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ミレニアム1001  作者: みづきゆう
第六章、見えない戦い
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七、再会(1)

 このところ、ユーティア原本げんぽん解説書かいせつしよというものが多く出回っている。女王が出版しゅっぱんした原本がベストセラーとなり、現代語訳だけではなく、もう少しくわしい解説がしいという声が多く出始め、あちこちの学者や宗教関係者、または出版社が独自どくじの解説を出版し始めたからだ。


 とのあえず、原本の出版元しゅっぱんもとには承諾しょうだくをとったうえでの出版ではあったが、肝心の解説の中身なかみはまさしく玉石混交ぎょくせきこんごうで、なかには、とても解説本と呼べるレベルではない物もかなりふくまれていた。


 まともな解説本もそれ以上出回ってはいたが、いかんせん、現代唯物的(げんだいゆいぶつてき思考しこうの持ち主が書いたものが多く、ドラゴンとか奇跡きせきとか自分の頭では理解できない部分を削除さくじょしたり、取り上げたとしても、ユーティアのたとえばなし程度ていどで終わらせているものが主流だった。


 女王アリーゼは、こうした事態じたいを深く考慮こうりょし、ニュートに訳者やくしゃだと公表こうひょうするようすすめた。そして、ニュート自身に、王家お墨付すみつきの解説書を執筆しっぴつするようおねがいしたのである。


 ニュートはしぶった。ただでさえもいそがしい毎日だ。ギャラクシー計画も本格始動ほんかくしどうしているので、とうぶんのあいだはそっちに集中したい。それに、自分が訳者だと公表すると、いま以上に宗教界がウルサクなる。学者達の嫉妬しっともこれ以上買いたくない。


 が、アリーゼは、


「あなた以外のだれが、正確せいかくな解説ができるというのですか? それに、他人のつまらない批判ひはん批評ひしょうは、この神殿地下まではとどきません。彼らは、この宮殿区域きゅうでんくいきにすら入れないのですからね。


 どうしても時間が取れないというのであれば、私がクライスに交渉こうひょうして、そのための時間をいただきます。そのかんの仕事は、ラッシュにまかせればよいのです。ラッシュ、できますよね。


 これは、女王としての命令です。わかりました?」


 有無うむを言わさない態度たいどである。ラッシュはもちろんのこと、ニュートも素直すなおに返事をせざるをなかった。女王アリーゼはふだんはしずかでおだやかではあるが、キレるとこわ一面いちめんを持っている。


 で、ニュートは翌日よくじつから、その日の指示しじをラッシュにあたえたあと、地下から神殿にあがり、女王の命令と格闘かくとうするはめになった。まず、現時点で出版されている解説本のたぐいを取りせて、読破どくはすることからはじめた。


(たしかにこれじゃあ、陛下がキレるわけだ。こちらの本は良しとしても、こっちは、ブームにのっただけのような適当てきとうな解説になっている。この本は、原本そのものを否定ひていするような方向にもっていく内容だ。まともだと思われる本も、解説者のレベルにおうじてまちまちだ。


 へたすれば、原本を読んでいない一般読者は、最初さいしょに手にした解説書の内容を鵜呑うのみにしてしまうかもしれない。)


 すぐさま、執筆に取りかかった。けど、もとは分厚ぶあつい十巻セットである。これをいかにして、一般読者にも手にとりやすい解説本にまとめるかが問題だった。ヒントが下ってきた。ニュートは10インチPCを起動きどうし、すぐさまその思いを受け止める。


 二日で草稿そうこう出来上できあがった。内容は、原本を書くにあたっての、ユーティアの思いといったところか。原本によせる、作者本人の前書きみたいな内容になっていた。さっそく、アリーゼに見せた。アリーゼは、これは解説にはならないと言ったが、原本の歴史的、宗教的使命を明確めいかくにしているとも言った。


 ニュートは、


「こまかい解説は、仕事の時間のあいまを見つけて、ネットで公開します。本では出版しません。あまりにも量がありすぎて、出版となるとまた重くなってしまうからです。ですが、出版社がどうしても出したいと言うのであれば、公開した情報を本にでもまとめればよいでしょう。」


「あなたは無欲むよくですね。原本に引き続き、また印税いんぜいが入ってくるのですよ。」


「作家家業でもないかぎり、本でかせぐ気なんかありません。


 それよりも、ユーティアの原本に対する思いを知ってもらいたいのです。でなければ、二日で草稿なんてできません。


 それと、私が訳者だと公表するのでしたら、原本の印税の一部をミシル大の私の恩師おんしわたしてください。彼の協力がなければ、現代語訳なんてできなかったですからね。もし、彼の許可きょかがあれば、現代語訳げんだいごやく監修者かんしゅうしゃとして私といっしょに公表してください。


 彼は、原本が出版されてすぐに、だれがやくしたか理解したはずです。しょっちゅう質問してましたからね。けどそれを、いまだにだまっていてくれてるのです。ありがたいことです。」


 アリーゼは、わかりましたと笑顔えがおでこたえた。そして、本が出版され、すぐさま解説がネット公開され、しばらく、あちこちがさわがしくなったようだ。


 順調じゅんちょうに、解説のネット公開が続いたあと、マーレル王立大学から講演依頼こうえんいらいんできた。マーレル王立大学と言ったら、ユーティア時代以前から、あったとされている由緒ゆいしょある大学ではないか。

 

 最初さいしょは工学系か医学系の講演依頼だと思った。けど依頼内容はユーティア原本についてだった。ニュートはこまってしまった。へたに依頼を受けてしまえば、宗教研究者というオプションがくっつきかねない。


 けど、今度はラッシュが有無うむを言わさなかった。


「あんたが、世間にみとめられてきたという証拠しょうこなんだよ。いままで、うさんくさいと見ていた、オカタイ連中が認めてきてるんだよ。それもユーティア原本で、しかも依頼は王立大学なんだぜ。


 うまくすれば、客員教授きゃくいんきょうじゅくらい、もらえるかもしれないぞ。三流大学のミシル大卒よりもハクがつくかもしれない。それに、これであんたが、ユーティア本人だと名乗なのれる可能性が浮上ふじょうしてきたんだよ。チャンスなんだよ、チャンス!」


「三流大学はよけいだ。君だって、ミシルのくせに。」


「ミシルは野球が強かったんだ! おれは、野球をするためだけにミシルに行ったんだよ! ちゃんと高校卒業して受験で合格したし、裏口うらぐち入学した、あんたとは根本的にちがうの! その野球も、あんたの神杖しんじょう実験につきあわされて、途中とちゅう降板こうばんせざるをえなくなってしまったけどな。


 ともかく、依頼いらいは受けろ! 受けるんだ、リーガン君!」


 かたをがっしりとつかまれ、鬼気ききせまった視線しせんで見つめられ、好きだった野球の途中降板というトドメもあり、ニュートは生つばを飲みつつ、また素直すなおに返事をするしかない。つくづく、この親子は似ている。


 でもって、マーレル大学講演当日。ニュートは二百人程度入る会場となっている講義室こうぎしつに入った。室内の席は、ほぼくされていた。学生にじり、OBのような顔もじつに多かった。教会からまねかれたような客もいた。


 そして・・・、黒髪の女がニコニコとしながら、こっちに向かって手をふっている。ニュートは思わずひるんだ。ダムネシア王妃、まとめて二十一段である。


(そう言えば、彼女はここの出身だったはず。なんだか、今回の依頼の裏が読めてきたような気がする。ちょっとてよ。彼女がきているということは、ひょっとして・・・。)


 王妃のつくえの上にある、大きめのペンケースがやけに気になる。いま、フェルドの端末たんまつ中継ちゅうけいされているか、録画ろくがされているか、あまり考えないようにしよう。


 王妃のとなりの席に目をうつす。ノートと筆記ひっき用具を用意しているイゾリーナの姿があった。じつに十数年ぶりの再会さいかいである。イゾリーナが視線しせんに気がついたのか、笑顔えがおであいさつを返してくれた。純粋じゅんすいな笑顔だった。


 ニュートは気をひきしめた。いいかげんな講演はできない。ここへくる前、神殿で一時間程度祈っていたが、さらに心の中でユーティアに援護えんごをもとめた。ニュートにとり、人前での講演は、これがはじめてだった。


 講演の内容は、初回しょかいでもあるので、原本が千年前にどういういきさつで書かれたのか、なぜ、分野違ぶんやちがいの自分が現代語訳をしたのか、そしてどうして、世に出すことになったのか、その経緯けいいを説明するだけにとどめた。ただし、自分がユーティアである事実をかくしてである。


 そして、質問時間にうつった。学生が、この前出版した解説書についてきいてきた。


「この本を読んでみますと、まるであなたが、ユーティア自身であるかのよう、書かれています。私は宗教学を専攻せんこうしてますが、こういう書き方をするのは神への不敬ふけいに当たらないでしょうか。」


 これは、出版してすぐに出版社によせられた反応はんのうでもあった。ニュートは、


「書いた場所が宮殿区画きゅうでんくかくの王家の神殿内部でしたから、自然とそうなってしまったのです。書く前になんども、ユーティアに助力をう祈りをささげていましたから、彼女のインスピレーションを受けて書いたものでもあると、考えられなくもありません。あなたがそう感じるのであれば、それも事実じじつなのでしょう。」


「宗教とはまったくちがう分野のあなたが、神からのインスピレーションを受け取れるのでしょうか?」


「受け取るものは受け取れる、それしか言いようがありません。実際じっさい、原本は神殿で最終校正さいしゅうこうせいおこないました。そのかん、かなり彼女、ユーティアの存在を身近みじかに感じていました。私が現代語訳したというよりも、彼女が私をつうじてそのような奇跡きせきおこなっていたと表現したほうがよいでしょう。」


 質問した学生の表情が、急にややかになった。

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