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ミレニアム1001  作者: みづきゆう
第一章、魂なき少女
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八、軍事衛星リデル(1)

「神などいない! 信仰など、くだらぬ人の妄想(もうそう)にしかすぎない。目に見えぬ存在など信じても、何も救われない。だが、どうしても神の存在を言いはるのなら、お前に問う。なぜ、神は我々八人を生贄(いけにえ)にした? なぜ、苦しんでいる子供達を救ってくれなかった?」


 ニュートは、背後(はいご)(かべ)亀裂(きれつ)を見た。あきらかに人の手ではない亀裂が、自分の真後(まうしろ)ろに大きく、傷口のように開いている。ニュートは、


「信ずることができなければ、神とて人は救えない。手を()ばさなければ、その手をつかむことができないように。少なくとも私は、実験場にいた私は、神など知るよしもなかった。


 けど、アンジェリーナに出会い、信仰をしり、神は私を救ってくれた。けど、いま考えてみれば、神はすでに救いの手を伸べていてくれた。こうして、おかだい無事に生き()び、ふたたび出会えたことは、神の恩寵(おんちょう)だろう。」


「死んだ子はどうなる? 残り六人のニューティス達は救われないのか?」


 ニュートは、首をふった。


「この世的な条件により、肉体の命を救いきれない場合もある。いくら信仰を持っていたとしても、命を失うのはそのためだ。だが、魂は救われる。」


「私は、生きていて幸せになりたいんだ。宗教は最後はいつもそうだ。魂の救済(きゅうさい)、それだけだ。」


「ルディ。だからここを出ようと言ってるんだ。」


「ここから出られない理由は、さっき話したろ。人の念波(ねんぱ)()え切れないんだよ。雑念(ざつねん)程度ならいいが、ぼくをバケモノ(あつか)いしたりする悪意だけはおことわりだ。」


「だったら、人の少ない場所で生活すればいい。さいわい、私の邸宅(ていたく)は郊外の静かな場所にある。家にいるのも、キンブルとリーナだけだ。この二人は、人に対し悪意はもたない。」


 ルディは、いらいらしているようだった。ニュートは、


「私は、イリアには協力しない。私は祖国をうらぎったりしない。お前の念力でまた(しば)り上げればいい。それとも、背後の壁のように、思い通りにならない私を切りきざむか?」


「なら、のぞみどおりにしてやる。君の意思をぬいて、ただのあやつり人形にしてやる。ぼくの願いどおりに動く人形にね。さあ、用意はいいかい?」


 床に転がっていた電話がなった。ルディは、うるさそうに受話器をとる。


「こっちに回せ? もう、再会の時間は過ぎたって? じょうだんじゃない。お楽しみはこれからなのに。・・・・。ぼくでなきゃ、彼を連れてくることなんてできなかったじゃないか。君達は、なんども失敗してたのにえらそうな口をきくな! 


 え? 新作ゲーム? 特別ダウンロードのプロダクト・コード付き? それとオンライン対戦ケームもくれるの? わかってるよ、対戦相手に念力かけたりしないよ。


 そうそう、この前ゲームオーバーになって、コントローラー壁に投げつけてさ、調子悪いんだよ。コントローラーの新品もつけてよ。うん、わかった。すぐに彼をそっちに回すよ。一時間後にもってきてね。それ以上、待てないからね。」


 ルディは、電話を切ると同時に室内のドアが開いた。廊下には、兵士二人が銃をかまえつつ、待機(たいき)している。ルディは、


「もうむかえがきてるよ。じゃあ、さっさと行ってくれよ。ゲーム二枚と新品コントローラーの交換(こうかん)条件だ。」


「オンラインにつなげば、えらい目にあうんだろ?」


「ゲーム専用回線だから、飛び()う情報はそのゲームに限ったものだ。好きなものは、さして気にならない。」


 さっきとはうってかわって、ルディは機嫌(きげん)がよかった。どうやら、ゲーム二枚のほうが、自分より価値があるらしい。


 ルディは、


「いまの君に何を言ってもムダのようだ。まあ、脱出のチャンスがあるなら、さっさと逃げればいいさ。ダムネシアに帰って、少し頭を()やすんだな。けど、ぼくは、君をあきらめたわけじゃないからな。」


 とりあえず、この密室から解放され、ニュートは少しだけホッとした。けど、いかつい兵士二人に引き連れられ、次はどこに行くのだろう。


(林で拉致(らち)れてから、どれくらい時間がたったのだろう。ルディは、強い睡眠(すいみん)薬がどうのこうの言ってたな。やっと目を()ましたとか・・・。ここはイリアのどの辺りなのだろうか。ダムネシアの首都から、イリアの国境沿いまで、普通の飛行機で一時間もあれば到着するが。)


 連れてこられたのは、窓のない会議室みたいな部屋だった。ルディのいた密室より、やや大きい程度の室内には、円卓(えんたく)の大きなテーブルがおかれ、食事が用意されていた。兵士は、食事を取れという。ニュートは、いま何時かをたずねた。


「必要以上の質問には答えないよう義務付けられています。」


 時間くらい教えるのに義務も何もないだろうと、ニュートは思ったが、おとなしく食事を取ることにした。用意されていた食事は、弁当みたいなものだった。味は悪くはなかったが、変な薬でも入っているんじゃないかと思い、なかなか(のど)を通らない。


 食事が終わるころ、上官らしいかっぷくのよい男が入ってきた。見張っていた兵士が、男が入ってくるとどうじに廊下(ろうか)へと出て行く。男は、ニュートのとなりのイスにドカリと座った。


「私は、この基地で軍事開発部門を担当している者だ。まずは、君に謝罪(しゃざい)しなくてはならない。ルディ・ボーイの部屋に放り込むはめになり、実に不快(ふかい)な思いをさせた。君に会わせろとうるさくてね、ああしなければ、大暴れするところだった。」


「・・・あなたは、彼をこわがっているみたいですね。」


「ああ、私だけではないよ。あの異常なほどまでに強い超能力は、だれにとり脅威(きょうい)だ。彼の気分一つで、死人が何人も出ているしな。」


「ルディは、いま何を?」


「ゲームに夢中(むちゅう)だよ。ああやって、エサを与えておけば、それに集中してくれる。しばらくは、我々の身も安全だ。まあ、オンラインの対戦相手は気の毒だがね。」


「そこまでして、彼を無理に使う必要もないでしょう? 気分一つで死人が出るならなおさらです。あの密室では、彼の超能力を(ふせ)げませんよ。彼は、あそこからダムネシアまで念力を飛ばしたんでしょう?」


「密室は、彼が他人をシャットアウトするためのものだ。ルディ・ボーイは、だれにも心を開かない。ああして、ゲームの世界に没頭(ぼっとう)している。そして、気が向いたときだけ、我々に協力してくれる。あつかいにくいシロモノではあるが、使えれば、不可能を可能にしてくれる。君の招待も、彼の協力無しではむずかしかった。」


 ニュートは、手をにぎりしめた。


「まるでモノ(あつか)いですね。私も、あなたがたにとり、そのようなモノなのでしょう? 私も彼と同じだから。」


「君は、人としての常識が通じる。これでも君のことはかなり調べたのでね。驚異(きょうい)的な頭脳を持つわりには、ごくふつうの人間の感覚であり、ルディ・ボーイのようにゆがんではいない。天才にありがちな非常識さもないし、態度も謙虚(けんきょ)で、名門貴族としての品位もある。まあ、君の頭脳も、ボーイと同じく、我々の目には超能力としかうつらないがね。」


「超能力、ですか。自分では、そのようなことなど考えたことすらなかった。」


「天才というレベルではないんだよ。君の頭脳は超能力そのものだ。だから、生体サイボーグなどという物をつくれる。くわしい資料は知らないが、撮影(さつえい)されたビデオを見る限りにおいては、それとは気がつかない。」


「リーナには、手を出さないで下さい。」


「君の返答次第だ。まあ、あのような生体など、我々は必要としない。技術には興味があるが、我がイリア軍が必要としているのは、強力なパワーをもつ軍事兵器だ。我々にとり、リーナ君と言ったな。彼女は、君の娘で人質程度の価値しかない。」


「それをきいて安心しました。リーナは大切な娘です。すでに生体サイボーグではありません。どこにでもいる、ごくふつうの娘です。」


 軍事開発部門担当は、感心したようにニュートを見つめた。


「ほんとうに、あのボーイと同じ存在なのか、君は。見た目は同じだが、中身はあまりにも違いすぎる。まあいい。これを見てくれ。」


 いつのまにか、室内に人がいたようで、さっと室内の電気が消され、ホワイトボードに映像が(うつ)った。何かの人工衛星みたいな写真だった。


 担当は、


「最近完成したばかりの、我がイリア軍がほこる、軍事衛星リデルだ。衛星の下に突起(とっき)みたいなものが()き出ているだろ。強力なビーム砲だ。出力を最大にすれば、この基地を一発で消滅(しょうめつ)させるほどの威力(いりょく)がある。射程(しゃてい)には、ダムネシア首都もふくまれている。」


「・・・つまり、リーナは人質として拉致(らち)する必要はないという意味ですね。」


「そういうことだ。我々としても、できる限りならリデルは使いたくない。」


「私に何をさせたいのですか。私にできることといえば、人体関係とプログラムくらいのものですよ。まさか、兵士として戦場に立たせる気ではないですよね。私はそういう戦いのたぐいは、まるでできませんから。」


「貴族の君に、そのような行為はさせないよ。我々は君のプログラム技術を高く評価してるんだよ。君には数年前から目をつけていた。君が、あのルドルフと同じだと知ってね。何ができるのか、ずっと観察(かんさつ)してたというわけだ。」


「なんども誘拐(ゆうかい)しようとしたのではないですか? 観察ではなくて。」


「優秀な人間は先にスカウトをかけておくのが一般的だ。君の能力など、あとでいくらでも調べられる。なにか生体を研究しているというのは、一応つかんでいたが、ダムネシア側のガードがかたくてこまっていたのだよ。」


「・・・女王と外相会談をするというのに、実によい度胸(どきょう)ですね。私の誘拐は女王の耳にも入っているはずですよ。」

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