END1001(3)
レイが電話に出ると同時に、アイリーンはどなった。
「ラッシュ! あんた、いまどこにいるのよ。バトルスーツだけ、いつのまにか基地にもどってきてるしさ。」
「首都に出るものが出たから電話したんだろう? エデンは動けるか?」
「すぐにでも出撃可能よ。けど、マーレルからの指示がまだだからって動かないのよ。あんた、どうにかして! ダムネシア空軍機はすでに、ワープして首都に向かったけど、あんなバケモノUFO相手じゃ戦闘機じゃむりよ!」
たぶん、マーレルでもとつじょ出現した、巨大城塞にどう対処すればいいのか、もめている最中だろう。だが、首都がねらわれているのに、出撃命令を出さないでいるのは怠慢以外のなにものでもない。
(エデン。やつらのねらいはエデン。)
「ノア。あらゆる事態に対処できるようにしておいてくれ。私は、エデンへ行きやつらをうまく引き付け、首都からできるだけ引きはなしてみる。」
「了解しました、艦長。」
レイの姿が消えた。そして、ラッシュとしてエデン艦橋へと出現する。手には、金色に光る神杖があった。とつぜん、艦橋に現れたラッシュに、その場の者達がぎょうてんする。
ラッシュは、艦長に向かい、さっさと出撃しろという。整備責任者の権限を越えた要求に、艦長をはじめ、その場の者達はけげんな表情で返事を返した。
「命令を待ってたら、首都が壊滅してしまう。ここから即座にワープしろ! 早く! ダムネシア空軍から出撃要請が来てるはすだ!」
「それは、我々もわかっている。だが、命令がこないうえに、格納庫からワープはできない。軍の規定で、かならず空中でしなければならないんだ。」
「ワープなんて、どっからでもできる! バカげた規定だ! エデンと飛行機をごっちゃにするな!」
空母は、上空からの攻撃を避け、まだ格納庫の中にある。だが、ワープは座標軸さえ合わせれば、どこからでも可能だ。
「リーガン整備班長。君のは越権行為だ! 持ち場にもどれ!」
ラッシュの手にピストルが出現した。神杖の力で自宅の金庫から呼びよせたようだ。
「おれは、特Aの許可証をもっている。その場の自己判断で、この引き金をだれにむけて引いてもいいという許可証だ。あんた、ダムネシアを守る気はないようだからな。」
魔法のようにラッシュの手に出現したピストルに艦長はひるんだ。
「し、しかし、まだ軍からは攻撃の指示は、きていない。それは、本物のピストルか? 君が特A?」
ラッシュは、天井に向けて一発撃った。ガチャンと音がし照明が一つ消える。みんなは、ふるえあがった。
「戦う気のないものは、五秒以内にこの艦橋から出ろ! これはおどしじゃない!」
「わかった。君に任せる! だからおちつけ!」
「ワープだ!」
エデンはワープした。首都上空には、巨大な城塞が浮かんでいた。映像を通して見ているのと、直接見るのとでは段違いであり、艦橋にいたクルー達はふるえあがった。
城塞から、いっせいにビームが飛んできた。避けきれないと判断したラッシュは、神杖をつかい、エデンを次元シフトさせビームをかわす。首都近辺の山へとビームが命中し、火山が爆発したようになり山が半分ふきとんだ。
「首都から、あの城塞を引きはなせ。エデンをおとりにしろ。ビームは気にするな。ノア! 聞こえているか。エデンに防護壁を張ってくれ!」
了解という声がラッシュの頭へとふってきて、エデンは見えないバリアにつつまれた。ビーム砲がバリアにより、はじかれる。だが、衝撃は空気振動となりエデン内へと伝わってきている。
異星人相手の戦いである。イリア戦争とはちがい、未知なる恐怖が艦長を始めとしてその場のクルー達をつつんだ。ましてや、いまは戦闘要員はいない。
「おびえるな! 異星人相手でも、これはただの戦争だ。防護壁は、かんたんに割れたりしないから、おちついて、しっかりと首都郊外へと誘導しろ。」
ラッシュの持つ神杖が光っている。その光を横目で見ていたクルー達の心は、いつのまにかおちついてきていた。
「リーガン整備班長。君はいったい何者なんだね。それにその杖は、まさか・・・。」
ラッシュは、けげんそうな顔をしている艦長をチラと見つめた。
「おれは何者でもない。リーガンという名前がなければ、ただの、忘れられた存在でしかなかった男だ。」
首都は、すでにかなりの被害を受けていた。一刻も早く、首都からはなさなくてはならない。
青の城塞が、首都に向けていきなり、高威力ビームを発射した。ラッシュの意図が見抜かれたようだ。首都が消えると一瞬思ったが、ビームが何かにはじき返されるよう反射し、青の城塞へと命中する。
銀の母船が首都上空に出現した。エデンの艦橋からもはっきりと見え、とつじょ現れた見知らぬ船にクルー達は驚愕した。大きい。銀色に輝く円筒形の葉巻型で、長さは7〜8キロもある巨大母船だ。
ラッシュは、
「心配するな、味方だ。あの船が、ユーリ・クライスの説明にあった、銀の母船だ。こっちの援護をしてくれている。通信班、ダムネシア空軍機にもそう伝えてくれ。」
青の城塞は、自分の攻撃が直撃し、じょじょに高度を落とし始めた。ワラワラと脱出艇のようなものが、城塞から飛び立つ。そして、城塞は首都から、ややずれているとはいえ、そのまま落ちれば、大被害が出かねない空中にある。
青の脱出艇が、エデンに向けて攻撃してきた。どうやら逃げ際の腹いせ攻撃らしい。ラッシュは神杖をつかい、防護壁を強化した。
エデンの横に真っ赤な戦闘機が出現し、UFOを一機落とした。通信が入った。アイリーンからだ。
「ラッシュ・リーガン、聞こえてる? UFOはこっちで引き受けるから、あの城みたいなのなんとかして!」
アイリーンは、空軍機に城への攻撃をやめさせ、エデンにむらがるUFOだけに狙いをさだめるよう指示をした。
つぎつぎと落とされていく、青の機体。青は、分が悪いと判断し次元シフトをしすべて消えた。城塞は、ゆっくりとだが高度をさげている。おちるまで、あと数分もないはずだ。
「ノア! 銀の母船の出力すべてを首都防護壁へと集中させろ。城塞を消滅させる。その衝撃波と熱波から、なんとしても首都を守れ。艦長、高出力エネルギー砲だ。一分で用意しろ!」
そして、ダムネシア空軍に向け、即座に首都から撤退するよう要請する。アイリーンはラッシュの指示にしたがい、すべての戦闘機にワープを命じた。
スクリーンに映っている銀の母船が光り輝き、その光が首都をつつみこむ。ラッシュは、二つ首のドラゴンを呼び出した。そして、神杖を通してホープの射程を城塞にあわせ、すべての発射準備が整いしだい、三点攻撃で城塞へと、そのすべての出力をたたきこんだ。
首都上空が、真昼のように輝いた。青の城塞は、爆発する前に分子レベルで消滅し、役目を終えた銀の母船はいつもの次元へとシフトした。それと同時に、ラッシュはエデンから消え、二つ首のドラゴンも消えた。
恐怖の一夜が去った。たぶん、この戦いの画像は、はいてすてるほど録画されているはずだ。青の城塞はもとより、銀の母船、そして二つ首のドラゴンすべてだ。明日の朝には、いやすでに、世界中がダムネシアで起きた謎の戦いに注目しているだろう。
エデンは、首都空港へと着陸した。むらがる報道陣に対し、艦長がインタビューに応じていたが、こたえられるはずもない。ラッシュとニュートは、その様子を、ややずれた次元からながめていた。
ニュートは、空を見上げた。まもなく朝だ。そろそろ、自宅へ帰らなければならない。ラッシュは、また会えるかとたずねた。ニュートは笑う。
「君にとり、私が特別だったら、君の望むままにこの姿を現すよ。けど、君の前でだけ。家族を混乱させたくないしね。それと、帰ったらすぐに、ジョナサンとユーリに、君が命令違反で軍法会議にだけはかけられないよう、たのんでおく。ダムネシアを守った英雄をくだらない法で裁くなってね。」
「英雄ね。けど、空母からは降ろされるだろうな、確実に。まあ、あとひと月だけだったし、希望だった空も飛んだし、青も追っ払ったし心残りはない。けど、さっきの戦闘での被害者には心がいたむ。守りきれなかった。」
「できるかぎり、銀は援護したよ。だからたぶん、君が考えているより被害は少ないはずだ。首都だってちゃんと守った。しょせん、青の科学力なんて銀にはおよばない。すでにこの星は、ワープ技術をはじめとして、いくつかの技術で彼らと同等になってるしね。じゃあ、帰るよ。」
ラッシュは、ニュートの手をつかんだ。腕輪をニュートの左腕にはめる。そして、
「お前には、たくさんの名前がある。ユーティア、ニュート、ジュディ。そして、おれが知らない名前もだ。だからいまだけ、ノア、と呼ぶ。
ノア、ありがとう。」
ニュートの姿が、銀色へと変化した。流れるような長い銀色の髪、銀色の瞳。透き通るような肌。すらりとした長身。これが、ノアと呼ばれている本来の姿なのだろう。そういえば、レイと呼ばれた自分の姿も、ノアとよく似た姿をしていた。
ラッシュはノアをだきしめた。
「愛しているよ、ノア。過去もいまも、そしてその先も永遠に。おれは、私は、いつも君だけを愛する。君は、私の魂の片割れ、きょうだい、そして・・・。」
二人の姿が、銀色にかがやいた。光のなかで交差した思いは、変わらぬ未来への約束を意味している。二人はほほえみつつ、それぞれの持ち場へともどっていった。
空港に現れたラッシュに報道陣が殺到した。こんかいの首謀者とも言える、ラッシュ・リーガンに向けて、目もくらむようなシャッターが切られる。ラッシュは不敵に笑い、そして、戦場へとおもむいた。
帝国歴1001年のできごとだった。
それから数年後。衝撃的ともいえる宇宙人の襲撃事件のあと、人類は宇宙へと向かっていった。
月では、ニュートが数年前に提出したした月面基地構想に加えて、都市構想も浮上し、急ピッチで工事が進められ、まもなく完成しようとしている。宇宙ステーションもすでにいくつか完成しており、各国から宇宙に住みたいと希望する者達が、そこで多数、生活していた。
恒星惑星圏内の開発も、民間主体でどんどん進み、まもなく到来するであろう、本格的な異星人との交流にそなえている。
ラッシュは改名し、レイ・リーガンと名乗り宗教家になり、ユーティア原本の本格的な教義の復活をはたすと同時に、未来へ向けた宗教、科学、異星人、そして霊界をふくめて、人類があるべき姿へと向かうよう、指針を示し続けていた。
ジュディも夫の改名と同時に、本来の名前、ノアの名で夫の仕事を補佐していた。
時代が進み、やがて、ふたりはひとつの存在として宗教上あつかわれるようになり、レイ・ノアとして歴史に名を残すようになっていく。
レイ・ノア。光の箱舟、という意味である。
END.
あとがき
長い物語でした。最後までおつきあいいただいた方には心より感謝申し上げます。あとがきとしては、作者からは何も書くことはありません。すべては読んでいただいた方の思いにおまかせします。物語は公開したときから、作者の手をはなれ読んでいただいた方のものとなります。物語とは、読んでいただいた方が本編を中心にさまざまな想像をかきたて、本当の物語が完成していくものだと作者は考えているからです。
最後にもう一度、お礼申し上げます。本当にありがとうございました。
*参考図書
大川隆法著作数百冊
塩野七生著作数十冊
マキャベッリ君主論
量子論、相対性理論関係二冊(基本書)
渡辺昇一著作数十冊
医学書一冊
あと、参考多数