研究所と秀才
家についた僕らは話を始めた。
「じゃあ、まず僕から生見さんに聞いてもいいかな?」
「いいわよ。もちろん、あたしの聞きたいことも後で教えてもらうからね!」
「ああ、……さっきの地下鉄での会話の続きになるんだけど、検査を受けた場所とかって覚えてない?」
生見さんは思い出すように視線を上にやる。
「おぼえてないわ。第一、場所は明かせないとかで、外が見えない車に乗せられて検査室に連れていかれたもの」
「そうか……僕の聞きたいことはそれだけかな。生見さんの聞きたいこと、僕の答えられる範囲で答えるよ」
やっときた!っと、まるで迷子の子供が母親を見つけた時のように表情を明るくさせた。
「じゃあ、まず聞くわね。あんたの二つ目の集中力ってなんなの?」
「あれは気候を操る能力だよ。僕は『気候変動操作』って呼んでる」
それを聞いた彼女は納得したように頷くと、真面目ですがるような顔になり、
「なら、あんた、彼らを見ているときの顔とか、会話とか聞いてたんだけど落ち着きすぎじゃない…あの男たちについて知ってることはない?」
「そのことなら、キミがどんな組織に狙われているかわからないことには何とも言えないんだ…」
……彼女を追っているのが政府機関だったらどうしようもないからな…
「そうなの……」
彼女は行き先を見失ったようにシュンとした。彼女の顔を見ていたら、胸の内がチクリと痛み、次第に自分の説明できる範囲で彼女に説明してあげようと思った。
「…!ちょっと待ってて!」
そのために、ウッピーを取り出し画面を立ち上げると通話メニューを開き、『三島鏡子』を選択し通話ボタンを押した。
『もしもし、鏡子さん?』
『もしもし、どうしたの?』
『少し聞きたいことがあるんですけど、『院』で検査対象になっている被験者に生見愛華って女の子はいますか?』
『ちょっとまってね………いないみたいね。その子がどうかしたの?』
『いえ、少し気になったものですから……』
すべてを見透かしたように鏡子さんは電話の向こうで少し笑うと、
『フフ…何をしようとしてるか知らないけど、やるなら最後まで責任を持つのよ』
『……ありがとうございます。がんばります』
『隠す気ゼロね……すくすく。………プッ――――プ――』
電話が切れると僕は生見さんに向き直り。
「生見さん。もう安心してよ!キミを狙っている人間たちなら心当たりがあって、選択しが絞られたから話すよ」
落ち込んだ顔をしていた生見さんは顔をあげて、希望を持った顔でこちらを見た。
「ホントなの!?なら教えてよ!」
「わかったよ。……キミを狙っている組織は『研究所』か『機関』って言うところなんだけど、なんであそこまで熱心になるのかまでは分からない。脅すつもりはないけど、彼らに捕まれば、キミを監禁なり拷問をして強制的に自分たちに従わせたり集中力の研究などをされるだろうね」
少し震えた生見さんは意を決したように、
「そんなの嫌だわ!」
「そうだろうね。でも、彼らは諦めない……そこで僕が君を守って、身の安全を……」
僕の言葉の途中で、生見さんは身を乗り出してくる。
「なら!彼らを倒すために、あたしも『二重集中力』を使えるようなりたいわ。そのために、あんたでもわからない集中力の発生条件をあんたの生活とか観察してその秘密を知りたいの!…ダメ?」
「べつにいいんじゃない……って、ッハ!?」
かわいい声で『…ダメ?』っと聞かれてついつい聞き入ってしまい返事が生返事になってしまった。
「ホントに!わかったわ、じゃあ、この家でお世話になるわね!」
「……ヘ?」
僕は突然のことに間抜けな声をあげてしまった。
「言ったでしょ!『生活』を観察するって!」
「生活って、大学でのとかじゃないの!?そんなの…」
「うるさいわね決まったのよ!今日は突然だから、必要な荷物とか持ってくるわ」
「……拒否権はなしですか?…」
「アタシとの生活は……イヤ…?」
少し涙目を作りこちらを見る生見さん。
「イヤなんてことはないけど……」
それを聞いた彼女はニヤリと笑い、
「だったら、いいわね。明日の講義が終わったら、大学の図書館の前で集合ね」
「……わかったよ」
……どうやら僕に拒否権はないみたいです、母さん………。
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彼女を駅まで送って行った僕はその足で病院に向かった。
「っぷ、ぷはははは!何それ!広くん流されすぎ」
先ほどあったことを鏡子さんに話したら大爆笑していた。
「しかたないじゃないですか……」
彼女はまだ笑ったまま会話を続けた。
「じゃあ、広くんは明日からその生見さんとかいう娘と同棲生活なんだ、若いわね」
「そうなりますね……でも、僕の集中力の発生条件なんて見つけられるんでしょうか…?」
鏡子さんは笑いながらも真剣に、
「まあ無理でしょうね。ただの学生に見つけることなんてまずないんじゃない?第一、そんな簡単に見つけられたら『院』としての面子が丸つぶれだわ」
……確かに、そんな簡単にわかるわけがない…それはここの島の人間、学生なら分かっていることだ。なのに、彼女はそれをやろうとしている…彼女はそこまで追い詰められているのか…?
僕が少し考え込んでいると、鏡子さんがなにかの画像を印刷した紙を渡してきた。
「君の言っていた黒ずくめの男たちだが、キミは合うのは初めてだろうが、どうやら『研究所』の人間たちのようだ。詳細は調査中だそうだ」
「なぜ、わかるんですか?」
僕は不思議に思ったことを素直に聞いた。
「君から生見さんという娘の名前を聞いて裏ルートから調査をかけたところすぐにヒットしたよ」
「そうですか…わざわざありがとうございます。ただ、『研究所』が関係しているなら彼女のことは無視することはできませんね」
「礼などいらないよ。我々もキミにはいろいろ助けられている。これからも協力関係が続くようこちらがお願いしたいくらいだしね」
鏡子さんは僕に向かい冗談を言っているのではなく、本気の口調で話した。
「それにしても研究所ですか…やっぱり彼女の『集中力』目当てですか?」
「詳しくは分からないがおそらくそうだろうな。動物を操るなんて聞いたことがない…キミといい、その娘といい、なぜ君たちは意味のわからない力を手に入れてしまうのかね……」
鏡子さんは次は冗談めかしそんなことを言う。
「それは鏡子さんたちの仕事じゃないですか……」
僕は少しげんなりしながら、そう返した。
「君の仕事でもあるのだけどね……さて、今日も意味のない検査を形式的にしますかね」
「……鏡子さん!」
鏡子さんの投げやりな言葉にしっかりしてもらいたい、という意味を込めて名前を呼んだ。
鏡子さんはそれを笑いながら受け流し、カプセル状の検査機を用意し始めた。
「では、いつも通りこれに入ってくれないか。また、昔で言うCTスキャンの様な事をやって終わりだから」
「わかりました」
「じゃあ、始めよう」