表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

心拍数130の女魔導士

 朝日が昇る。

 昨夜の焚き火は跡形もなく消え、代わりに鳥の声が森に響いていた。


 目を覚ますと、俺の隣には――銀髪の女魔導士、レイナがいた。

 寝顔が近い。近すぎる。


 息を吸えば、甘い匂いが鼻をくすぐる。

 頬が触れそうな距離。


(や、やべえ……近い……)


 ――ドキン。


 ボフッ!!


 焚き火の残り火が再燃した。


「っ!?また発動しましたね……!」


 レイナが慌てて跳ね起き、俺を睨む。

 寝起きの顔がちょっと赤い。


「も、もう少し制御を……っ、できないんですか?」


「無理に決まってんだろ!寝起きでいきなり美人と密着とか心臓止まるわ!」


 レイナは溜息をつきながら、ローブを整えた。

 それでも耳まで赤いのが見えて、俺は思わず笑ってしまった。


「……何がおかしいんです?」


「いや、可愛いなと思って」


 ――ドカァァン!!


 今度は空が爆ぜた。

 雷雲が一瞬発生し、周囲の木に雷が落ちる。


 レイナは一瞬凍りつき、そして小声で言った。


「……バカ」


 その日、俺はレイナの案内で王都へ向かうことになった。

 魔導士としての彼女の任務は、“異界召喚者の保護”。

 つまり俺の監視役だ。


「いいですか、瞬。あなたのスキル“ハートリンク”は極めて危険です。

 制御できないと、国ひとつ消し飛びます」


「恋したら国滅ぶとか……ロマンチックだな」


「洒落になってません!」


 そんなやりとりをしていると、道の向こうから声がした。


「おーい、レイナ先輩ーっ!!」


 振り向くと、栗色のポニーテールの少女が全力で走ってきた。

 軽装の鎧に槍を背負い、元気いっぱいな雰囲気。


「紹介します。王都防衛隊の新人、リナです」


「リナ・フォルティナです!よろしくお願いします、召喚勇者様っ!」


 眩しい笑顔で手を差し出してくる。

 思わず握り返すと――


(うわ、手が小さい……温かい……)


 ――ドキン。


 バチィッ!!


 今度は指先から火花が散った。


「わわっ!?今のなにっ!?」


「……心拍数上昇による火属性反応です」


 レイナが冷静に解説してるが、俺はもう死にたくなっていた。


「ちょ、ちょっと、変なスキル持ってるんですね!すごいです!」

 リナは目を輝かせて言った。

 近距離で笑うな、危険だっての。


(やばい、この子、純粋系の地雷だ……!)


 昼過ぎ、王都の門にたどり着く。

 そこには一人の女性が待っていた。


 黒髪、黒いドレス、冷たい眼差し。

 どこか貴族的で、近寄りがたい気配。


「来たのね、レイナ。そちらが……異界人?」


「はい。紹介します、殿下」


(……殿下!?)


 そう、彼女は王女だった。

 名を――セラ=イグリア。

 この国の第一王女であり、王立魔法学院の最高顧問。


 近づくだけで空気が張りつめる。

 声ひとつで兵士が震えるような存在感。


「あなたが“心動者”……。

 面白いわ。心の動きで世界を壊す人間なんて、見たことがないもの」


 冷たい笑み。だが、その奥に何かが光った。

 好奇心か、興味か――それとも、ほんの少しの心動かし。


(……いやいや、まさか王女様が俺に興味なんて)


「目をそらさないで。

 あなたの心が動くほど、私の研究も進むのだから」


 彼女はそっと俺の胸に手を当てた。

 その瞬間――


 ドクンッ。


 ボォォォン!!!


 王都の塔が一瞬だけ炎を噴いた。


「……っ!? ま、また暴発です!」

 レイナが悲鳴を上げる。


 セラはそんなことも気にせず、微笑んだ。


「ふふ……悪くないわね。その“反応速度”。」


 その夜。

 宿舎の一室で、俺はベッドに倒れ込み、天井を見つめていた。


「……今日だけで三人に心臓殺された気分だ……」


 銀髪のレイナ――冷静だけどたまに可愛い。

 リナ――元気で真っ直ぐ、距離感ゼロ。

 そしてセラ王女――氷の瞳の中の火。


 どいつもこいつも、近づくだけで心臓が爆弾。


(……これ、もしかして、モテ期?)


 自分でそう思った瞬間、天井が少し燃えた。


「……おい、落ち着け俺。燃えるな天井」


 レイナの声が廊下から聞こえた。

「瞬、まだ起きてますか? 心拍数が高い音がしますけど」


(聞こえてんのかよ心拍数!?)


 ベッドに顔を埋めながら、俺は思った。


――この世界、ドキドキしたら死ぬかもしれない。

 でも、ドキドキしなきゃ生きてる気がしない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ