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希望の聖輪


絢爛豪華。

それ以外の言葉を、アリアは見つけられない。

魔法人形と聖女の出立式は、王城の謁見の間で執り行われた。

集まっていたのは、各国の王や大使、そして帝都に住む大貴族たち。

煌びやかな装飾品とうわべの笑みが、アリアの目に痛い。



「本来はもっと豪華な予定だったそうですわ」



ネフェリが微笑みを浮かべながら言う。

出立式が急遽早まったため、準備が間に合わなかったらしい。

それでも十分すぎるほどだとアリアは心の内で苦笑いした。

この国は、どうしてこんなにもお金をかける必要があるのだろう。



「世界は未だ平和なのだと宣伝しなくてはなりません。厳粛な出立式では、貴族も民も、世界の未来を憂いてしまうでしょう?」



そうなればどうなるか。

人々は我が身可愛さに保身へ走る。

財布のひもを締め、移住することも考え出す。

地に足を付けて魔法人形と聖女を支援する奇特な者は、少ない。

ネフェリの冷静な言葉がアリアの心を冷やした。


謁見の間から王城前へ出ると、帝都中の人々が待ち構えていた。

王城前の広場は、魔法人形と聖女が進む道以外、人で埋め尽くされている。

アリアたちが馬車に乗って姿を現すと、地が震えるほどの大歓声が上がった。



「笑顔で、お手をお振りください。帝都の城門から外へ出るまで」



同行していた騎士が、アリアたちにだけ聞こえるように言った。

すでにネフェリは手を振り、微笑みを振りまいている。

アリアとエリーは彼女に倣い、笑顔を貼り付けて手を振った。


アリアたち以外に、四人の女性がその場にいた。

まだ見つかっていない四人の聖女役だ。

公には、七人の聖女が揃って出立したことになる。

本物の聖女らしい彼女たちの傍で、アリアは複雑な想いを抱きながら手を振りつづけた。



「お疲れさまでした、聖女さま」



城門の外に出ると、四人の聖女役はその場で着替え、帰っていった。

残されたのは、ユーリと、三人の聖女。そして護衛の騎士が百人ほど。



「これより、サンクトロ王国へ向かいます」


「護衛の騎士さまは、このまま皆さん付いてきてくれるのですか?」


「いえ、十二人だけが残ります。他の騎士たちは帝都が見えなくなるまで進んだあと、別れます」



そう言ったのは、フィナスと名乗る銀髪の騎士だった。

彼は聖女のために結成された聖護騎士団の副団長だという。

フィナスの言葉に、ユーリが大きく頷いた。

同行する騎士の数を減らすように言ったのは、ユーリなのだ。



「それでは出発しましょう。都内と違い、揺れますよ。なるべく早く慣れてください」



フィナスが小さく笑い、馬車の御者に声をかけた。

ゴトン、と。馬車が進みはじめる。

しばらく進むとフィナスが言った通り、ガタガタと揺れだした。

その揺れはアリアにとって苦ではなかったが、エリーは違ったらしい。

帝都が見えなくなるまで進んだころには、ぐったりとしていた。



「エリーさん、大丈夫?」


「……う、ん……ネフェリは、平気なの……?」


「わたくしは神官の仕事で各地を回っておりましたから慣れております」


「……うう、私だけ箱入りみたいで……情けな、い」



がくりと項垂れるエリー。

「そんなことない」とアリアは励まし、エリーの手を握った。

そこへ、グランと名乗る寡黙な騎士がやってくる。

大柄な身体とは対照的に、物静かな騎士だった。


押し黙ったまま馬車へ寄るグランに、アリアは身じろいだ。

すると彼は懐から小さな袋を取り出す。

袋の中には薬が入っていたが、なにも言わないので、何の薬かはわからない。

困っていると、ネフェリが身を乗り出した。



「これは、酔い止めの薬ね。ありがとうございます、グランさん」


「……はい」



短く答えたグランが、頷く。

いつの間にか傍にいたフィナスが、グランの代わりに色々と話してくれた。


グランとフィナスは若い騎士だが、騎士団では指折りの屈強な戦士であるらしい。

この旅では常に傍で護衛してくれるという。

フィナスとグランに次いで強い残りの十人の騎士たちは、もうこの場にはいなかった。

道中の安全確認のために、先行しているという。

丁寧に教えてくれるフィナスはとても気さくな性格で話しやすい男性だった。



「ところで、アリアさま。私のことを覚えていますか?」



フィナスが微笑みながら首を傾けた。

アリアは首を傾げ眉根を寄せる。



「ハザトロト神殿の広間でお会いしました。ほんの少しだけですが」


「……あ、あの時の」



アリアは驚き、目を見開いた。

ハザトロト神殿で聖女と認められたとき、アリアに手をあげた貴族の女性を拘束してくれた騎士だ。

覚えていなかったことを深く謝罪すると、フィナスは愉快そうに笑った。



「ふふ、でも記憶の片隅にあって良かったです。カッコイイ感じで思い出してもらえましたか?」


「ええ、本当に」


「それは嬉しい」



フィナスがにかりと笑う。

端正な顔立ちから作られる笑顔は、言葉にできない破壊力があった。

これまで男性を異性として見たことがなかったアリアは、心臓が高鳴る理由がわからず、咄嗟に顔を伏せる。

隣にいたネフェリが察して、とんとアリアの背を撫でた。



「あらあら、無垢な乙女をたぶらかすイケない騎士さまがいらっしゃるようですね」


「え、あ、いや、そんなつもりは……!?」


「ふふ、冗談ですわ。でもアリアさんにはこれから、色々と刺激的な毎日が訪れそうですわね」



ネフェリの艶っぽい声が、アリアに触れる。

本当にその通りだと、アリアは顔をしかめた。


つい最近まで貧しい生活を送っていたのに、今はまるで違う。

聖女になり、綺麗な服を着て、豪華な馬車に乗り、護衛の騎士が侍っている。

世界を救う旅に出て、目まぐるしく変わっていく状況。

アリアは誰にも聞こえないように溜息を洩らすのだった。

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