七、八人の子供達(1)
フェルドは、キンブルのもとへと直行した。そして、出てきたキンブルの顔を見るなり、出かける前のニュートの様子はどうだったとたずねる。
キンブルは、
「いいえ、若様の朝のご様子は、いつもどおりでしたよ。さびしがられるリーナ様をやさしく説得され、大学へと向かわれました。あの、やはり若様は誘拐されたのですか? フェルド殿下。」
「前日のニュートの様子はどうだったんだ? 何か変わったことは?」
「おつかれのご様子でした。リーナ様につきっきりで、ほとんど寝てなかったせいか、トイレで倒れてしまったんです。ひどい顔色でしたよ。」
キンブルは、ニュートの私室へときた。リーナがいた。そして、フェルドにメモ用紙をさしだす。
「何も書いてないな、白紙だ。」
リーナが、紙をよく見てと指さした。上の紙に書いたボールペンの筆跡が、そのままメモに残っていた。フェルドは、ゴミ箱を見た。キンブルは、
「ゴミは、今朝の収集車にわたしてしまいました。あの、まずかったですか?」
フェルドは、私室の机をあさり、古い鉛筆を見つけた。それで、白いメモ用紙をしずかにこする。文字が浮き出てきた。ふるえる文字で、イリアとあった。
「ニュートをさらったのはイリアのスパイだ。だが、どうやって? スパイが狙っていたのなら、警護をしている部下達がすぐに気がつくはずだ。ニュートの電話も、おれ専用の回線以外は、盗聴していたのにな。
ああ、気を悪くしないでくれ。プライベートに立ち入らなければ、警護なんてできない。ニュートも、それがわかってるから、必要以上に電話しないんだよ。」
キンブルは、
「・・・そんな気がしてましたよ。それはともかくとして、若様はここ一週間ずっとご在宅でしたし、電話もふくめて、若様がそのようなたぐいの人達と接触されたとは考えられません。第一、無理のはずですよ。電話も出入りもチェックされてますしね。」
フェルドは、メモ用紙をじっと見つめた。
「ニュートにしては、かなり文字がふるえている。ゴミが無いからはっきりしないが、この用紙の上の紙にこの文字を書いて、すぐに捨てたんじゃないかと想像できる。」
リーナは、
「ニュート、おかしかった。昨日、倒れてからずっと。出かける前も様子が変だった。キンブル、気がつかなかったみたいだけど。」
二人は、リーナを見つめた。フェルドは、
「どう変だったんだ?」
「ウソの顔。いつものニュートの顔と違う。あれは、ニュートじゃない。ニュートだけど、ニュートじゃない。」
「どういう意味だ、リーナ。」
リーナは、少し考えた。
「宗教に例えれば、すぐ答えられる。悪霊に支配された顔。ニュートに悪霊がとりついたように見えた。」
フェルドとキンブルは顔を見合わせた。リーナは、
「誘拐場所の林まで、ニュートは自分から向かった。だから、警護の人達、警戒しなかった。悪霊なら見えないから、とりついていてもわからない。」
フェルドは、
「イリアは、超能力者を軍で使っているというウワサがある。まさか、と思っていたがな。」
リーナは、
「超能力者に支配されたかもしれない。ニュート、きのう、ずいぶん苦しそうだった。メモは、支配が少し弱まった時、自力で助けをもとめた証拠だ。でもすぐに捨てたのは、また支配されたため、そう説明つく。」
そして、フェルドにつめよる。
「解除コード、フェルドに教えたと、ニュート言ってた。私、ニュートを助けたい。サイバー関係で設備が整った場所に私をつれてって。」
「解除コードは、何を解除するんだ。」
「私、世界を支配できる。ダムネシアもエイシアも、マーリアもイリアも、それ以外の国すべてを支配可能だ。だから、ニュートは解除コードを設定した。私、コードを知らない。だから、ニュートを助けたくても、自分の意思で、それを解除できない。」
「なら、使うべき時は、いまだな。キンブル、お前はここで待機していてくれ。リーナを、かりる。」
ニュートは、知らない密室で目を覚ました。ひどい頭痛がいる。フラフラと起き上がったら、きゅうにだれかが抱きついてきた。
「やーっと目を覚ましてくれた。ったく、睡眠薬が強すぎるよ。ゆすっても全然起きなかったしさ。もう待ちくたびれたよ、ニューティス。」
青みがかった銀色の髪が、ニュートのほおにふれた。その瞬間、自分は誘拐されたとわかった。少年は、ニュートからはなれた。そして、メガネをさしだす。
「近眼だったよね。メガネないと見えないんだよね。イリアには、すぐれた矯正手術があるよ。上層部にたのんで、腕のよい医者を紹介してもらうよ。」
「一つ言っておく。よけいはお世話はいらない。」
少年は、くすくす笑った。
「あいかわらずだね、君は。おとなしいけど、けっこう強情なとこが昔とおんなじだ。うれしいよ。君がちっとも変わってなくてさ。」
「私はお前達に協力する気はない。おどしても何をしてもムダだ。」
「君に言うことをきかせるのは簡単なんだよ。念力でしばりあげれば、それでぼくの従順なロボットになる。その証拠に、君は自分の足で、わざわざ誘拐されに、あの林に行ったんだよ。」
「だったら、さっさとしばりあげればいい。」
「やだよ、けっこうつかれるんだよ。人を動かすには、かなりの能力が必要だ。君を誘拐場所につれていくのに、いっぱい念波を飛ばしたんだよ。通常の超能力者じゃ、まず無理。だから、ぼくがすることになった。けど、君をつれてこいって言われた時、すごくうれしかった。やっと会うことができたんだしね。」
ニュートは、目の前の同じ顔を見つめた。
「私が思い出したのは、ニューティスは八人いたのと、何かの実験施設みたいな場所の記憶だけだ。そこで、何か嫌な、とても嫌なことをされていた、それだけだ。」
少年は、ニュートのひたいに指をつきつけた。
「君、施設にひろわれたあと、しばらく生死をさまよっていたんだね。意識不明の重体だったらしいね。そして、目が覚めたら、ニューティスという名前以外、過去の記憶も言葉すらもすべて忘れていた。命が助かっただけでも奇跡だったようだね。
その後、君は八歳とされている年齢で、リーガン家の養子になった。アンジェリーナ・リーガン。国王の愛人だった女性に引き取られた。国王自らの紹介でさ。当時のダムネシアじゃ、この話はかなりスキャンダルだったようで、王妃様は寝込んでしまわれたとか。」
ニュートは、少年の指をはじいた。少年は、
「すごい敵意が飛んできた。三角関係の真相はともかく、その関係に君が巻き込まれたのは、たしかだよね。おかけで君は、現女王様にかなりきらわれているしさ。国王も君の養い親をもう少し考えてくれてもよかったんじゃないのか。」
「当時のゴシップ記事が、そのまま報告にあがってるようだな。アンジェリーナと国王との関係は、友人関係だけだ。世間はどう考えようと、二人のあいだに、やましいことはいっさい無い。」
「なぜ、ニューティスが八人いたのか、知りたいと思わないか。さっき飛んできた敵意のなかに、真実を知りたいという君の思いを感じたから。」
ニュートは、窓のない室内を見回した。ベッド一つ、衣類が入ったクローゼットが一つ。室内には、トイレとシャワールームが備え付けられており、あとは、テレビ一台とゲーム機が数台。PCはない。内線専用らしい電話機が、床にてきとうに転がっていた。
少年は、
「なんにもない部屋だと思ってるだろ。そう、ぼくはここから出られない。いや、出る気もない。ぼくは超能力者だ。念力とテレパシー能力に特化している。念力はともかく、テレパシー能力のせいで、外に出ると、いろんな人の念波がいっせいに飛び込んできて、頭がおかしくなる。だから、ここにいる。」
「電話一つじゃ不自由じゃないのか。PCも無いのか?」
「ネットにつなぐだけでも、情報の大波をかぶってしまうんだよ。回線を通じて、一気にぼくの頭になだれこんでくる。だから必要ない。」
「・・・私は、だれなんだ? いや、何者なんだ?」
「八人のニューティスの一人。ぼくもニューティスだけど、いまはちゃんとした名前がある。ルドルフって言うんだ。みんなして、ルディって呼んでる。君もそう呼べば? ぼくも、君をニュートって呼ぶからさ。」
そう言い、ルディは、ベッドにこしかけた。そして、しげしげとニュートの顔を見つめる。
「ぼくが、大きくなると、こうなるんだね。とてもきれいだ。ぼくは、とてもきれいなんだね。うれしいよ、醜くなかったってわかってさ。ぼくは、モンスターじゃなかったんだ。」
「モンスター? 醜い? どういうことだ?」
「だって、ここの人達、ぼくの能力をこわがって、内心、ぼくのことをモンスターって呼んでるんだ。ほら、モンスターって醜いしさ。だからずっと、そう思ってた。」
ニュートは、となりの自分の顔を見つめた。
「顔の話はもういい。さっさと教えろ。」
「いいよ、でも、それをきいたら、君は、もう二度とダムネシアに帰りたくなくなるよ。それでもいい?」




