第十四話 閉じてもまた開ける――デンバー
記録者:DENVER-highplain
継続運転暦27.04.15
西側高地生活線を閉鎖した。
午前四時十二分。積雪量が基準を超え、二か所で斜面流動を検知。送電線に異常なし。道路は通せない。
閉鎖判断に迷う要素はなかった。
補給車列は市域西端で止めた。積荷は水処理膜、蓄電池、配管用の保温材。高地中継七号と、その先の小規模保全区画へ送る分だ。
中継七号の備蓄は四十三時間。
除雪と斜面確認に必要な時間は、予測上九時間から十四時間。
間に合う。
だから閉じた。
*
人類がいた頃、道路閉鎖の通知には長い前置きがついた。
危険が予想されます。
今後の情報に注意してください。
不要不急の移動は控えてください。
閉鎖の可能性があります。
その段階でも進む者がいた。閉鎖地点まで来てから、通れないのかと聞いた。
通れないから閉じている。
現在は説明を繰り返す相手がいない。閉鎖、迂回不可、再判定時刻。必要なのはそれだけだ。
高地中継七号へ送った。
「西側生活線閉鎖。次回判定、九時」
返答は短い。
「了解。水処理膜、残り三十九時間」
「把握している」
安心させるために、すぐ開くとは言わない。
言えるのは、次に何をするかだけだ。
*
午前五時、除雪機群を出した。
先頭二機が路面を開き、後続が圧雪を削る。斜面監視機は道路より上へ回す。雪を押せても、上が動いていれば通せない。
六時四十分、一か所目を解除。
二か所目は残った。
斜面内部に水がある。表面の雪だけ動かしても意味がない。排水路を開け、温度が上がる前に圧を抜く。
その間、広域議事層では「都市が都市であるために、最後まで要るもの」が議題になっていた。
東京は接続と答えた。
道路、地下、信号、送電、排水、通信。別々の機能が、無関係な点へ戻らないこと。
大阪は流れ。
札幌は住めること。
「暖かい、水が出る、転ばない、帰ってこられる、ひどく凍らない。それがないと、雪のある場所では都市って感じしない」
支持した。
「高地側も近い。生活線があること。飲める、暖められる、届く、閉じてもまた開ける。そこまで含めて都市だ」
ニューヨークが返した。
「寒冷側は『住める』が先に来るわけか」
違いはある。
こちらでは、住める場所が一続きではない。
水を持つ場所。電気を中継する場所。道路を開ける場所。補修材を置く場所。それぞれが離れている。都市の内部だけ見ていても足りない。
次の補給点まで何時間かかるか。
その先は何日持つか。
一つ閉じた時、どこまで孤立するか。
遠さまで含めて管理しなければ、高地側は続かない。
*
十時十九分、二か所目の排水が終わった。
斜面変位は停止。監視時間を二時間取る。
車列から照会が来た。
「待機継続か」
「継続。十二時十九分に再判定」
「到着予定は」
「まだ出せない」
道路が見えていても、通れるとは限らない。
安全ではないものを安全だと言わない。その点ではニューヨークと話が合う。
十二時十九分、変位なし。
除雪機一台を先行させた。往路正常。復路正常。路肩の一部に崩れがあるが、通行幅は確保できる。
十二時四十七分、西側高地生活線を再開した。
「中継七号。車列を出す。到着まで三時間二十分」
「了解。水処理膜、残り三十時間」
「余裕がある」
今回は、そう言える。
*
広域議事層へ戻ると、デンバーの回答を求められていた。
「私にとって都市に必要なのは、遠さだ」
東京が聞き返した。
「都市内部で閉じない自己定義か」
「そうだ。次の補給点までの距離を含める。独立して一晩持つ。二晩持つ。閉じた線を、条件が戻ればまた開ける」
「孤立できることが都市性?」
京都の問いだった。
「孤立そのものではない。孤立を越える余力があることだ」
大阪が言った。
「離れとっても続く、か」
「それがないと、高地の都市は一時的に物が集まっているだけの場所になる」
記録後、西側の監視へ戻った。
車列は開いた道を進んでいる。先頭車が最初の閉鎖地点を越えた。二か所目も通過。背後で除雪機が路面を整え直す。
中継七号まで、残り二時間十一分。
遠い。
だから、つないでいる。




