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ミレニアム1001  作者: みづきゆう
第一章、魂なき少女
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五、王立大学(1)

 無試験で一般学生として入学したニュートは、自宅から愛車でほぼ毎日、大学へと通っていた。ニュートの専攻(せんこう)は医学部だった。だが、もっぱら、自分をこの大学へと入れてくれた大学教授のもとで、助手として、教授の研究を手伝ってばかりいた。


 教授はニュートにこう言った。


「私の研究室にいる時間を単位としよう。それで、この大学の卒業単位時間分たまれば、君に卒業資格を与える。そのごは、ここにいるなり、よそへうつるなり君の自由だ。だが、できることなら、ここにいて研究を続けてもらいたい。」


 教授は、この大学でもかなりの権威を持っているようだ。本来ならば、学長でもおかしくない身分のようだが、本人はあくまでも研究に集中したいようで、あえてただの教授でいる、という感じだった。


 でなければ、研究を手伝ってくれただけで単位なんて、無理だ。


「私は、無試験で入学させていただいたご恩に報いたいと思っております。以前、電話で皮膚(ひふ)とか筋肉とかおっしゃってましたよね。教授のご研究というのは、それに関係あるものなのですか?」


「再生技術だよ。損傷(そんしょう)した部分を再生するための技術だ。現時点では、皮膚とか筋肉の一部はできている。私がめざしたいのは、内臓まるごと一個とか、手一本とか、そうした大きなものだ。」


 だから、スカウトしてきたのか。てきとうにつくったダミーでも興奮してたわけだ。ニュートは、人体をまるごとつくっているのだから、手一本、内臓まるごとなど問題では無い。つくろうと思えば、設備さえあれば、すぐにでも取りかかれる。


 けど、


「私程度のレベルで、そのような大きな研究のお手伝いをできるか、あまり自信はありません。私が図書館の研究室に残してきた程度のものでは、手とか内臓の再生はむずかしいでしょう。あれは、とてもではないですが出来損(できそこ)ないですからね。つまり、完全なる失敗作です。」


 教授は、ニュートの手をとった。


「あれが失敗作? 出来損ない? たしかに見た目はそうでしょうが、私からすれば、あれは高度な失敗作にしか見えません。ですから、あなたにラブコールをかけたのですよ。けど、あなたが入学式に姿を見せるまで、ドキドキものでしたからね。他にもスカウトがかなりきていたはずでしょう?」


 実際、スカウトしてきた中には、かなり話のよいものもあった。だが、学歴が欲しかったので、ここにくることに決めたのだ。


 現実問題として、ここの大学の受験レベルを突破(とっぱ)できるほど、ニュートは受験勉強が得意ではない。自分が研究してきた分野以外は、まともに問題集を解けなかったくらいだ。無試験入学は、まさに渡りに舟だったのである。


 ニュートは、入学したその日のうちに、教授のラボに案内された。そこにいる助手や学生達に紹介され、研究内容のすべてを説明され、翌日から、研究員兼学生としてここにいることになった。


 教授のもとにいた研究員や学生達は、最初、マッド・サイエンティストと評判のニュートを警戒していた。その名のとおりの、マトモではないマッドとして見ていた。でも、すぐにそれは、ただのウワサでしかないことが、だれの目にもあきらかになった。


 唯一マトモではないと思われる点は、娘には異常に甘く、自分の留守中、さびしがっているからと、かわいらしい女の子を研究室にしょっちゅうつれこむことだった。最初、研究室を興味深そうにチョコチョコする女の子は、だれの目にもケシカランとうつっていた。


 だが、イタズラするわけでもなく、そのうち、みんなのお手伝いとかをするようになり、そのお手伝いが十歳にしては手際(てぎわ)がよく、しかも的確(てきかく)で、しだいに重宝されるようになり、教授の推薦(すいせん)もあって、女の子は、研究所助手という役職(やくしょく)を与えられ、教授のラボの一員になった。


 ニュートは、大学内でいつもリーナといっしょだった。リーナはとびきりの美少女だったし、ニュートは容姿(ようし)端正(たんせい)であり、すぐに二人の親子の姿は大学では知らない者はいないほどになった。


 昼食が終わったあと、二人は大学に付属(ふぞく)している教会へとやってきた。昼の教会は、だれもいない。祈っているのは、ライダー姿のフェルドだけだった。


「よう、ニュート。うまくやってるかどうか、心配だから様子を見に来た。」


 フェルドは、祈りをやめて教会の長いすに座った。ニュートは、


「ったく、弁当を食べていると、いきなりここで待っていると電話してくるしな。また護衛無しか。次期国王なんだろ、自覚(じかく)くらい持て。」


 フェルドが、そばにいたリーナを自分のひざの上にのせた。そして、フンワリしている金色の髪を人形みたいになでなでし始める。


「背が伸びたんじゃないか。しっかり重くなってる。この年頃(としごろ)の女の子は成長が早いからな。あっというまに、大人の女に変身してしまう。」


「ふつうに成長できるか、いま、データ採取中なんだよ。少しは君のご期待にそえられればと願っている。だが、大人になれたとしても、お前にはやらんぞ。大学のレストランでテレビ見てたら、お前のスキャンダルがまた流れていた。」


 リーナは、チョコンとたち、フェルドからはなれた。そして、教会の祭壇(さいだん)の前に行き、興味深そうに神像をながめた。


 ニュートは、


「データは百科事典並みに入力してあるが、やはり、その目で直接見るのと違うようだ。この場所は、リーナはいま初めてきたし、神像を見るのも、たしかきょうが初めてだったはずだ。」


「好奇心がいっぱいだな。感情表現が、ややとぼしい以外、ふつうの子供と変わらない。リーナを見ている大学連中は、どう思っている?」


「少し風変(ふうが)わりな子供だという以外は、とりたてて不審(ふしん)には思ってないようだ。教授陣も、まったく気がついてない。」


 フェルドは、チラと横目でニュートを見つめた。


「たいくつじゃないのか? ここでしていることは、お前にしたら幼稚園程度のはずだ。」


 ニュートは、笑った。


「ここは、私が知らない知識の宝庫だ。私は、つくることしか知らなかった。けど、教授は、ラボのみんなは人を助けるために研究している。私の技術の応用が、さまざまな医療(いりょう)の役に立つなんて考えもしなかった。」


 フェルドは、ため息をついた。


「アンジェリーナに、よく似てるよ、お前。」


「それは、最高の()め言葉だよ。私は、彼女のコピーになりたいと願っているからね。彼女は、私の理想であり、あこがれでもあった。」


「なあ、ニュート。もし、リーナが大人になったら、リーナと夫婦になれ。それが一番だ。」


「・・・どうしてそう考える?」


「彼女は、アンジェリーナそのものになるはずだからさ。お前がアンジェリーナから受けついだ心を、お前はリーナに植え込もうとしている。おれから見れば、お前は自分の理想の女をつくっているんだよ。それに、成長した彼女の相手は、お前以外いるはずもない。」


 フェルドは、にやにやしている。ニュートはその顔に不快感をおぼえ、フェルドから顔をそらした。

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