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「……もう落ち着いたのか?」

ハンカチで涙を拭う私に、それまでずっと黙っていた少年が尋ねた。

「うん。もう大丈夫。……ごめんね、いきなり泣いたりして」

「オレこそ、いきなり出てきたりしてごめんな。びっくりしただろ」

「うん……最初はね。でもそれももう大丈夫よ」

少年はそれを聞いて安心したように息をついた。

私はそんな少年を見つめた。

少年、と表現したが歳は18歳くらい。もしそうなら私より2歳上になる。綺麗な顔立ちだか表情はどこかいたずらっ子のような印象を受ける。

背は私よりも少し高くて、まるで普通の高校生のようだ。

――ただ、足が床から少し離れていることを除けば。

「本当に、妖精なのね」

私が思わず発した言葉に、少年は頷いた。

「オレは妖精だよ。……って、信じてくれてなかったのか?」

途端にむすっとした表情になる。「だって……さっきのは勢いで言っちゃったんだもの。でも今はあなたが妖精だって、勢いじゃなくて信じるわ」

「本当に?」

疑うような目で見てくる少年に私はこうして笑うのは久しぶりだと考えながら微笑した。

「本当よ。だってあなたは私にありがとうって言ってくれたもの。人に幸せを届けるのが妖精なんでしょ?」

「……」

てっきり笑い返してくれるかと思ったが、少年は俯いた。

「……じゃない」

「え?」

聞き返すと、少年はきっと顔を上げた。

「オレは、そんないいヤツじゃないんだ。オレは……」

でもそこで言い淀む。

「え?だってあなた妖精なんでしょ?」

少年は私の言葉につらそうに目を伏せた。

「オレは……闇の妖精なんだ」

「は?」

少年は一度言い出した事で開き直ったのか、流れるように話しだした。

「人間は妖精と聞くといいイメージを思い浮かべる。だけど、妖精だっていい妖精と悪い妖精がいるんだ――ちょうど、人間のように」

「そしてオレは悪い妖精の中でも死んだ人間の魂を保管する一族の妖精なんだ」

そこで少年が一旦言葉を切ったので私は口を挟むことができた。

「何で魂を保管することが悪いことなの?」

「何でって?」

少年は胡乱な瞳を私に向けた。

「オレ達に保管された魂は天国へも、地獄へもいけない。ずっと死んだ時のままで、止められているんだ」

「でも、でも地獄に行くくらいなら保管された方が」

「まあ、地獄に行くのならそうかもしれないな。けどな」

少年は大きく息を吸った。

さっきまでの胡乱な瞳とはまったく違う真剣な瞳がこちらを見つめた。

思いがけず少年の髪と同じ美しい漆黒の双眸に私は見とれた。

「オレ達にその魂が喰われるとしたら、どうだ?」

「く、喰われるって」

耳に流れ込んできた恐ろしい言葉に、思わず声が震えた。

「まんまの意味だよ。オレ達一族は死んだ人間の魂を喰らって生きてる」

ほらやっぱり、と少年は呟いた。

「この事言って怯えなかったやつはいなかった。所詮お前も例外じゃなかったって」

「例外よッ!」

自分でも予想していなかったほどの大声が出て私はうろたえた。

「何言ってんだよ、声震えてたくせに」

「そっ、それは……最初はびっくりしたけど今はそんな事ないわよ」

弱い所を正確に指摘されて私はムキになって言い返した。

少年は、私のそんなムキになった顔がおかしかったのかくすっと笑ったが、急に表情を険しくして怒鳴った。

「……同情なんていらねぇんだよ!!」

私が怯んで二の句が告げずにいると、少年はさらに顔を真っ赤にして語気を荒くした。

「今までにだって自分はそんな事気にしないと言ったヤツはたくさんいたさ、ああそうだよ!!そうやって最初は善人の振りをして、ずっといてくれたヤツがどのくらいいたか分かるか!?0人だ!お前だってそうなんだろ!?だったらいっそのこと最初から突き放して、怯えて、逃げてくれた方が楽なんだよ、さぁそうしろよ!オイ!」

一息に言い切ってゼイゼイと息をつく少年。私はあまりの気迫に圧倒されていたが、じわじわと怒りが込み上げてきた。

「……勝手に人の言動を決めつけないでくれる?」

少年がびくっとした。まさか反論されるとは思ってもみなかったに違いない。

「なんかごちゃごちゃ言ってたけど、あなた私に、」

私に、

「ありがとうって言ってくれたじゃない!そんな事言っておいて、突き放せだの怯えろだの挙句の果てには逃げろですって!?そんなのずるいわ、卑怯よ!」

「卑怯、だと?」

敵意を持った少年の目を真っ向から見返して私は断言した。

「あなたは、何からも逃げてる臆病者だわ」

「……お前だってそうだろ」

「……は?」

最初、私は何を言われているか分からなかった。

「お前だって今、自殺しようとしてたじゃねーか」

「あ」

そういえばそうだった。この少年が現れたことで私はすっかり自分が自殺しようとしていた事を忘れていた。

結局、自殺しようとした私の決心はそんなものだったんだと思う。私がすっかり忘れていたのを見てとったらしい少年は1つため息をつくと、やっと年相応な少年の笑顔を浮かべた。

「しょーがねーな、お互い様にしておくか」

「そ、そうね」


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