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002、 ――夜

 日が暮れて、エンプティータウンは夜の闇に包まれた。昼間の喧騒が嘘のように静まり返る。人通りが多い道には街灯があるが、路地裏やわき道には一つも無い。そのため、そういった道を照らすのは薄ぼんやりと輝く月明かりだけ。だが、ほどんどの光は下まで届かない。エンプティータウンは改築や増築を無計画に繰り返した結果、細く入り組んだ道が数多く存在する。土地勘がある人でも夜は迷うほどだ。そういった環境がこの街に死を招きいれたとも言えよう。そして、人々がその事に気が付いた時には何もかもが遅すぎたのだった。


 夜の街を高台から眺める。冷たい風が頬を撫でるのが心地良い。黒いマントが風にあおられて広がる。十分に夜の街の風景を堪能したロベリアは、暗い道へと迷わずに入っていった。

 双子に教えられた場所へと向かう為だ。

 右へ左へ複雑な道を進む。すると少し開けた場所にたどり着いた。

 建物の隙間から注ぐ月明かりがその場の異様な光景を怪しく照らし出す。

 色あせた壁や石畳の地面をおびただしい量の血が鮮やかに彩っていたのだ。そして、無残にもバラバラに解体された元は人間だったそれがあちらこちらに散らばっている。量からいって十数人分ほどだろうか。それらの中心に立ち、空を見上げる人物がいた。それはロベリアがよく知り、ちょうど今探していた人物だった。


「カイン」


 呼び掛けるとゆっくり振り向いた。こちらを見ると、途端に嫌そうな顔をしてため息をつく。


「えー何その反応」

「…」

「ねぇねぇ、コレってカインがやったの?」


 両手を広げ高まる気持ちを抑えながら尋ねた。


「…だったら何だ」


 不機嫌そうに呟き、身体をロベリアの正面に向けた。そうすることで、さきほどまで見えなかったあるものが見えた。それは、大量の返り血。

 カインの半身を真っ赤に染め、白かったシャツは赤黒くなってしまった。

 それを見て驚きはしない。彼にとってはいたって普通の事であり、怯えたり恐怖し不安に思うことは何も無いからである。何故なら彼が…いや、彼らがこの街に住む殺人鬼の一人であるからだ。


「いーなー、俺も殺りたかったなー」


 全てを理解したロベリアはそう言いながら、近くに転がっていた頭?らしきものを両手で掴み上げて眺めた。


「おつかれー、って何でロベリアがここに居るんだ?」


 突然後ろから声が聞こえてきた。

 振り向くと暗闇の中から一人の男が姿を現した。


「ドメニコ!」


 ロベリアは持っていた頭を投げ捨ててその男の元へ駆け寄った。だが、


「ハイ、ストップ。その血で汚れた汚ねー手で触れないでくれるか?このスーツおろしたてだからまだ血で汚したくないんだ」


 そう言って、手で制した。


 この男がロベリアら四人が居候させてもらっている家の主、ドメニコ・シュバルツ。肩まで伸びた黒髪を後ろで一つにまとめている。とても面倒見がよく、いい兄貴分だ。たくさんの店を持っており、とても繁盛しているらしい。見ためは若く二十代に間違われがちだが、これでも三十五歳のおっさんである。


「っちぇ、折角再会のハグをしようと思ったのに…」

「男に抱きつかれてもうれしかねーよ。てか、なんでここにロベリアが居んの?」


 チラリとカインの方を見る。


「………」


 しかしカインは何も知らないといったふうに顔を背ける。再びロベリアの方に視線を戻すとニヤニヤと楽しそうに笑って答えた。


「フォークス兄弟が教えてくれたんだぁ。ドメニコの店で好き勝手したアホがいてー、その人はどっかのお偉いさんなのかボディーガードをいっぱい連れていて下手に手を出せない。そこでカインに助っ人を頼んだんでしょ?カインはボディーガードの正確な人数を知るためにフォークス兄妹のもとを尋ねたってね。あってるでしょ~」


 まるで道化のように身振り手振り休むことなく動き続けながら可笑しそうに言う。

 話を聞いた二人はわずかに顔をしかめた。


「…っぷ」


 堪えていたものが一気にあふれ出す。


「フフ、アッハハハハハ!!ねぇねぇ、驚いた?驚いたでしょ!信頼していた情報屋に自分達の情報を漏らされて。あはは、今の気分を一言であらわしてよ!俺は今すっげー楽しい!!」


 腹を抱えて大声で笑う。

 その声は建物に反響してさらに大きくなって…。


「うるさい、黙れ」


 一人で爆笑しているロベリアの頭にカインが拳を振り落とした。

 すると笑い声の代わりに重い打撃音が響き渡った。


「ッ~~~~~!!?」


 ロベリアは声にならない悲鳴を上げて、頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「……自業自得だな」


 ドメニコが小さな声でそう言った。


「うぅ~…酷い、本気で殴ることはないじゃん…。大体さぁ、もとはと言えば二人の方に責任があるんだよ!」


 今にも零れ落ちそうなほど涙を溜めた瞳で二人を睨み上げる。


「フォークス兄弟をパシリに使っただろ、カイン。あの二人は意外と根に持つんだから、敵に回すと怖いんだぞ!今回は俺だったから良かったものの他の人間に情報を漏らされてたらどうすんだよ」

「……わるい」


 珍しく真剣に(●●●)怒るものだからつい素直に謝ってしまった。


「ドメニコもこんな面白いことやるなら俺も誘ってよ!何でいつもカインばっかなの!?」

「ッエ!逆切れ!?俺なんも悪い事してないけど」

「俺を誘わなかった!!!」

「それはお前がいると計画通りに事が進まないからだよ!一人づつじっくり楽しむお前だと、短時間でこの量を一人も逃がさずに出来るわけねぇだろ」

「当たり前じゃん!俺を何だと思ってるんだ!!!」

「だからだよ!!」


 真顔で答えるロベリアにドメニコは半分切れ気味に返した。

 こんな不毛なやり取りをいつまでも続けていても仕様が無いとドメニコが話をそらした。


「あーもういいや。やることやったんだし帰るか」

「…早くシャワー浴びたいキモチワルイ」

「そうだな。ここにロベリアが居るってことはラスは一人ぼっちってことだし」


 二人は死体の山に背を向けて歩き出した。


「一人じゃないよアンディーが居るじゃん」


 その後を何も無かったかのようにケロリとした顔でロベリアが付いて行く。


「アンディーねぇ………アレからどうよ、進展とかあったか?」

「特に無い」

「えーそんなこと無いよー。今日も少しだけど、ほんの少しだけど喋ってくれたよ」


 三人の殺人鬼は他愛も無い会話をしながら静かな街の闇に消えていった。

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