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月を戴く


夜になり、アリアたちはセリアノ宮へ戻った。

明日の出立式に備えて、十二分に休むためだ。

ユーリだけは、明日までハザトロト神殿で過ごすと言い、王城で別れた。

アリアたちは、新しく出会ったネフェリと共に、セリアノ宮での最後のひとときを過ごした。



「とても豪華な晩餐でしたね。ゆっくりと食事ができたのは久しぶりです」



ネフェリが満足そうに微笑んだ。

聖女に選ばれてからこれまで、神官の仕事の引継ぎに忙殺されていたという。



「でも、明日からはこんなにゆっくりできないよね」



エリーががっかりしたように言った。

アリアも同じ思いだったが、この先の生活に不安はなかった。

貧しい生活をしてきたアリアにとって、国の支援が受けられる旅など、豪華旅行以外のなにものでもない。

問題があるとすれば、ヴェムネルの襲撃に警戒しなくてはならないことぐらいか。



「なんとかなりますよ。……それよりも」


「それよりも?」


「旅の間の勉強をどうするか、考えないと……」


「え、アリア、勉強するの??」


「しますよ。たった五日しか授業を受けていませんし。読み書きだって、必要最低限覚えられた程度ですよ」



アリアは眉根を寄せ、唸った。

勉強をつづけたくても、たくさんの教本を持っていけば邪魔になる。

するとネフェリがアリアの傍へ寄り、自らの顔を指差した。



「わたくしが教えますわ。そうすれば、教本はいりません」



そう言ったネフェリが、聖室にあった白板を指差した。

白版は、魔法のかかった蝋板のようなもので、メモ用に使われるものだ。

たしかに、教えてくれる人がいるなら、白板だけでも問題ない。

アリアはネフェリに感謝し、申し出に甘えることにした。


同時に、この先の旅に想いを向ける。

聖女として、どのように生きていくべきか。

いや、聖女としてやっていけるのだろうか、と。


平民のアリアには、品もなく、学もない。

エリーのような、聖女らしい優しさがない。

ネフェリに至っては模範的な聖女で、比較することすら烏滸がましい。

そもそも帝都に来るまで、花の痣が偽物であればそれでもいいと思っていたのだ。

この場にいること自体、恥ずべきことのような気もした。



(……でも、頑張るしかない)



世界を守るためとか、そういうことは、まだよくわからない。

しかし、聖女に選ばれたのだ。

聖女に憧れる多くの女性たちをおいて、ここにいる。

今更、本当は聖女になんてなりたくなかったなどと、宣われるはずもない。



「……アリア、どうかした?」



顔をしかめるアリアに、エリーが首を傾げる。

アリアはハッとして、「なんでもない」と首を横に振った。



(……今は、自分にできることを……)



エリーのようにも、ネフェリのようにも、なれはしない。

ならば、自分らしく、自分にしかなれない聖女の道を探す他ない。

未だ聖女に憧れを抱けない自分にしかできないことも、きっとあるだろう。


夜風の向こう。

透き通るような星空に光を求め、アリアはこぶしを力強く握るのだった。

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