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「……だめ」
「は?」
孤の母親は本気で分からないという顔をした。
「そんなわがままが通るとでも思っていらっしゃいましたら大間違いでしてよ」
「でも、通すの」
私は絶対に失いたくなかった。孤を。
「私は孤の魂が欲しいのよ。くれたら何でもするわ」
「馬鹿なことをおっしゃらないでくださいな」
孤の母は、呆れたようにため息をつくとふわりと浮き上がった。
「ちょっと、どこ行くのよ」
私が訊くと、孤の母はゆるりと首を横にふった。
「もう貴女とはお話しになりませんわ。帰らせていただきます」
「待ってよ。孤をつれていかないで」
私の言葉を無視して、孤の母はベランダへと浮いていった。
私は急いで孤の母の後を追った。
「待って、待ってってば!」
孤の母は構わずにベランダをこえた。そして振りかえる。
「もう孤を追うのはおやめになった方がよろしいわ。死んだ者に心を奪われているなど恐ろしいマネをするのではありませんし、貴女にはその資格もないのですから」
すうっとベランダから離れていく。
「待って――!」
私はベランダの手摺りに足を掛けた。
足元が消えた。私の体が宙に浮く。
そして。
「きゃああああっ!」
どすっ
仰向けに地面に横たわる私の目に映ったのは、孤の悲しそうな顔だった。
「ごめんね、孤。私、生きられない」
わたくしは宙に浮いたまま、あの子――冴さんがベランダから私を追って転落するのを見た。
別に嬉しいとも悲しいとも思わなかった。
冴さんの魂が体から浮き上がる。
私は2人の魂を持って去った。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
まだまだ他の小説も書いていきたいと思いますので、そちらもぜひ読んでみてください。
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