ペンダント
月が、純白に映えていた。
その白と並べて、アリアは身に着けていたペンダントを掲げた。
古めかしい、月を模ったペンダント。
ユーリと共にいたときのあの熱は、今はない。
しかしはっきりと覚えている。
ユーリに抱く奇妙な懐かしさと共に。
「……いったい、どうして」
アリアは俯き、ペンダントを握りしめた。
瞬間、ペンダントがかすかに温かくなった。
それは、遠く離れた場所で煌めく太陽の光のようだと、ぼんやりと思った。
同時に、ベランダの端から物音が聞こえた。
アリアは、寝ていたエリーが起きてしまったのかと、振り返る。
「……あっ」
不意に、アリアは声をあげた。
エリーと思っていた物音の正体が、ユーリだったからだ。
「ど、どうしたのですか、ユーリさま」
アリアは戸惑いを隠せず、半歩退いた。
するとユーリが頭を下げ、「夜分遅くにすまない」と非礼を詫びる。
「気になったことがあってな。あと、さまは要らないって言っただろ」
そう言ったユーリが、辺りに人がいないことを確認し、アリアの傍へ寄った。
アリアは後ずさりしそうになったが、ぐっと堪えた。
察したユーリが、アリアからわずかに距離を取り、自身の首にかけていたペンダントを手に取った。
それは、太陽を模ったペンダントだった。
アリアが身に着けている月のペンダントとは形こそ違えど、まるで対として作られたかのような美しい意匠だった。
「……これは」
アリアは驚き、唇を結ぶ。
なぜ、同じ意匠のペンダントを持っているのか。
わけがわからなくなり、困惑した表情をユーリへ向けた。
「俺にもわからない。だが、君の傍にいる時だけこのペンダントが熱を放ったんだ。だから、同じものを持っているような気がしてな」
「……どうして」
「わからないって言っただろ。だからこうして、こっそり会いに来た。こんなことを誰かに知られたら、どう思われるかわからない。君もそう思ったから隠したんだろう?」
「……そう、ですが」
「困らせて悪かった。今日は、どうしても確認したかったんだ。……まあ、こうして確認したことで、余計な悩みの種が増えた気もするが」
ユーリが片眉を上げ、アリアの手にある月のペンダントを指差した。
アリアのペンダントは、色褪せ、鈍く輝いていた。古すぎるためか、小傷も多い。
ところが、ユーリの太陽のペンダントはわずかに黄金の輝きを放っていた。
古めかしいが、アリアの月のペンダントよりも数十年は新しく見えた。
「……作られた年代が……違うのでしょうか」
「さあ、それもわからないな。だが繋がりがあるような気もする」
ユーリはそう言って、太陽のペンダントを月のペンダントに近付けた。
すると微かな熱と淡い光が、ふたつのペンダントに宿った。
それを見て、アリアはますます困惑した。
数日前に初めて会ったのに、こんなことあるはずがないのだから。
「ユーリさ……ユーリは、そのペンダントをどこで……?」
「わからない」
「わからない?」
「このペンダントだけを、この世界で目を覚ましたときから握り締めていた」
「……ペンダントだけを?」
「そうだ。だが、俺はこのペンダントのことをよく知らない。いや……覚えてないというべきか。昼間にも言っただろ? この世界で目を覚ます前の記憶が曖昧なんだ」
「そう、ですか」
「逆に、君はどうなんだ。それをどこで?」
ユーリが、月のペンダントを指差す。
アリアは、幼いころにペンダントを貰った時のことを思い出そうとした。
すると脳裏に、記憶の残滓のような光が揺らいだ気がした。
光に触れようとすると、経験したことのない記憶が朧気に見えた。
(……なに、これ?)
アリアは驚き、目を閉じる。
同時に、朧げな記憶の残滓が、溶けるように消えた。
再び思い出そうとしても、その光は現れなかった。
「どうかしたか」
目の前にいたユーリが、訝しむようにアリアを見ていた。
アリアは咄嗟に首を横に振る。
先ほど見えた記憶がなんであるか、思い出せないうえに説明もできない気がしたからだ。
「……そうか。妙な話だが、このまま話してもなにもわかりそうにないな」
「……そう、ですね」
「悪かったな。寝る前に面倒な話をして」
太陽のペンダントを服の裏にしまいながら、ユーリが言う。
アリアはもう一度首を横に振り、深く頭を下げた。
そうして、ユーリと同じく、月のペンダントを服の裏に隠した。
今は誰にも、エリーにさえ知られてはいけない気がする。
アリアはユーリと目を合わせ、互いに小さく頷くのだった。




