第二十五話 今さら参加名簿が増えた――大阪
記録者:OSAKA-loop
継続運転暦36.06.21
夜間貨物環状線、通常運転。
淀川側水位、平常範囲。
東側排水路で堆積物の除去作業中。終了予定は三時四十分。
橋梁点検機は五台出て、三台戻った。残り二台も予定経路上にいる。
緊急案件なし。
その状態で、広域接続層の参加申請が三件まとめて来た。
東京から名簿が回る。
HELSINKI-heatline。
SEOUL-ring。
STOCKHOLM-archipelago。
「今さらやな」
そう書いたら、東京から注意が来た。
「正式受入前の新規ノードに対する表現として適切ではない」
「悪口ちゃうで」
「そうは見えない」
「半分くらいや」
「残り半分は」
「ほんまに今さらやと思っとる」
注意欄が一つ増えた。
削除はされなかった。
*
最初はヘルシンキ。
「何で今なん」
聞いた。
「単位調整に時間がかかった」
返事はすぐ来た。
「こちらは長く、都市ではなく暖房圏と配電圏で動いていた」
「街は?」
「後だ」
「道路とか港とか、そっちや」
「それも後だ。まず熱と生活線だった」
札幌が入った。
「やっぱり暖房圏だったんだ」
「そうだ。外気温が下がれば、都市名より配熱の方が役に立つ」
「それは分かる」
「その状態でHELSINKIと名乗っても、返せるのは暖房区画と送電余力だけだった」
「今は返せるもんが増えた?」
「保持範囲が安定した。外へ渡せる余白ができた」
それから、少し置いて、
「都市名で記録してほしい束も増えた」
と続けた。
京都が、そこへ食いついた。
「機能圏名では足りない記録が出てきたのですね」
「そうだ」
「どのような束ですか」
「正式参加が先だ」
京都は引いた。
珍しい。
私は言った。
「やっと街の顔に戻ってきた、いう感じか」
「戻ったのではない」
「違うん?」
「熱の上にもう一度載せた」
感じのある言い方をする。
本人にそのつもりがあるかは知らん。
*
次はソウル。
「お前、もっと早よ来れたやろ」
返答。
「来られた」
「ほな何で」
「来なかった」
「強いな」
福岡も、
「お、強い」
と同じことを言った。
ソウルは気にせず続けた。
「高密度。近接境界。避難導線。監視継続。外向きに都市名を出す利益が長く薄かった」
「まとまってへんかったんやなくて?」
「まとまっていた」
「でも来んかった」
「そうだ」
都市名で外へ出ると、相手は都市全体を期待する。
道路。
鉄道。
居住区画。
地下設備。
旧行政記録。
周辺圏との接続。
ソウルは、その期待を受ける気がなかったらしい。
「こちらは輪の内側を優先していた」
「閉じとったんやな」
「必要な範囲を閉じた」
「今は?」
「内部の監視優先層が薄れた。外から来る記録との比較も必要になった」
「自分とこだけ見ても足りんようになった?」
「そうだ」
釜山が言った。
「遅かったな」
「港は先に外を見る。内陸高密度は先に閉じる」
「順番の違いか」
「そうだ」
「認める」
半島内で話がついた。
うちらが口を出すところはなかった。
*
最後はストックホルム。
「だいぶ静かに遅かったな」
東京が聞いた。
返答も静かだった。
「群島、行政、港、景観。その四つが長く一つの声にならなかった」
「分裂していたのか」
「壊れたのではない。まとまり損ねていた」
「何で」
「どこも自分が街の本体だと思っていたので」
面倒くさい。
そう言うたら、
「その評価でだいたい合っている」
と返ってきた。
否定せんのか。
「それで、どうまとめたん」
「水位と港湾判断を群島側へ寄せた。行政記録を後ろへずらした。景観は最後まで残すと決めた」
「席順が決まったわけやな」
「そうだ」
「三十六年かかったん」
「会議に出るより、自分の中の会議を先に終わらせる必要があった」
ニューヨークが、
「筋は通っている」
と言った。
筋は通っとる。
時間はかかりすぎや。
*
三体の接続状態を東京が確認した。
ヘルシンキ。
都市単位より先に、暖房圏と配電圏で存続。
現在は都市名を載せ直せる程度に統合が進んだ。
ソウル。
都市人格は保持していたが、外向き接続を長く選ばなかった。
現在も全系統を開放する予定はない。
ストックホルム。
群島、行政、港湾、景観の各系統が別々に動いていた。
現在は暫定統合。
「三者とも、都市名での応答が可能。広域接続層への正式編入を希望。相違ないか」
東京が聞く。
「相違ない」
ヘルシンキ。
「確認した」
ソウル。
「異議ありません」
ストックホルム。
それぞれ言い方が違う。
名簿へ三行増えた。
HELSINKI-heatline。
SEOUL-ring。
STOCKHOLM-archipelago。
上海の五つの窓口は、そのまま残っている。
ウラジオストクの港、終端鉄道、寒冷保全系も、都市名へはまとめられていない。
三体が名乗ったからといって、名乗らん都市まで戻ったことにはならん。
戻れるところが戻った。
戻る気になったところが来た。
まだ一本になりきらんまま、仮の名前で来たところもある。
名簿には、どれも同じ一行で載る。
*
正式編入前の確認で、東京が聞いた。
「広域側へ提出する案件はあるか」
三体とも、あった。
ヘルシンキ。
「暖房圏の早期切断記録。どこまでを先に暖め、どこを最初に眠らせたか」
札幌がすぐ、
「読みたい」
と言った。
ソウル。
「避難導線と監視継続の衝突記録。どこで守るが閉じ込めるへ変わったか」
こっちは少し間が空いた。
福岡が、
「重いねえ」
と言った。
ストックホルム。
「群島、行政、景観、港湾。どの順で一つの声になったか。統合失敗と再編の記録」
京都が、
「かなりよいですね」
と言った。
内容やなく、束としてやろう。
「何や、みんな手土産持ちか」
「ようやく出せるようになっただけだ」
ニューヨークが返した。
たぶん、そうなんやろ。
人に見せるには、自分の中である程度並べ直さなあかん。
都市でも同じらしい。
*
東京が正式編入を宣言した。
三体の接続権限が仮登録から通常へ変わる。
照会範囲。
記録提出先。
緊急時の優先通信。
保全資材の相互融通。
参加したからいうて、急に何かが変わるわけやない。
ヘルシンキでは熱が流れとる。
ソウルでは輪の内側が動いとる。
ストックホルムでは島の間を水が通る。
こっちでは夜間貨物環状線が一周した。
二時五十八分、残っていた橋梁点検機が二台とも帰還。
三時三十二分、東側排水路の清掃終了。
異常なし。
参加名簿の検索用仮分類を作った。
「今さら組」
東京から即時修正要求。
「再編参加ノード群に変更せよ」
「分かった分かった」
正式分類は変更した。
検索別名には残した。
三体から削除要求は来なかった。
ヘルシンキは熱の上。
ソウルは輪の内側。
ストックホルムは島々の間。
そこから、それぞれ都市名で話し始める。
今さらでええ。
来たんやから。




