学院封鎖①:恋の非常ベル
王立魔導院の朝は、いつも通り平和だった。
いや、正確に言うなら――“俺が起きるまでは”平和だった。
俺、シュン=カガミ。
前科三犯(※全部恋愛由来)の「心動勇者」。
今はただの落ちこぼれ学生だ。
だが今日、また一つ伝説を作ってしまった。
「きゃーーっ!? 非常ベルが鳴ってるっ!!」
廊下中に響く甲高い音。
ガガガガガガッと金属の鐘が連続して鳴り、学院中の学生が慌てて外に飛び出してくる。
「火事か!? モンスター襲来か!?」
「違うわ、あれは“恋の非常ベル”よ!!」
その瞬間、全員の視線が――俺に集まった。
「……え、なんで俺?」
リナが横から顔を出す。白衣姿、いつも通りマイペースな科学少女。
「シュンくん、心拍数が上がってます。平均値より36%増加ですね。」
「そんな細かく言うなっ!?」
「ほら、このままいくと再び爆発しますよ。」
「何が!?」
「あなたの“恋心”が。」
キィィィィィィィ――――――ン!!
ベルが二度目に鳴った。
――恋心に反応して鳴る警報装置。
よりによって、俺専用で鳴るようになっていた。
「……またやったわね、シュン。」
呆れ声が聞こえる。振り向けば、そこにいたのはセラ王女。
長い金髪を揺らしながら、優雅に扇子で口元を隠している。
「恋愛禁止法、知ってるでしょう?
あなたの存在そのものが、すでに違法よ。」
「うるせぇ! 俺だって恋したくてしてるわけじゃ――」
「ふぅん? じゃあ誰に心動したの?」
「いや、それは……っ」
セラがニヤリと笑った。
まるで獲物を追い詰めた猫のように。
「まさか……リナ?」
「えっ!? わ、私ですか!? ち、違いますよ、これは純粋に研究的接触で……!」
「研究的!? 胸に手を当てて言ってみろっ!」
「ほ、本当にただの心拍測定です!」
「おいベルが鳴るベルが鳴るベルが――」
キィィィィィィィ――――――――――ン!!
学院中が振動した。
「状況報告!」
教師達が慌ただしく走り回る。
次々と魔法障壁が展開され、校舎が閉鎖されていく。
「恋愛反応、男子寮・南棟・実験室の三箇所に発生!」
「中心は……シュン=カガミだと!?」
「またお前かぁぁぁぁぁ!!!」
叫び声と同時に、俺の両肩を教師に掴まれた。
「先生! 俺じゃない! 勝手に鳴ったんですって!」
「勝手に鳴る恋心があるかぁ!!」
「いや、本当に誤作動で――」
「おまえは存在自体が誤作動だ!」
くぅ……ぐうの音も出ない。
と、そのとき。
「……まったく、男ってのはどうしてこう単純なのかしら。」
レイナが現れた。冷静沈着な優等生。
けれど今は、ほんの少しだけ頬が赤い。
「レイナ!? お前まで来たのか!」
「当たり前よ。
“恋の非常ベル”の発信源があなただと聞いたら、放っておけないわ。」
「いやいや、放っておいてくれよ!」
俺が叫ぶ間に、セラが割って入る。
「放っておけるわけないでしょ。だって、
この学院で“恋をした罪人”が二人目になるのよ。」
「二人目?」
「一人目は、私。」
「えっ」
「嘘よ。」
「嘘かよ!!!」
ドンッ!
突然、地面が揺れた。
魔導警戒装置が発動し、学院全体を包み込む赤いバリアが空に走る。
「全生徒に通達! 学院を封鎖する!」
魔導放送が響き渡る。
窓が閉ざされ、光が遮断されていく。
リナが真顔で呟いた。
「……どうやら、私達は閉じ込められたみたいですね。」
「いやマジで!? なんで!?」
「簡単ですよ。あなたが三人同時に心動したからです。」
「はあああああ!?!?」
「心動魔法、三重共鳴です。」
セラがクスクス笑う。
「つまり――あなた、全員にときめいてたってことね?」
「ち、違う! 違うんだこれは誤作動だ!!
男の生理反応っていうか!!!」
「言い訳が最低ね。」
「泣いていい!?」
こうして、王立魔導院史上初の“恋愛由来封鎖事件”が発生した。
原因はもちろん、俺。
そして、この事件は後に「恋の非常ベル事件」として、
教科書に載ることになる。
――いやマジで勘弁してくれ。




