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第4話 現実はこんなもの

大学構内のとあるベンチ。

 俺と矢野。男二人が並んで座っている。

 眼前では、友達同士、男女混合のグループが楽しそうに会話しながら歩いている光景。

「いい天気だなあ。でも少し寒いなあ」

「ねえ。肌の露出が少なくなってきているねえ」

「なんか嫌らしい言い方だなぁ、おい」

「とぅふふ」

 当たり障りのない会話が繰り広げられる。

「楽しそうだなぁ……みんな」

「見てくれに騙されてはいけない。人間というものはつい群れようとする欲望に駆られてしまう。彼らはその欲望に負けた敗北者だ」

「そうだな。お前の言うことは正しい。その点俺たちが優れていると言えよう。だが、本当の勝利とは一体何ぞや。世間一般的に言われる『青春』をないがしろにしてまで勝利してそこには一体何の意味があるのか?」

「君らしくもない。いいかい? 世に出回っている『青春』というものはある利益団体が作り上げた架空のものだ。青春とはこういうものだというイメージを大衆に植え付け、それによって利益を上げる秘密結社が裏で糸を引いている。君はその言いなりになるのかい?」

「それは嫌だな。でも、それがもし人々に幸福を与えるものであればそれは最早単なる利益団体ではなく立派な奉仕企業ではないのか?」

「ナンセンス。ナンセンスですよ。それこそが秘密結社の陰謀であるとどうして気付かないのかね? 君は今、『幸福を与える』と言ったが、それは有り得ない。本当の幸福というものは『青春』というまやかしに惑わされず、それを享受している野郎どもを傍から見て悦に入る行為のことさ」

「……」

 そうなのか? 俺が十八年間生きてきて学んだ「青春」はフェイクだったのか? 

 矢野が言う「青春」が正しいと仮定する。それを実行して、また大学四年間継続して俺は後悔しないのだろうか? 

答えはノーだ。俺だって、皆とわいわい騒ぎたいし、何なら女性と交際というものもしてみたい。

では、矢野が言う「青春」には価値があるのだろうか?

答えはイエスだ。勝ちか負けかも分からない戦い。この孤独な戦いを大学四年間続けることで、他の大学生と比べて得られるものは桁違いだ。

一体何が真理なんだ? 本当に価値あるものとは一体何だ?

「ほら。また考え込んでいるでしょ。そこが君の悪い癖だよ。フィーーーーリング。フィーーーー」

 うるさい。

だが、確かに矢野の言う通りだ。俺は少し考え過ぎるところがある。人間は考える葦といくら言っても、考えることに終始しては元も子もない。

 ……おっと、また考えてしまった。

 よし!

「行くぞ! 矢野」

「イエス!」

「俺たちが真の大学生活を見せつけてやる」

「イエス!」

 俺は一歩を踏め出した。

 ピリリリリリリリリ。携帯の音。

 後ろを向く。矢野が電話している。

「…………はーい。オッケーでーす。……ごめん。バイト入ったわ。とぅふふ」

 悪魔がここにいた。


   ○


 人間は皆、場面場面で異なる人物、役割を演じている。

 親の前では親子。教師と生徒。恋人。上司と部下、先輩と後輩。親友。「人生は演劇」ということもできる。

 俺のこの大学生活における役割とは一体何なのか?

 今のところ「矢野の親友」、「孤独な大学生」という役柄しか与えられていない。

 果たして俺に相応しい役はやってくるのだろうか?

 それとも四年間このままで、この冴えない状況の下で、夢みたいな生活に塗り替えていくしかないのか?



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