ハートリンク・シンクロ(後)
――まぶしい。
目を開けた時、俺は真っ白な天井を見ていた。
周りは焦げた研究室。
ベッドの隣ではレイナが眠っていて、リナが倒れた計測器を直していた。
セラは窓辺で腕を組み、沈黙していた。
「……俺、生きてる?」
「ギリギリね。あと2秒で“恋愛性昇天”してたわ。」
「なにその死因名!!」
リナが顔を上げた。
その瞳は、少しだけ赤い。
「あなた……シンクロの間、泣いてました。」
「俺が?」
「はい。あなたの感情が――私達全員に流れ込んできたんです。」
リナが胸を押さえた。
静かに、震える声で続けた。
「あなたが……“孤独”を感じてた。」
「っ――!」
心臓が跳ねる。
あの時、確かに思った。
“自分だけが別の世界の人間だ”って。
異世界転生なんて、カッコいいもんじゃない。
時々、誰とも同じ時間を生きていないようで怖くなる。
レイナが目を覚ました。
ベッドから起き上がり、俺の袖を握る。
「……シュン。泣いてたのね。」
「見てたのかよ……」
「うん。あなたの心が、私の中にも流れたの。」
「それ……恥ずかしいな。」
「恥ずかしいけど、嬉しかった。」
レイナが微笑む。
その笑顔は、痛いほど優しい。
「あなたが何を想ってるのか、少しだけ分かった気がするの。
――寂しかったんだよね。」
俺は言葉を詰まらせた。
そこへセラが歩み寄る。
表情は、いつもの余裕を少しだけ捨てて。
「まさか、勇者の心の“寂しさ”が暴走の原因とはね。
……嫉妬して損したわ。」
「嫉妬してたのか?」
「当然でしょ。
自分が興味を持った研究対象が、他の子にばかり反応してたんだから。」
「研究対象扱いかよ!」
「でも――少しだけ、実験結果を修正する必要があるわ。」
「修正?」
セラは俺の胸に指を当てて、囁いた。
「“これは研究じゃなくて、恋”って書き直すの。」
空気が止まった。
その声がやけに近くて、やけに甘い。
「ちょっ、セラ、それ反則――」
ぱしん、とレイナが軽く叩く。
「ダメよ、順番守って。」
「順番?!」
「次は私の番だから。」
「待て待て待て、実験じゃなくて修羅場始まってる!!」
リナが深呼吸をして立ち上がる。
「……データ的には興味深いです。」
「お前まで落ち着いて言うな!」
「3人の心動波形が完全に重なった時、**共鳴値が∞(インフィニティ)**を示したんです。」
「∞って、そんな漫画みたいな!」
「つまり――私達はあなたの“感情の源”に触れた。」
「……感情の源?」
リナが指先で俺の胸に触れる。
その瞬間、淡い光が再び灯った。
「これはまだ“前段階”。
本当のシンクロは――“互いを受け入れること”。」
光が、3人を包み込む。
暖かくて、眩しい。
まるで冬の朝日のように、優しく心を撫でていった。
静寂のあと、セラがため息をついた。
「……やれやれ。勇者にここまで感情持ってかれるなんて、王族のプライドが泣くわ。」
「でも、心はちょっと軽くなったでしょ?」とレイナ。
「そうね。嫉妬って、案外悪くないのかも。」
リナも頬を染めて、ぽつりと呟いた。
「嫉妬は“感情の熱”……理性が溶ける温度ですね。」
「どんな分析だよそれ。」
「でも、その熱が……心を繋いだ。」
3人の笑顔を見ながら、俺は心の奥で思った。
――やっぱり、俺、この世界で生きていける。
たとえ恋愛禁止でも、嫉妬と笑いの中に“本当の温かさ”がある。




