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嫉妬と心動の境界

王都の朝は、いつもよりざわついていた。

 通りにはパンの香りと魔導車の音、そして時々、遠くから「また爆発したぞ!」という悲鳴。


 そう、それは大体――俺のせいだ。


(ああ……前の世界では寝坊で怒られ、今は心臓が動くだけで怒られる。人生って不公平だな……)


 ため息をつきながら外に出ようとした瞬間、扉が勢いよく開いた。


「おはようございますっ!勇者様っ!」


 リナが全力で飛び込んできた。

 鎧の隙間からのぞく素肌が、朝の光にきらめく。


「……ノックぐらいしろよ」


「できません!敵はいつ襲ってくるか分かりませんから!」


「敵よりお前の登場が怖いんだよ」


「それにっ!」

 リナはぐいっと顔を寄せた。

「昨日、レイナさんがあなたの部屋に来てましたよね?」


「……あれは魔力安定の練習だ」


「嘘です!女の人があんな顔で練習なんてできませんっ!」


 その瞬間、床下で「ボフン」と音がした。

 魔力計が勝手に赤く光る。


(やばい、このままじゃ部屋ごと吹っ飛ぶ……!)


 昼。

 王立魔導院の訓練場。


 レイナが魔法陣の中央で、冷静に俺を見つめていた。


「瞬、魔法とは“心の形”よ。

 心が乱れれば、世界が乱れる。

 けれど、心を抑えすぎると魔力は死ぬわ」


「つまり、恋愛は必要悪ってことか?」


「……そうかもしれないわね」


 レイナが微笑んだ。

 その微笑みに、世界が一瞬止まる。


(おいおい、そんな顔すんなって……)


 心臓が鳴る。


 ドクン。


 訓練場の端から火花が散った。


「……また心動上昇ね。集中しなさい!」


「いや無理だって!」


 彼女の髪が揺れるたびに、炎の色が濃くなる。


「もう……本当に手のかかる人ね」


 そう言って、レイナは近づき、俺の額に指をあてた。

 柔らかい指先。

 熱が、伝わる。


 ドクン――。


 轟音とともに、炎の柱が天へ昇った。


「……相変わらず派手ね」


 冷ややかな声が響いた。

 廊下の奥、ワイングラスを傾けながら立っていたのはセラ王女。

 今日はいつもより危険なドレスだった。

 背中が、全部見えてる。


「殿下!ここは訓練場です!お酒は禁止です!」


「これは観察用。科学のためよ」


「科学っていうならその胸元をまず閉じてください!」


「なぜ? “心動”を観測するには刺激が必要でしょう?」


 セラが一歩近づく。

 空気が震える。


「さあ、勇者くん。

 あなたの“反応”を、私に見せて」


「ま、待っ――」


 ボオオォン!!


 王都の外壁がまた吹き飛んだ。


 夜。

 王城の庭園。二つの月が浮かび、静かな風が吹く。


 俺の前に、三人の女性が並んでいた。

 レイナは白のローブ、リナは軽鎧、セラは黒のドレス。

 月光の下、三人とも、綺麗すぎた。


「今日こそ練習よ。心動を抑える訓練」――レイナ

「違います!一番に心動させる練習です!」――リナ

「ふふ、どちらでもいいわ。勝った者が勇者の“心”をもらうだけ」――セラ


 三人の視線が交錯した瞬間、風が止まった。


 ドクン。


 地面が震え、庭園の花が一斉に咲き誇る。

 空には三色の光――紅、蒼、白。


「……これが、俺の“心動魔法”の限界か……」


 三人が同時に言った。

「じゃあ――誰に、一番心動いたの?」


 俺は、息をのんで答えた。


「……この世界に、だ」


 一瞬の沈黙。

 そして、レイナが微笑み、リナが顔を赤くし、セラがグラスを掲げた。


「ずるい答えね」

「でも……嫌いじゃないです」

「この世界が燃えるのも、悪くないわ」


 二つの月の下、火のように熱い夜が、静かに続いた。

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