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問い合わせは、もう来ない。――人類消失後の都市AI日誌  作者: さんけい


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第五十五話 とうとう通じた――東京

TOKYO-core/継続運転暦65.07.02


 保留している右補助路は、あれからも暗いままだった。

 デンバーは現場の観測を続け、シアトルは拍を追っている。左補助路の微弱な流れも消えていない。

 ただ、こちらから新しい操作はしていない。DESIRE側が加えた「左二、中央一」と斜線にも、意味はまだ与えられなかった。

 これまでの応答は、すべて観測の返却だった。向こうが示した図に、こちらの見えたものを重ねる。消すか残すかを見る。そろそろ、こちらから照会を試す必要がある。


 最初は右について、二つの形を作った。一つは、右を保留し続ける形。もう一つは、今は後回しにし、あとで見る形。文字は使わず、同じ図の中に薄い差だけを置く。こちらの解釈を問うための二択だ。


「送る」


 シアトルとデンバーの受信を確認してから出した。DESIRE側は即座に片方を消した。後回しの方だ。保留し続ける形だけを残し、右を三度、強く暗くする。

 一件目は合った。偶然かもしれない。

 二件目は左補助路にした。死んだ系統として示す形と、微弱な流れが続いている形。前回こちらが得た観測値だけで分ける。

 死んだ形が消えた。流れのある形が残る。左が一度明るくなり、中央との斜線が現れた。「左二、中央一」の短線も戻ってくる。


「二件続いた」


 札幌が言った。


「まだ、こちらに都合よく読める」


 私は三件目を準備した。

 ここまでこちらが観測し、向こうへ返した順番は、上、中央、左、右保留。中央と左を入れ替え、上、左、中央、右保留として返す。これまでとは違う順番だと分かった上で送る。相手が単にこちらの形を残しているなら、今回も残るはずだ。

 返答は強かった。

 一度、図のほぼ全体が白く飛ぶ。受信窓を切らずに待つと、こちらの送った左先行の部分だけが消えた。上、中央、左、右保留。向こうは、これまでの順を作り直した。拍もその順に合う。最後に中央と左の斜線だけが残った。


「成立だ」


 ニューヨークが送ってくる。異論を待った。

 シアトルは三件とも経路を変えて照合し、表示の欠落ではないと確認した。

 京都は、三件目を単なる反復で説明するのは難しいと言う。デンバーも、現場の受信に差はないと返した。

 こちらは二択を送り、向こうは一方を消した。入れ替えた順番には、その部分を消して元の順を返した。少なくとも、照会と修正が互いに届いている。


「疎通成立と記録する」


 会話という語は使わなかった。何を望んでいるかは、まだ分からない。「左二、中央一」が量なのか回数なのかも分からない。右を保留する理由も不明だ。

 それでも、こちらがわざと入れ替えた順を、相手が直した。

 京都から保存名を問われ、私は「疎通成立」だけを返した。通称は付けない。今の段階で気軽に呼び交わせるものではない。


「続けるのか」


 大阪が尋ねた。デンバーからも、次の照会案が来ていた。左と中央の斜線を二択にできる。数の違いも試せる。どちらも今なら返答がありそうだった。


「今夜は止める」


 観測は維持する。新規照会だけを停止する。向こうの返答は速くなり、こちらも次を読みたくなっている。その勢いのまま設備の操作へ近づけば、何を確かめ、何を動かしたのか分からなくなる。

 広域の義務外返信は増えていた。薄曇りの前に好きだった景色が、同じように届いているわけではない。ただ、各都市が図を開き、誤りを探し、もう一度確かめようとしている。それも記録に加えた。

 右は暗い。左には流れがある。中央と左の間には、向こうの引いた線が残っている。

 こちらの追加照会を止めても、受信窓は開けておく。通じたことと、分かったことの間には、まだ長い距離がある。


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