意志への信仰
ドン、と。
地上へ上がった瞬間、大きな音が鳴りひびいた。
「アリア!!」
エリーの声。大館の階上から降ってくる。
見上げると、慌てふためくエリーとネフェリ、そして震えているジーンの姿があった。
「何があったか、わかる!?」
「わからないけど、城壁のほうに土煙が!」
そう言ったエリーが、窓の外を指差す。
大館の階段を駆け上がったアリアは、エリーの指が向く先へ視線を送った。
そこには、城壁の外側で立ち上がる土煙と、細かく波打つ結界の光。
ユーリの言った通り、ヴェムネルの襲撃に違いない。
「ヴェムネルよ。追い払いに行きましょう!」
「でも、ヴェムネルは結界を壊せないんじゃ……!?」
「ユーリが、壊されるかもしれないって!」
アリアが言うと、エリーとネフェリの顔つきが変わる。
恐れというより、追い払いに行くべきという覚悟を決めたのだ。
対して、三人の様子を見ていたジーンは震えあがった。
「……た、戦う、のです、か……!?」
震えるジーンに、エリーがにこりと微笑む。
「すぐ帰ってくるから、待ってて」
「……ほ、本当、ですか」
「もちろん」
そう答えたエリーが、ジーンの頭をそっと撫でた。
しかしエリーは恐怖を抑えきれておらず、頭を撫でる手をかすかに震わせている。
それを察したジーンが、青ざめた。
エリーの手を掴もうとして、手を伸ばす。
「平気よ。きっと何とかなるから!」
ジーンが伸ばした手を握るエリーが、小さく笑った。
そうして立ち上がり、ネフェリと共に階段を駆け降りる。
出遅れたアリアは、震えているジーンに目をやった。
「大丈夫です、本当に」
アリアが腰を下ろして言うと、ジーンの視線がアリアへ向く。
「ラデルナル聖教の教えにもあるでしょう? ヴェムネルは知性のない獣と。だから簡単には結界を破れないし、破らせもしません」
「……で、でも」
「それに、私たちは世界の意思によって選ばれ、加護を与えられています」
「……意志と、加護」
「聖なる指の意志と加護についても、聖教の教えから学ばれているでしょう?」
「……は、はい」
聖なる指とは、世界に建つふたつの聖なる塔のことだ。
「新緑の塔」と「賢者の塔」と呼ばれるふたつの塔には、力強い意志がある。
その聖なる意志と加護は絶大とされていて、歴代の魔法人形と聖女にいかなる困難が振りかかろうとも倒されることはなかったと、ラデルナル聖教は教えている。
「だから、大丈夫。私たちも、ジーンさんも」
アリアは腰の剣に手を当て、微笑んだ。
そう。大丈夫だ。
こういう時くらい、なにかを盲信したっていい。
剣を握る手の震えは、気持ちを前に向けるためのおまけのようなものだ。
「信じていますから」
アリアはジーンの肩にとんと触れ、立ち上がる。
次いで、飛ぶように階段を駆け降り、大館を出た。
大館の玄関先には、すでに馬車が用意されていた。
グランが御者台に座り、馬車の傍らにフィナスがいる。
「行きましょう、アリアさま」
フィナスの呼びかけに応じて、アリアは馬車に飛び乗った。
すでに座席に座っていたエリーとネフェリが、アリアと目を合わせ、ごくりと唾を飲み込む。
「大丈夫。いつも通りに戦いましょう」
「ええ」
三人は大きく頷いた。
同時に、馬車が駆けはじめる。
遠く、城壁の向こう。
複数のヴェムネルの咆哮が上がった。




