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冷徹の下に



「とにかく、王都の結界を更新させる」


「…………え」


「俺は今すぐ、ペトロトリのところに行く」


「ユ、ユーリ……」


「ネフェリ、グラン。ヴァントールは――」


「ユ、ユーリ……! ま、待って!!」



アリアは叫び、食い下がる。

するとユーリの目が、アリアに向いた。

冷静で、力強い意志を宿した、金色の瞳。

それが今は、ひどく憎々しい。



「……ユーリ、ヴァントールを見捨てるのですか?」


「そんなことは言っていない。だが王都を守るのが第一だ」


「そのためにヴァントールを!?」


「違う。聞いてくれ、アリア」


「違わないじゃないですか! 聞きたくありません!!」



アリアは目を剥き、怒りをあらわにした。

ユーリに対してわずかに残っていた信頼が、掻き消えていく。

剣の柄に手をかけると、皆の身体がびくりと震えた。

ところがユーリだけは微動だにせず、ただ静かにアリアを見据える。



「アリア、聞いてくれ」



透き通る声が、アリアの胸を叩いた。

アリアは一瞬心を揺らがせたが、すぐに首を横に振る。



「……嫌です。私だけでも、あのヴェムネルを食い止めに行きます」


「アリア、君の怒りも焦りも、今ならわかる」


「……今、なら? 私はもう、たった今、あなたがわかってくれるなんて思えなくなりましたが」


「そうか。それなら、これを最後にしてもいいから聞いてくれないか」



そう言ったユーリが、ケテルゼナンテの王宮の塔を指差した。

アリアは噴き出す怒りをなんとか抑え込み、ユーリが指す先を見る。

ペトロトリの赤い光が、塔の先端に輝いていた。

その赤が、ユーリの指に応えるようにして瞬く。



「王都の結界更新をもって、ケテルゼナンテとヴァントールを同時に救う」



その言葉に、アリアだけでなく、皆が目を見開いた。

そのような奇跡を起こす余地など、どこにもないはずなのだ。

しかしユーリの金色の瞳に迷いはない。



「王都の結界更新は、儀式通りに行う」


「儀式を……? そんな余裕が、ありますか……?」


「余裕がなくてもやるしかない。そうすることで、俺と聖女の力が増すのだからな」



そう言ったユーリが、山のようなヴェムネルを指差した。

まさかと、フィナスが驚きの声をあげる。



「この王都の結界を更新して、あのヴェムネルを倒せるほどの力を得られると?」


「得られる。その根拠は、魔法人形である俺にしかわからないとしか言えない。だが最悪のためにヴァントールの人々は避難をはじめるべきだ。そのことに異存はないだろう?」



ユーリが尋ねると、フィナスとグラン、そしてネフェリが頷いた。

半信半疑のエリーとジーンは、眉根を寄せながらもユーリの考えに従うと決める。

残るはアリアのみとなり、皆の目が集中した。

アリアは疑心暗鬼を払拭できずにいたが、しぶしぶ頷く。



「あなたを信じたわけでは、ないです」


「それでもいい」



ユーリが頷き、アリアを見据える。

次いで、皆の顔を見てから、王都と旧王都防衛の作戦を伝えた。


作戦の内容は、単純なものだった。

第一に、ジーンとエリーの力でヴェムネルの進行を妨げる。

第二に、グランとネフェリが旧王都ヴァントールに赴き、人々の避難を誘導していく。

その間、アリアとフィナスは登城して、結界更新の儀式を行うように要請する。

結界更新によって力を得られたら、ヴェムネルの一掃をはじめるという流れだ。



「ネフェリは、避難の目途が立ったらすぐにエリーたちと合流してくれ」


「承知いたしましたわ」


「避難とヴェムネル進行妨害のやり方は任せる。フィナス以外の聖護騎士は、全力でネフェリとエリーたちを援護してくれよ」


「近くにいる王国騎士たちを避難のために連れて行ってもよろしいですか?」


「口八丁で彼らを説得し、できるかぎり多く連れて行け。彼らを借り受ける正式な手続きをする暇などないからな。咎めは俺があとで全部受けよう」


「咎められることはないと思いますが、そのようにいたします」



ネフェリが頷き、グランと顔を見合わせる。

グランが手をあげ、四人の聖護騎士が集った。

ネフェリとグランは、ユーリに向けて一礼し、すぐさま高楼を駆け降りていく。

その背を見送るエリーが、心配そうな表情をユーリに向けた。



「……ユーリ、これだけでは、足りないと思うの」


「わかっている」


「なにか他にできることは……」



エリーの問いに、ユーリが首を横に振る。

できることを全力でする他ないと、重ねて伝えるのみだった。


エリーとジーンが高楼を降りたあと、ユーリはフィナスに向く。

フィナスの肩がぴくりと揺れた。

なにをすべきか、言われなくともわかる。

絶対に失敗できず、遅れることも許されない使命だ。



「フィナス。王宮で結界更新の儀式が行われることになったら、すぐに彼らとともにペトロトリのところまで来い。目安は……正午だ。それを過ぎれば、おそらく間に合わなくなるだろう」


「ユーリさまは?」


「俺は王宮へ行く暇はない。今すぐにペトロトリのところへ行く」


「承知いたしました」



フィナスが深々と礼を捧げる。

アリアも彼に倣って頭を下げたが、ユーリの目はすでにペトロトリへ向いていた。

ユーリの手に、魔法の鎖があらわれる。

その鎖を王宮に向けて放ち、ユーリは鎖を伝って一直線にペトロトリまで駆けていった。



「アリアさま、我々も行きましょう」


「……はい」



アリアは目を細め、頷く。

ここに至っては、ユーリへの反発はただの害にしかならない。

アリアは釈然としない想いを飲み込み、フィナスとともに王宮に向けて駆けるのだった。

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