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ふと少年の顔がはっきりと見えなくなっていて、私はやっと外が暗くなっているのに気付いた。
もう2度と点けることはないと思っていた部屋の電気を点けて、私は立ち上がった。
「ねぇ、あなた」
少年に呼び掛けると、数秒してから返事が返ってきた。
「あ?オレか?」
「そうよ」
答えると、少年は居心地悪そうに鼻の頭をかいた。
「そういえば、まだ名乗ってなかったよな。オレの名前はトモだ。孤独の孤と書いて、トモ」
「私はサエ。冴え渡るの冴よ」
「じゃあ……冴、さん」
ためらいがちに私の名前を呼んだ孤に私は短く言う。
「冴って呼び捨てでいいわ」
「お、おぅ。オレの事も孤って呼び捨てでいいからな」
で、と私は仕切り直す。
「孤は人間と同じ物を食べるの?」
「ああ。基本的には同じだな」
「じゃあ夕ご飯食べるわよね」
ドアを開けてキッチンへ行こうとすると孤が慌てて走ってきた。
「おい、なんでオレが冴と夕ご飯食べることが決まってるんだよ」
「食べないの?」
私が聞き返すと孤は訳がわからないという顔をして言った。
「だって……オレは闇の」
「食べるの、食べないの?」
孤の言葉を遮ってもう一度私が訊くと孤は渋々口を開いた。
「……食う」
「じゃあ、好き嫌いは?」
「……ない」
訊くことを訊くと、私はキッチンに向かった。
「孤、ご飯できたわよ」
私が自分の部屋に戻ると、所在なさげな顔で座っている孤がいた。
「よかった。いてくれたのね」
「冴が夕ご飯に呼んだんだろうが」
「そっか、そうよね。じゃあ食べましょ」
ダイニングに入ると、孤が感心したような顔でテーブルの上の料理を眺めた。
「冴、お前の料理うまそーじゃん」
「そう?食べたら期待外れにならない事を祈るわ」
「んじゃ、いただきます」
孤は礼儀正しく手を合わせてから食べ始めた。
「んー、うまっ!」
「ありがと」
しばらく孤は口の中に掻き込むようにしてご飯を頬張っていたが、ふとご飯を掻き込む手を止めて私に尋ねた。
「そういえば冴って、一人暮らしなのか?」
「そうよ。アルバイトして家賃払ってるの」
「ふーん。しっかりしてるんだな、冴」
カチャリ。
私は箸を取り落とした。
孤の言葉に、忘れかけていた記憶がよみがえる。
「……しっかりなんかしてないわ。しっかりしてたら私は、自殺なんてしてないもの」
食卓がしんと静まりかえる。
「食事中にその話はやめような。せっかくの冴のおいしい料理なのにもったいないからな」
話は後で、と言われて私はゆっくりと箸を取り上げて食事を再開した。
孤は何事もなかったかのように相変わらずご飯を頬張っていた。




