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王女の誘惑と恋愛禁止法

王都イグリア――白い石造りの城壁、赤い屋根の家々、行き交う人と魔物。

 どこを見ても、まさに「異世界」。


 ただし、俺の心臓は一日中、爆発しそうだった。


「恋愛……禁止?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず耳を疑った。


 城の大広間。

 玉座に座る老王と、隣に控えるセラ王女。

 そして、横で俺の腕をぎゅっと掴んでいるリナ。


「そうです、勇者様。王都では“心動魔法”が危険指定されています。

 恋愛や強い情動を禁止しなければ、街が吹き飛びます」


 セラ王女が微笑みながら言う。

 その声、落ち着いてるのに、どこか挑発的だった。


「……まさか、俺が恋したら犯罪ってこと?」


「ええ。あなたがドキドキした瞬間、法律違反です」


「いやいや、そんなバカな法あるか!」


 レイナが冷静に口を挟む。

「殿下、それは極端です。彼は制御を学べば――」


「レイナ。あなたこそ危険です」

 セラは静かに言った。

「毎晩、心拍数が上がる音が王宮中に響いています」


「な、何を……!」

 レイナの顔が真っ赤になる。

(まさか聞かれてたのか、昨日の“寝息事件”……!)


 リナは不満げに口を尖らせた。

「ずるいです!私だって勇者様と訓練してたのに、何も起きませんでした!」


「お前、触るなって言っても抱きついてきただろ!」


「それは“スキンシップ訓練”ですっ!」


 その瞬間、全員の間に静電気が走った。


 ドンッ!!!


 城の天井が少し焦げた。


「……はい、やっぱり恋愛は禁止ですね」

 セラは優雅に笑う。

「あなたを閉じ込めて、私が管理します」


(管理って何だよ……!?)


 その日の夜。

 俺は王宮の一室に“隔離”されていた。


 窓の外では、月が二つ重なって輝いている。

 眠れずにため息をついていると、扉がそっと開いた。


「……瞬?」


 入ってきたのはレイナだった。

 白い寝間着姿、髪を下ろしたまま。

 柔らかい雰囲気に、心臓がまた騒ぎ出す。


「おい、来るな。燃えるぞ」


「平気です。今日は、あなたの魔力を安定させに来ました」


 そう言って、ベッドの端に腰を下ろす。

 近い。あの距離だ。俺の脳が警報鳴らす。


「安定って……どうやって?」


「手を、握ってください」


(……死亡フラグ)


 言われるままに手を握ると、彼女の指が震えていた。

 それでも目は真剣。


「……心を落ち着かせて。

 感情に呑まれないように、自分で“心動”を制御するんです」


 目を閉じる。

 その瞬間、彼女の息が頬に触れた。


 ドクン――。


 ボォォォォン!!!


 カーテンが燃えた。


「やっぱり無理です!!!」


「落ち着いてっ! 落ち着けって言ってるでしょっ!」


 レイナが慌てて魔法で火を消す。

 煙の中で、俺たちは見つめ合った。

 そして、不覚にも笑ってしまった。


「……バカですね、あなた」


「お互い様だろ」


 沈黙。心臓の音だけが聞こえる。

 そして、二人ともそっと目をそらした。


 翌朝。

 今度はリナが部屋に押しかけてきた。


「おはようございます勇者様っ!」


「朝から元気だな……」


「はいっ!今日は“抱きしめ耐性訓練”です!」


「どんな訓練だよ!?」


 気づけば、彼女の両腕が俺の腰に回っていた。

 近い。柔らかい。いい匂い。


 ――ドキン。


 パチパチッ……!!


 天井のランプがショートした。


「うわー!また光ったー!すごいです!」


「俺は寿命削ってるんだよ!!」


 その日の午後。

 セラ王女が執務室に俺を呼び出した。

 部屋には香の煙と甘い果実酒の香り。


「ふふ……可愛い顔ね。

 女たちがあなたを奪い合う理由が少し分かったわ」


 セラがゆっくり立ち上がり、俺の頬に触れる。

 冷たい指。なのに、体が熱くなる。


「あなたの“心動”を研究するには、もう少し近くで観察しないと」


「ちょ、ちょっと近――」


「動かないで。これは“実験”よ」


 唇が、ほんの数センチまで迫った――


 ドクンッ。


 ゴオオオオオオッ!!!


 城の尖塔が吹っ飛んだ。


「……ふふ。いい反応ね」


「いや、良くねぇよ!!」


 夜。

 爆発修理の鐘が響く王都で、俺は屋根の上に座っていた。


(くそ……マジで恋愛禁止法が必要かもしれん……)


 けど、思う。

 この世界の魔法は“心”の力。

 なら、恋も、恐怖も、全部“生きる証”なんじゃないか。


「……燃えてもいいか」


 その時、背後から声がした。


「燃やすなら、私の心にして」


 振り向くと、そこにはレイナ。

 少し離れたところに、リナも立っていた。

 そして遠くの塔からは、セラがこちらを見下ろして微笑んでいる。


 三人の視線が交わる。

 空気が熱を帯びる。


 ――ドキン。


 王都の夜空に、三色の光が舞い上がった。

 赤(恋慕)、青(嫉妒)、白(憧憬)。


 爆音と共に、花火のように弾ける。


「……ま、いっか」


 俺は笑った。

 恋愛禁止法?

 そんなもん、この胸の鼓動が決める。

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