日常の終わり
ここ十年間で存在が確認されている、『集中力』という力をもった子供たち。
彼らの人数は地球上で確認されているだけでも数百万人いると言われ、日本でも約二十五万人の集中力保持者、『天才』と呼ばれる者たちがいる。そんな『天才』になるべく学を積もうとする子供たちが住む離れ大島…『学術島』がある。そこを訪れる子供たちは年間十万人にも上るが、『天才』になれるものは、年間一万人以下と、十%にも満たない。さらにその『才能』にはさまざまな物があるが、世界のおよそ八割ほどが単純な才能しか開花できなかった『天才』もいる。
ものを浮かす能力やテレパシーの二種類がほとんどで、この二つ以外が『下位集中力』と呼ばれ、その他が『中位集中力』と規格外である『上位集中力』に分かれている。天才になれるものは親兄弟が優秀であったりする場合が多く、遺伝によるものが多いと言われている。また、集中力はあまり解明できておらず、発生条件が『学力』によるものであること以外わかっていない。
そんな学社会の中で、この僕こと地島広人は『秀才』としては、この学術島で他の追随を許さないほどずば抜けているらしく、異端のデュアルコセントの持ち主で、二つの集中力がどちらも上位集中力である。
そんな学社会の中で、この僕こと地島広人は『秀才』としては、この学術島で他の追随を許さないほどずば抜けているらしく、異端のデュアルコセントの持ち主で、二つの集中力がどちらも上位集中力である。そのため何回もさまざまな研究所に連れていかれ、精密検査をさせられたがデュアルコセントである理由がわからず、遺伝による『集中力』ではないため『秀才』とカテゴライズされてしまった。
そんな僕は、ただの地理が得意なだけの学生であったが、一度底辺の学校に入れられてしまい、寝る間も惜しんで勉強し、編入に合格したころに、『集中力』が使えるようになっていた。そんな僕がいつものように洗濯物を干し、学校に向かうために地下鉄に乗るために階段を降りていた。
「どいて!」
甲高い女の子の声が聞こえた。
「っち、ちょっと!そこの人、道開けてよ」
誰に叫んでいるのかわからなかったが、いそいでいるのか声が大きく……っいや、これ近づいて来てる!
気づいて後ろを見ると、イノシシに乗った女の子が階段を降りてきていた。……っは!?なんだあれ!?
イノシシ娘の後ろからは彼女をおっているのであろう大柄の男が二人がいた。少し女の子とぶつかった時、
「そこの人!ちょっと、『どけ』!」
イノシシ娘の叫び声が響いたと思ったら、自分の体が意思に反して壁に叩きつけられた。
「あれ?なんで人に効くの?まあいいや。ちょっと手伝って!」
イノシシ娘はイノシシから降りると、僕の手を握り叫んだ。
「ちょっと、君『助けて!』」
するとまた意思に反して僕の体が動き、地面に手をつくと、勝手にコセントを発動しだした。
「…『局地沈降、褶曲封鎖』」
地面が沈み、沈んだ周りの地面が盛り上がり男二人をドームのように包んでしまった。
「…へ?なにこれ?あんたの集中力?」
……どうしてかしらないが、この女の子の集中力だろう。やってしまった、早くこの場所を立ち去ろう。
「まってよ!待ちなさいよ!」
足早にその場所を立ち去り改札を抜けた僕を女の子は再びイノシシに乗り、追いかけてきていた。
「仕方ない、『局地隆起』」
一部だけ突然盛りがった地面にイノシシが足をとられ、女の子はイノシシから投げ出され地面に衝突しようとしていた。
「やばい!『局地風食』」
風食によって細粒となった地面はクッションのように女の子を受け止めたことを確認して、閉まりかけていた地下鉄に飛び乗った。
ホームでは女の子が起き上がりこちらに視線を向けていた。
「うぅ……あの人一緒にいればきっと……」
%%%%%%
学校についた僕は、仲の良い二人と一緒にたわいない世間話をしていた。
「広は今朝のニュース見た?『実録!学術島の裏の顔!』ってやつ」
「あんなのただのやらせでしょ。事実なわけないじゃん」
「たしかにそうでだろうな!我もそう思っていた」
おちゃらけた感じっで喋りかけてきた天然パーマは、竹木有である。
いかにも中二病真っ盛りのこの男は、奥田正輝である。
この二人はどちらも、『中位集中力者』であったりする。
本人から聞いた話によると、有は部品となりえる金属さえあれば、創造した機械を創れるらしく、正輝は肉体強化の集中力を使えるらしい。らしいというのは、この二人が集中力を使ったところを見たこともないし、また僕が集中力を使ったところも見せていない。
第一に、集中力を使うことはほとんどなく、頻繁に使っている人間と言ったら初めての集中力に心躍らせている人間か、自分の集中力におごり悪さをする『劣化品』と呼ばれる、不良ぐらいだからだ。
「いや絶対あれは本物でしょ。あそこまで映像があれば間違いないって」
「都市伝説だってば、未確認生物と同じ類でだよ」
「学術島の集中力も一昔前まではオカルトの類だったけどな」
「我の田舎では昔からのしきたりのようなもので多々そのような事例が見て取れたが、噂の域をでなかったからな」
「そういえばさっき『コミー』にイノシシ出没注意!って速報が着てたけど、こんな町の中に現れるのかね」
「っ……」 ……あの女の子のことか!
ちなみに、『コミー』とは一昔前にあった携帯電話のイヤホン型の通信機器であり、
普及してから約七年がたち、コミーの利用人口は世界の七割にも及んでいる。構造としてはイヤホンの横から巻物のようにまるまった画面が伸びてくるものである。
……ちなみにまだコミーの耳に付けることに対して落とすのが怖くてまだ僕はコミーにかえず、腕時計型のウッピーを使っている。あと、あるものを隠すのに腕時計型のほうが便利だしね。
「確かに、我の携帯にもきておった」
「おまえはまだ携帯なんだったな。広といい、正輝といい、なんでそんな古いものを持ちたがるかね」
「別にいいじゃんか!ウッピーのほうが使いやすいし、それぞれのよさがあるんだよ」
「でもさ、携帯やウッピーってなくす可能性高いじゃん、その点内蔵型ならそんな心配ないぜ」
「たしかにそうだけど、体内に電子機器を入れるってなんかいやじゃない?」
「そうでもないぞ!入れてしまえば、案外なんともないけどな…」
「そんなものなのかな……正輝はどう思う?…正輝?」
正輝のほうを見ると、彼は窓から外を眺めていた。
「どうしたの?なにかみえるの?」
「いや、駐輪場にイノシシが止まっていてな……」
「へ?」
「ホントだ、オレあんなの初めて見たぞ」
たしかに駐輪場に止めてある自転車の隣にはイノシシが寝ており、鼻息で砂が撒き散らかされている。
……あのイノシシの模様って、今朝の女の子のイノシシかね?
「あれって、さっきオレが言ってたイノシシじゃないか?保健所かどっかに通報したほうがいいのかな…」
「いや、誰かのペットということもありえぬことではないゆえ、通報はやめておいたほうがいいだろう」
「っそ、そうだよ!触らぬイノシシに、逆鱗なし!だよ」
「誰の言葉だよ…まぁいいか、下手なことして厄介事に巻き込まれたくないしな」
そう言うと、有は保健所の番号を探すのをやめ、またのんきにニュースサイトをチェックし始めた。
……それにしても、あのイノシシがこの学校にいるということは、彼女もこの学校の生徒なのかもしれない。とりあえず、大きなけがなしで学校にこられたこと がわかったからいいか。安穏とした日常が続くことを祈ってやまない僕は、イノシシを眺めつつ自分の過去を思い出し歯ぎしりをした。