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貴族会議


焦っていた。

サンクトロ王との謁見を前にして、アリアとフィナスは王宮の廊下でただじっと待たされていた。

時折、城壁の外から雷鳴がひびく。

ジーンたちの戦いがはじまっている証拠だ。



「……どうして国王陛下はいらっしゃらないのですか……!?」



焦燥感に押され、アリアは声を震わせた。

こんなところで待っている時間などない。

今すぐ行動して、次へ次へと進まなくてはならないのに。

アリアが拳をも震わせると、フィナスがそっと手を重ね、その怒りを抑えようとした。



「アリアさま、お気持ちをお静めください」


「ですが……!」



宥めるフィナスの手を、アリアは強く振り払う。

心を静めることなどできるはずもない。

ここへ来てからずっと、こんな調子なのだから。


エリーたちと別れて王宮の門に着いた時など、門衛はなかなか話を聞いてくれなかった。

やっと門をくぐりぬけても、早朝だから国王には会えないと告げられてしまう。

国王に会えないなら、高官の誰かに取り次げないのか。

アリアは苛立ってそう尋ねたが、執務時間外だからとにかく待てと言われる始末だった。


ようやく謁見の間の前まで辿り着けたのは、フィナスも軍部などを回ってくれたおかげだ。



「ここにいる人たちは、状況がわかっていないのですか?」



アリアは荒げたくなる声を抑えて言う。

フィナスが首を横に振り、辺りを見回した。

先ほどまでより、多くの官僚が行き交いはじめている。

何人かはアリアたちに挨拶したが、ほとんどの者が慌ただしくしていた。



「アリアさま、こうなることはわかっていたのです」


「……わかっていた、ですって?」


「ユーリさまは、あえてペトロトリに直行されました。それは国王陛下への謁見が面倒と思われたからではありません」


「ここで待たされるとわかっていたから……?」


「その通りです。もちろんそれだけではありませんが――」



フィナスが話している最中、謁見の間の大扉が音を立てた。

ようやくかとアリアが背筋を伸ばす。

すると、アリアたちの後ろから多くの貴族たちがやってきた。

誰もが正装していて、整然と謁見の間へ進んでいく。



「……なんですか、あれは。格好をつけている場合ではないのに」


「アリアさま、ともかく我らも参りましょう」



フィナスに背を押され、アリアも謁見の間へ入る。

大扉をくぐると、ずいぶんと立派な格好をした衛兵たちが整列していた。

広間の中ほどには、多くの貴族が無表情で立ち並び、アリアとフィナスへ視線を向けている。

最奥には、国王と神官、そして王族らしき面々が重々しい表情で座していた。



「聖女さま、遠方よりお越しいただき誠に痛み入ります」



貴族のひとりが進み出て、跪いた。

それに倣い、国王以外のすべての者がアリアに向けて跪いた。

気付けば、傍にいたフィナスもアリアに向けて膝を突いている。

その光景に、アリアはひどく苛立った。



(……だから! こんな仰々しいことをしている場合じゃないのに……!)



表情にあらわれそうなほどの怒りがこみ上げる。

すると膝を突いていたフィナスがそっと顔をあげ、アリアに目配せをした。

我慢しろということなのか。

どうしてと口に出しそうになったところに、謁見の間の奥にいた大臣が進み出た。



「聖なる指の恩寵による我らが主、サンクトロ国王陛下の厳かなご命令により、今ここに集いし皆さまに、迫る国難への対応について論じ――」



大臣がつらつらと開会の宣言と演説をはじめる。

それはさほど長くない時間だったが、アリアは呆れて目を丸くさせた。

迫る国難への対応と言いながら、切迫した様子がどこにも見られない。

まるで他人事のように会議をはじめる彼らに、アリアは憤った。



「――それでは守護聖女アリアさま、パラウムストの栄光と安寧のためにお話しください」



憤るアリアに、大臣の声が届く。

アリアは怒鳴り散らしたい思いを必死でこらえ、一歩進み出た。



「……今、北方からヴェムネルの大群が迫っています。その群れの行先はこの王都ケテルゼナンテと、ヴァントールです。どうか今すぐに王都の結界更新を行う儀式を。そしてヴァントールの人々の避難の援助をお願いいたします……!」



アリアが要点を掻い摘み、早口で言う。

すると間を置いて、最奥の国王が小さく頷いた。

次いで、国王の傍らに立つ神官も頷く。

これでようやく茶番が終わり、動きだせるか。

そう思った直後、大臣が口を開いた。



「それでは、サンクトロ王国と王冠の栄光と益のため、この場にて皆さまの忠実な助言を求めることとします」



大臣がそう言うと、謁見の間の中ほどに立ち並ぶ貴族の中から、ひとりの者が進み出た。

彼の静かな助言につづき、次々と、身分順に、そして皆一様に、現状への対策と、王国への忠誠を粛々と述べ立てた。

その助言が十人、二十人とつづくのを見て、アリアは怒りも焦りも通り越し、呆れ果てた。



(……え、これ……いつまで、つづけるの……?)



こんな仰々しいことをしても、なにも意味がない。

さっさと終わらせても結果は同じのはずだ。

自らの手でこの国を滅ぼすつもりなのかと、疑念すら抱く。

アリアは項垂れ、誰にも聞こえないように深く、長いため息をこぼした。



「アリアさま、なりません」



傍にいたフィナスが、アリアに耳打ちした。

アリアはハッと顔をあげる。

呆れることなど許さないと、咎められるのか。

そう思って、アリアはしかめた顔をフィナスへ向けた。



「アリアさま、目と、耳を、閉ざされてはなりません」


「……どうしてです。こんなものを、見て、聞く意味がありますか?」


「あります。アリアさま、どうか改めてご覧になってください」



そう言ったフィナスが、最奥にいる国王に視線を送った。

フィナスに促されるまま、アリアも国王を見る。

すると、国王の座る玉座の後ろで、小さな人影が動いた。

その人影は、国王が二度三度頷くと、玉座のさらに奥へ下がっていく。


アリアは、不思議に思って人影を目で追った。

どうやら、謁見の間には三人ほどの人影が絶えず動いているようだった。

貴族たちの中に分け入っては下がり、また別のところへ分け入り、時折謁見の間の外へと駆けて行く。



「あの人たちは、いったい……」


「彼らはいわば先遣隊です」


「先遣……?」


「アリアさま、このサンクトロにおける結界更新の儀式はすでにはじまっているということです」


「……え、え?」



アリアは驚き、辺りを見回す。

国王や、身分の高そうな貴族に、特に変わった様子は見られない。

ところが、末席にいる幾人かの貴族たちは、会議がはじまったころよりも顔色を悪くさせていた。

明らかになにかに怯え、時折アリアの顔色を伺っているようにも見える。



「謁見の間の外にも、耳をお傾けください」



フィナスが言うので、アリアは素直に外へ意識を向けた。

するとたしかに、謁見の間の外が騒がしくなっていた。

多くの人の声が飛び交い、駆け巡り、何ごとかを進めている。



「外では、結界更新の準備が進んでいると……?」


「それも含め、あらゆる事態に対処する準備をしているのでしょう」


「……では、今ここで話し合っていることは……」


「これも大事な儀式なのです。ここに集まっている方々がそれぞれ抱えているものを守るために」


「差し迫っている危機よりも大事なことですか、それは」


「アリアさま。もちろん、その危機を乗り越えることが最も大事なことでしょう。ですが危機を乗り越えた先も、大事なことなのです」



フィナスの言葉が、アリアを強く打った。

彼の声は静かで温もりもあったが、強く叱りつけられたようだった。



「……私たちとは違う戦いを……しているのですね」


「その通りです、アリアさま」



アリアの言葉に、フィナスが安堵の息をこぼした。

その吐息を聞き、アリアは改めて謁見の間の最奥を覗く。

特に変わらないように見えた国王の手が、かすかに震えていた。

貴族たちが順に、助言と、助言に対する同意を述べるたび、その震えがわずかに増していく。


目前に迫る危機を、国王が最も恐れているのだ。

アリアたちが謁見の間に通される前も、ずっと対処に追われていたのだろう。

他の貴族も同様に。

目通りが叶わなかったのは当然のことだったのだ。


やがて、貴族たちが助言と同意を述べ終える。

国王の手の震えがピタリと止まった。

謁見の間の奥にいた神官と大臣が、国王の傍へ寄る。

彼らはわずかに言葉を交わし、貴族たちとアリアたちへ向き直った。



「聖なる指の恩寵による我らが主、サンクトロ国王陛下のみ言葉を賜ります」



大臣が仰々しく言うと、国王が玉座から立ち上がった。

威厳に満ちた目が、アリアへ向く。

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