闇の地下を進むのだった。