イノシシ娘と地殻変動
二年前のことを考えていたら、今日が検査の日であることを思い出した。
……イノシシ娘のことを鏡子さんに相談してみるか。
「大学生になったんだから恋人くらいほしいよな」
長い間昔のことを思い出していたら、有と正輝がイノシシのことなど忘れていかにも学生らしい話題を語っていた。
「我は色恋沙汰など浮ついた話は苦手だが、清い付き合いならばしてみたいと考えておる」
そんな正輝の言葉に有は笑いながら、
「なんだよそれ。大学生で清いって、そういうのは最低でも高校生までだろうが」
「ならば、有は恋人でもできたのか?」
正輝の問いに有は気まずそうに顔をそむけながら、僕のほうを向き記憶の追憶を終えた僕をその目でとらえ、苦し紛れにこちらに話を振ってきた。
「広人はどうなんだ、いるんだろ?いなくても恋人とかほしいのか?」
「いいや、いないけど。ほしいとも今のところ思っていないかな」
僕がそう答えると有は首を左右に振り呆れ気味に、
「ハァ~、そういう態度がいけないんだよ。好きなタイプとかいないのかよ?」
「好きなタイプか……活発な子でほっそりとした子かな…」
「おいおい!ほっそりそしたって、アレが小さい子が好みなのかよ」
有はそれを聞くと、先ほどよりも呆れ顔で溜息をついた。
「わかってないな。アレこそが女性の魅力!勝ちだろうよ」
「アレとはなんなのだ?広はわかるのか?」
真面目に聞いてきた正輝に対して僕はなんと答えていいものかと悩みあぐねていると、
「アレって、もちろん胸に決まってるだろうが!なんだよお前ら、胸に興味なしかよ!」
「あたりまえだ!まず興味があったとしてもこんなところで喋らないし、女の人の魅力は中身だろ!」
「たしかにそうであるな」
「なんだよ!お前ら二人してもういい!オレは機械の中の女の子だけで生きて行くし、この娘たちは変なアクセサリー代や食事代もかからないし!かかるのは電気代だけだだし!」
有は少し涙目になりながら、コミーの画面を開くと悦に入りだした。
「……有よ、悲しくならないのか」
「……自分でわかっていることだろ…行ってやるなよ」
僕と正輝は、そんな有を冷めた目で眺めていた。その時、
「おい!おまえら、もう授業始まるぞ!」
教壇を見ると、講義担当の教授がこちらににらみをきかせていた。
「また、おまえたちか。またうるさくしてたら氷菓下げるからな!」
教授のその言葉に僕たち三人は口を閉じ前を見ることにした。
前をみるとこちらを眺めている女の子に目がとまった。
あちらも僕と目が合うと目を見開き、
「「あーーーーーーーーーーっ‼」」
お互いを指でさし合い、声を上げてしまった。
二人して教授に怒られ、一限が始まったばかりなのに教室から締め出されていた。
「今日の講義これだけだったのに……ガッカリだよ」
「それはこっちのセリフよ!あなた今日の朝、よくも私を置いていったわね」
今日の朝のことに不満があるのか、地団駄を踏みながら言ってきた。
「そんなこと言われても、絶対面倒なことに巻き込まれそうだったからね。僕は安穏とした生活をできるだけ長く続けたいんだよ」
「面倒なことってなによ!あたしは命狙われてたんだから…」
彼女は口では不満を言っているが、少し震えていた。
「それよりも、今朝の力は何!?あんたの集中力?なんで私の集中力が効くの?」
……感情豊かな子だな。さっきまでは怒っていたのに、すぐにおびえ出したり質問に夢中になったり。
「あの力は僕の集中力だよ。きみの集中力が効く理由は分からないし、きみの名前も知らないんだけど…」
「そうだったわね。あたしの名前は生見愛華。あんたの集中力を知ったんだから、あたしも言うのが道理よね。霊長類以外の動物を操る集中力のはずだったんだけど……今朝のことがあったからね…正確な詳細は分からないわ」
怪訝そうに眉をひそめてこちらを見ているが、突然何かひらめいたように目を見開くと、
「わかったわ!もしかしてあんた、豚野郎ね!」
「……はい?」
「だって、人に聞いたことなんていままでなかったんだもん。なら、残るは豚野郎ぐらいじゃない?それにあたし聞いたことがあるの。男の人の中には豚野郎って人種がいるんでしょ?」
純粋な目でなんなことを聞かれた僕は、
「……あの生見さん、豚野郎ってどういう意味か知ってるのかな?」
その問いに生見さんはゆっくりと首を傾げると、
「…?、豚みたいな男の人のことじゃないの?」
生見さんはまっすぐした目で質問を返してきた。
「……あとでインターネットで調べなさい。あと、人前でその単語を言わないように!」
「なんでよ!インターネットならあんたのウッピーでも調べられるでしょ!それで調べなさいよ!」
そう言うと生見さんは僕の手首に手を伸ばし、腕時計型の通信機器『ウッピー』を外そうとした。
「っちょ、ちょっと、ウッピー外すのやめてよ!待ってよ!」
生見さんにウッピーを外された僕の手首には二年前の腕輪の跡が姿を現してしまった。
「……これ何よ!?こんなのあるなら先に言いなさいよ」
「言う前にはずしたのは、生見さんでしょ!これはただの古傷で消えないからウッピーをつけてれば気にならないからそのままにしてたんだよ」
生見さんは少し痛ましそうに僕の手首を見ると、申し訳なさそうに、
「ごめんなさい……あたし勝手なことしちゃって…」
「別にいいよ、それに調べたければ調べれば。ただ騒がないでよ…」
……本当にわからない子だ。図々しいかと思えば、風船の空気が抜けるように急にシュンとしたり。
生見さんは僕のウッピーを手に取ると【豚野郎 意味】で検索を押した。
「………」
画面を見つめたまま固まった生見はただただ黙ったままで、
「………」
沈黙が気まずく僕も生見さんの顔を見詰めたまま黙っていた。
……よく見ると、生見さんは少し子供っぽい印象があるな。
「///」
だんだん赤くなってきた生見さんの顔は赤くなり、火山のように噴火しそうだった。火山と言えば、アスピーテやコニーデ、ベロニーテと溶岩の粘性によって火山の盛り上がり方に種類がある。日本の雲仙普賢岳はベロニーテに属し、富士山はコニーデに部類される。
「☆$#%*@¥」
「日本語をしゃべろうか……」
言語になっていない声を上げ騒ぎ出した生見さん。
僕はそれほど過激なものか?と、ウッピーの画面をのぞいてみると、動画を開いてしまっているではないか!?
【動画タイトル:監禁男 動画詳細……自主規制】
……よりによって、傷跡を見られた後にこれか!?
「あんたその古傷ってもしかして、…っこ、こういうことした後の傷跡でしょ!」
やっぱり勘違いされたよ……
「違うって。これはちょっと昔色々あって…」
「色々って何よ!?」
「それはちょっと……」
それを聞いた生見さんはまくしたてるように、
「やっぱり言えないことじゃない。……あれ?」
突然話す勢いを減速させ、頭の上に疑問符を浮かべ始めた。
「どうしたの?生見さん?」
誰かの学生証を拾い上げ、じっくりと眺めた。そして、訝しげに僕の顔を見ると目を細め、
「……あなたってもしかして、『異端の二重集中力保持者』の地島広人じゃない?」
「…ヒトチガイジャナイカナ。キット同姓同名ダヨ」
その返事を聞いて、生見さんは呆れ顔になり、
「あんた嘘つくの下手すぎ。それにしても、やっと納得できたわ。今朝の集中力は地理系統の上位集中力、『地殻変動操作』ね!噂で聞いただけだけど、本当にいるなんてね。都市伝説として語られるあんたは『集中力』を噂どおりならあと一つ持っているはずよ。あんたの集中力の一つはデータナビに登録されているけどもう一つは隠したままよね」
『データナビ』とはこの学術島の住人の個人情報が載っている戸籍の様なもので、名前と集中力の名前だけは一般にも公開されている。
「だから?それは噂だよね。僕はそんなことできないよ……」
これに対する返しにはなれている。さっきみたいな嘘と違い、これは虚偽。
生見さんは目を細めこちらを眺めてきた。
「ふーん、あっそうー。……だったら、確かめてもいいかしら?」
「確かめるってどうやってだよ…っま、まさか!」
僕の手を捕ると、彼女は、
「こうやってよ!…『あんたの集中力を2つとも少しだけ見せなさい!』」
すると、今朝のように意思に反して身体は勝手に動き、手を地面に着けた。
「これホントにやめ…『局地褶曲』」
僕が呟くと、地面が海の沖合いの海面のように波打った。
「これは『地殻変動操作』ね!あと一つは……」
僕の身体は手を地面から離し、その手を前に出すと、
「ホントにやめて!こんな格好じゃ……『局地寒冷化』」
僕の言葉を受けて、周囲の空気は熱を徐々に失い、春にも関わらず白い息が見えるほどに冷たくなった。
「さむ…ちょっと、あんた戻しなさいよ」
「君がやらせたんだろ!……『フラット』」
先ほどまでの地面に波うち具合や急に下がった気温は徐々にもとあった姿に戻っていった。
「あんた今のなによ?気温を操る集中力?」
「いやちょっと違うかな…一つわかってるんだからもういいでしょ」
彼女は意地悪そうな顔を浮かべて、
「あんたが答えないなら考えがあるわ」
また彼女は僕の手を捕ろうとするので、
「残念でした。もうその手には引っ掛からないからね」
彼女は慌てたように、
「ちょっと待ちなさいよ!小癪な……!」
キャンパスのベンチ近くにやってきた僕らはそのベンチの周りを回りはじめた。
「待ちなさいよ!」
「聞きたかったら捕まえてみな~」
端から見たらバカップルみたいである。
「……お前ら何してるんだよ」
声の主を見ると、有だった。有は蔑むようにして、
「講義を途中で退室させられたかと思えば、二人でイチャつきやがって!それに広人、オマエ恋愛に興味なかったんじゃないのかよ!」
僕は慌てて言い返す。
「違うよ!ただ話をしてただけだ!」
「どうしたら、話してただけで恋人オーラを出せるんだよ!その方法、教えろや……てか、教えてください」
有は僕に対する悔し涙か自分に悲観した涙かわからない涙を流しながら、こちらを見つめていた。
「そんな秘訣ないから……そういえば、正輝はどうしたんだ?」
まだ涙を浮かべたままこちらを見る。
「あぁ……正輝なら特売の時間を忘れてたとかで、帰ったぞ。それよりもその中学生は誰だよ?もしかして妹さん!?」
中学生と言われ頬を膨らませる生見さんを目のはしにとらえつつ、
「この人は中学生に見えるけど大学生だし、だんじて妹でもない!」
さらに頬を膨らませる生見さん。
……いつか爆発するんじゃないか?
「誰が中学生よ!」……ほら、やっぱり。
「第一、あんたは誰よ!通報するわよ」
その言葉を受けた有はなにか感動したように生見さを見つめ、拝んでいた。
「なんてキレイなツンなんだ。これほどのツンをオレは見たことがない!」
……やっぱりダメだこいつ…。
有のなんとも言えない言葉の意味は生見さんでもわかったようで、
「誰がツンよ!あたしは変態を喜ばせるために生きてる訳じゃないのよ!」
生見さんと有が言い合いをはじめてしまった。
……これ以上話してもキリがない。
「すまん有、今日はもう帰るわ。昼食は一人で食べてくれ…」
言い合いをしている二人に聞こえるように大きな声で話しかけた。
「変態であっても…わかったよ広人。じゃあまた明日な!」
振り返った生見さんはこちらをキッと睨み。
「逃げるんじゃないわよ!あんたには聞きたいことが山ほどあるんだから」
僕は心のなかで有に感謝しつつ、キャンパスの入り口に向かって駆け出した。
後ろではまだ生見さんの叫び声が聞こえていた。
「待ちなさいよ!絶対逃がさないんだから!」
僕は走ると、学校の横の建物を右に曲がり、地下鉄の駅まで遠くなるが回り道をして駅に向かうことにした。
地下鉄の入り口についた僕は後ろを振り返った。
「やっと振り切れたかな。」
後ろには生見さんの姿はなく、なんとかやり過ごすことができた。
しかし、ホッとしたのもつかの間であった。
前を見ると恋愛映画よろしく、生見さんが目の前のベンチに座り、こちらに向かってにこやかに手を振っていた。
「なんでそこにいるの!?さっきまで後ろにいたのに!」
ツカツカと音を発ててこちらに歩み寄ってきた。
「逃がさないって言ったわよね♪」
にこやかに告げると僕の手を捕った。
「もう逃がさないわよ。ここですべて話してもらってもいいけど、それはさすがに嫌でしょ。なら、人のいないところ行くわよ」
……手を振り払えばまだ逃げきれるかも。手を振り払おうと腕を動かそうとした瞬間、
「そうだ。一応やっておこうかしら。『手を離さないでね』」
かわいらいく命令を口にするが、生見さんの『集中力』を知っている僕は冷や汗が止まらない。
「あんた、手に汗かいてるんだけど…」
「ナンデダロウネ…」
僕の呟きを聞いた生見さんは顔を赤らめ、強い口調で、
「……っあ、あんたもしかして、あたしに手を握られて、緊張で手に汗かいてるわけじゃないわよね?」
「そうなるかな……」
素直に僕が答えると、さらに彼女は顔を赤らめた。
……まあ、緊張は緊張でも生見さんが考えているのとは、別の緊張だけどね。
「っふ、ふーん。緊張するんだ。」
あくまで興味無さげに振る舞う彼女は邪念を飛ばすように頭を振り、
「それよりも、この辺りで周りに会話を聞かれないようなところ知らない?」
「この辺りは学校に来る以外に来ないからわからないな…」
「まったく使えないわね。ビルの間の路地裏とかでも大丈夫かしら……言っとくけど、逃げようとしたらわかってるわね」
さらに恐ろしいことを言われ背中に汗をかき、鳥肌が立った。僕は手を握られたまま、ビルの路地裏に連れていかれた。
「ここならいいわね…なら、さっそく……!、またあんたたち!?」
後ろを見ると、黒のスーツを着た大柄の男性が三人とパンツタイプのスーツを着た女性がこちらを睨み、立っていた。
女はこちらを見て嘲笑うように、
「こんなところに男なんて連れ込んであなたなにしようとしてるの?もしかしてこれから何かしようとしてたのかしら。クスクス。」
生見さんは慌てたように声をあげた。
「彼は関係ないわ。あたしに用があるんでしょ。もちろん、彼は返してもいいわよね?」
「そういうわけにはいかないわ。彼は私たちがあなたを狙っているところを見てしまったのだから」
生見さんはそれを聞くと、自分の愚かさを悔やむようなに苦悶の表情を浮かべていた。
「少年も運が悪かったわね。この女とあったことを後悔して死んでいくといいわ。…お前たちやっちまいな」
「「「了承しました」」」
男たちは淡々と答えるとこちらに視線を移した。
「「「覚悟してもらうぞ少年よ」」」
彼らは再び乱れなく、声をそろえ声をそろえると懐に手を入れながら、こちらに歩み寄ってきた。生見さんは慌てたように声をあげた。
「このあたりに動物なんていないし…どうしよう」
……このままでは二人ともやられてしまう。あまりやりたくなかったけど仕方ない。
「まったく、もういいよ……。僕を敵に回したこと後悔させてあげるよ!」
僕は不敵に微笑むと歯をむき出し、手を地面に付けた。
「「「動くな!下手なことはするなよ!」」」
男たちは懐から警棒のようなものを取り出すと、その先から電撃を出した。
……きっとスタンガンだろう。確かに危ないものだ、…だが!
「残念だけど僕には効かないから、やめたほうがいいよ」
「「「そんなわけあるか!…そうか!おまえ天才だな!しかし、三人がかりなら負けはせん」」」
警棒型スタンガンを構え、彼らは一斉に襲いかかってきた。
「あなたたち三人にはこれで十分だ!『局地沈降、褶曲封鎖』」
朝のように男たちを取り囲む地面。
「「「……」」」
完全に男たちを取り囲んだが、ドーム状に盛り上がった地面はひびが入った。
「「「朝に食らった技だからな、対策ぐらいしてあるさ」」」
その中から現れた男たちは小型のピッケルを持っていた。
「へーやるんだね…でも、これで逃げさせてもらうよ。『地溝創造』」
男たちと僕たちの間の地面にひびが入り、男たちのいる側の地面がぐんぐんと下がり始めた。
「なによこれ!これじゃあ、追いかけられないじゃない」
「「「…ック」」」
彼らのいる場所は溝の底のようになり、地面の壁によって行く手を遮られた。
「今のうちに行こう生見さん!」
「えぇ…」
僕は生見さんと繋がったままの手を引き、彼女を路地裏から連れ出した。そこから駅に向かって歩き出した。
「彼らもすぐには動けないと思うけど、三十分ぐらいしたら地溝ももとにもどるようにしてあるから、今のうちにどこかに逃げよう!」
「でもあたし、あなたに……」
きっと、聞きたいことや申し訳なさがあるのだろう、彼女は思いつめたように俯いた。
「あやまるのだったら、別に慣れてるからいいし、何か聞きたいことあるならどこか落ち着ける場所で話そう」
「そうね……でも、あたしこのあたりほんとにわからないし。それに、家に来てもらうにしても駅が近くにないから徒歩で二十分ぐらいかかちゃうし」
「…しかたない、じゃあ僕の家で話そう。大したものはないけど勘弁してくれよ」
地下鉄の入り口生見さんはそう聞くと驚いたようにこちらを見て、
「やけに協力的じゃない!……もしかして、なにかしようってんじゃないわよね?」
「そんなわけないだろ!ただ落ち着いて話がしたいし、僕もキミに聞きたいことができたんだ」。
僕らが載っている地下鉄は、僕の家がある駅まで移動を始めた。少し落ち着いた僕は生見さんに話しかけた。
「まず、いまさらなんだけど、彼らは誰なんだい?」
「わからないわ。…ただ、検査?みたいなの受けさせられて、私たちの下でもっと有意義に集中力を使わないか?って言われて、断ったら今みたいな状態になったの……」
……ほぼまちがいない!きっと『機関』か『研究所』だろう。
生見さんと繋がっている手から電車の揺れだけでない小刻みな震えが伝わってくる。
「…そうか。」
女の子が怖がっているのに、そんなことしか言えない自分がふがいなかった。無言が続いた。
僕の家の最寄り駅に着いた電車から降りると、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。
……よし!
「じゃあとりあえず行こうか」
「ええ…」
「ちょっとメールするからごめんね」
僕は繋がっていない左手のウッピーの画面を立ち上げる。
「わかったわ。」
僕の家に向かう道すがら、僕は三島さんにメールを送り、検査の日程を夜にずらしてもらうことにした。ウッピーに手を触れ画面を出し、
『すみません。今日の検査ですが、夜からにしてください』
……ヴ―――ヴゥ――――
『わかったわ。それにしても予定どおりじゃないなんて珍しいわね。』
『すみません。どうしても都合がつかなくて』
……ヴ―――ヴゥ――――
『了解』
ウッピーの画面を閉じると、生見さんのほうに視線を移し、
「お待たせ」
繋がったままの手を再び引き進む。しかし、生見さんは足を止める。
「…メールを盗み見るつもりはなかったんだけど、今、少し見えちゃったの。あんたの操作してた画面に検査って単語が出ていたけど、なにかあたしの今の状況を知ってるの?……」
少し怪しむように僕を見る生見さん。僕は落ち着いて対応する。
「そのことも含めて話すことになると思うよ」