表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

城壁


城壁に辿り着くや、アリアたちは馬車を飛びだし、城壁の階段を駆け上がった。

城壁の上には、百を超える衛兵たちと、数人の魔法使いの姿。

駆けつけてくれたアリアたちの姿を見て、彼らから歓声が上がる。



「ヴェムネルは!?」



アリアが叫ぶと、数人の衛兵が城壁の外を指差した。

その光景に、アリアは息をのむ。


大小さまざまなヴェムネルが複数、ひしめき合い、城門を含めた城壁に体当たりをしていた。

今のところ、結界で強化されている壁には、傷ひとつない。

だが、ヴェムネルがぶつかるたびに土煙が舞い上がり、結界が波打って震えている。

結界が壊れるのは時間の問題だと、警告するようだった。


ヴェムネルの群れの中に、人の身体の五倍はある巨大なヴェムネルがいた。

その巨躯から放たれる、禍々しい圧と、凶暴な咆哮。

城壁の上にいる衛兵たちが皆、慄く。

咆哮とともに繰り出される一撃に、城壁と結界だけでなく、大地さえも揺れ動いた。



「ヴェムネルの数は、十五体です」


「十五も!?」


「弓矢や投槍、魔法でも応戦しましたが、全く歯が立たず……」



衛兵たちが悔しそうにうなだれる。

だが、その目にはまだ闘志が残っていた。

「何かできることはないか」と、アリアたちに詰め寄る。

その間も、ヴェムネルによる結界への攻撃は止まず、大地は絶えず震動しつづけた。



「アリアさま、あれを」



不意に、フィナスが城壁の上にあるものを指差した。

それは、丸太などの建材だった。

アリアはフィナスの目を見て、何をするべきかはっきりと悟る。

衛兵たちに振り返り、丸太を工作するよう指示をだしていった。



「あの丸太で、どうするの??」



衛兵たちに指示を終えたアリアとフィナスに、エリーが不安そうな顔を見せた。

アリアも不安だったが、顔には出さずに微笑む。

いや、微笑まなければ、恐怖で頬が引き攣りそうだった。

ヴェムネルの絶え間ない攻撃により、結界に広がる波は歪になり、わずかな亀裂すら見えはじめている。



(……もう、やるしかない)



これまでの戦いで、自身の力を過信していたわけではない。

しかし、今わずかにでも逡巡すれば、どうなるか。

誰かが、また犠牲になるかもしれない。

アリアは恐怖は押し殺し、一歩でも踏み出す勇気を捻りだし、剣を抜いた。



「聖女さま! 準備できました!」



衛兵たちの声に、アリアは振り返る。

用意されたものは、丸太を何本も組み合わせた二本の橋板だった。

その橋板の長さは、城壁の上から下まで届くほどに調整されている。

片側には何本ものロープが結ばれていて、その先を城壁の上にいるすべての衛兵が握りしめていた。



「え、まさか、これで降りるの??」


「降りるというより、上から襲撃するんです」



アリアが自分の身体にロープを結びながら言う。

フィナスとグランも同様にロープを結び、橋板の先へ繋いだ。



「エリーとネフェリは、城壁の上から援護してください」


「アリアだけ、危ないよ!?」


「大丈夫です。フィナスさんとグランさんもいますから」


「だけど!」


「時間が無いの。ユーリが結界を張り直すまで、何とか食い止めないと」



アリアはエリーの制止を振り切り、自らに結んだロープの先をフィナスとグランに託す。

フィナスが意を決して頷き、アリアのロープを握り締めた。

覚悟が揺らがないうちに、アリアは橋板の先へ移り、突き立てられていた金具を掴む。

フィナスとグランも、アリアとは別の橋板へ行き、金具を掴んでから衛兵たちに合図した。



「おおおおおおお!!!!」



衛兵たちが一斉に声をあげる。

アリアが乗る橋板と、フィナスとグランが乗る橋板を、城壁の外へ突き出された。

突き出た橋板が一気に落ちないよう、反対側の先端に結ばれた何本ものロープを、衛兵たちが必死に引っ張る。



「降ろせー!!」



フィナスが合図の声をあげる。

すると、アリアが乗る一本の橋板が、城壁の下にいるヴェムネル目掛けて倒された。


橋板の先が、ヴェムネルに激突する寸前。

アリアは剣を構えて飛び上がる。

輝く光を剣身に宿し、城壁を攻撃しているヴェムネルの頭上へ迫る。



「はああああ!!」



アリアは吠え、一息にヴェムネルの頭部へ剣を突き立てた。

光がヴェムネルを斬り裂き、禍々しい圧を霧散させていく。

地面に着地したアリアは、立てつづけに周囲のヴェムネルを斬りつけた。

眼前の城壁ばかりを見ていたヴェムネルは、突然の襲撃に慌てふためく。



「やった! 成功!?」



城壁の上で歓声を上げたエリーを、ネフェリの声が抑えた。



「いえ、まだですわ!」



ネフェリはすぐさま巨大な水球を作りあげていく。

城壁の上から見るかぎり、アリアの襲撃に驚いたヴェムネルは五体ほどだった。

それ以外は、アリアの動きに惑わされることなく、城壁への体当たりをつづけていた。

ネフェリはそれらのヴェムネルに向け、水球を落としていく。

エリーもやや遅れて、土塊を落としていった。


地上で戦うアリアは、焦っていた。

最初こそ頭上を狙えたが、今は違う。

目の前のヴェムネルは、これまでのそれより二倍以上はある巨体だった。

足元を斬りつけても深手を与えられない。

むしろ、一瞬でも気を抜けば踏み潰されてしまう。



「アリアさま! 引き上げます!」



上から、フィナスの声。

アリアは剣を振って合図する。

アリアの身体に括りつけていたロープを、フィナスとグランが引き上げた。

同時に、アリアが乗っていた橋板も上がっていく。



「お怪我はありませんか」


「上でフィナスさんたちが見てくれていますし、エリーとネフェリの援護もありますから」


「ご無理はなさらず。次はもう少し短い時間で引き上げましょう」


「わかりました」



アリアは頷き、自分の橋板へ飛び移る。

機を見て、フィナスが衛兵たちに合図を出した。

再びアリアが乗る橋板が、眼下のヴェムネル目掛けて落ちていく。


アリアは剣を構え、ヴェムネルたちを見据えた。

一体だけでは足りない。

一度に二体ぐらいは倒さなければ。

震える手を叱咤し、ヴェムネルの頭部に光り輝く剣を突き立てる。


霧散して消し飛んだヴェムネルから、アリアはもう一体の頭部目掛けて、飛んだ。

上からアリアの動きを見て察したフィナスとグランが、ロープを操り、アリアの動きを補助する。



「いけえええ!!」



叫び、剣を振り下ろす。

頭部からわずかに逸れ、赤い息を吐きだす大きな口元を斬り裂いた。

ヴェムネルがアリアに向き直り、大きな口を開く。

真っ赤な口の中の、無数の牙。

喰われたら、即死だ。

アリアが歯噛みした直後、フィナスとグランがロープを引き上げる。

その動きに合わせ、アリアは剣を振りあげて再びヴェムネルの大口を斬り裂いた。


怯むヴェムネルの頭部に、アリアは剣を突き立てる。

三体目。光に千切れて、霧散した。



「アリアさま! もう一度上がりましょう!」


「お願いします!」



アリアが剣を振って合図する。

すると複数のヴェムネルが咆哮を上げた。

驚いて、周囲を見回す。

先ほどまで城壁に向かって殺到していたヴェムネルが、一斉にアリアへ襲いかかった。


フィナスとグランはすぐさまアリアのロープを引いたが、間に合わない。

アリアのロープと橋板は、ヴェムネルの鋭い爪に無惨にも断ち切られた。

城壁の上へ戻る手段を失ったアリアは、ヴェムネルに取り囲まれる。



「ど、どうして!?」



城壁の上にいたエリーが、声をあげた。

先ほどまではたしかに、半数以上のヴェムネルはアリアに目もくれず、城壁を襲っていた。

なのになぜ、反転してアリアを襲ったのか。



「ヴェムネルは知能の低い獣じゃないの!?」


「そんなこと言ってる場合じゃありませんわ!」



ネフェリとエリーは、必死に水球と土塊を生みだし、ヴェムネルへぶつけていく。

その必死の集中力が功を奏してか。

ネフェリの水球は勢いを増し、エリーの土塊は大岩と化し、ヴェムネルを傷つけるほどになった。

しかし、足りない。

ヴェムネルの数を減らすには、どうしても至らない。


焦ったのは、フィナスとグランも同様だった。

ふたりは、自分たちが乗る橋板を下ろすように合図し、自らに括りつけたロープを断ち切る。



「行くぞ、グラン! アリアさまを護るんだ!」


「……承知」



二人が意を決した瞬間、橋板が勢いをつけて降ろされた。

眼下に、護るべきアリアの姿。

アリアに迫る、十二体のヴェムネル。

もはや勝ち目はない。

ここで命尽きるだろう。



(せめてアリアさまを逃がさなければ!)



フィナスとグランは雄叫びを上げ、アリアに迫る一体のヴェムネルに剣撃を加えた。

無論、斬れはしない。

それでも、一瞬怯めばいい。

生じた隙を、アリアは逃がさない。


フィナスとグランの後ろからアリアは飛び掛かり、剣の光をヴェムネルに叩きつけた。

なんとか霧散したヴェムネルと、わずかに生きる時間が延びたフィナスとグラン。

アリアはふたりのもとへ駆けつけ、剣を構え直す。



「アリアさま! お逃げください!」


「ダメです! そんなこと!」



逃げれば、フィナスとグランは死ぬ。

それは間違いない。

だが、ここで戦いつづけても……



(……ううん、諦めない! きっと――)



アリアは天を見上げた。

直後。

空が、青紫色の光に染まった。

何ごとか? 考えるまでもない。

信じていたのだから――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ