本作の序章は長い
ここ阿夜花町はなんでもない普通の町だ。
そんな普通の町に普通、とは言えなそうな風貌の女学生2人が足を踏み入れた。
1人はマヒル イクソシーズ。色白の肌、深緑の髪にエメラルドグリーンの瞳。胸ポケットに白いタマゴの紋章があしらわれた、黒いブレザーを着ている。スカートは膝下、表情はにこやかで、やや大人しそうな印象だ。
もう1人の名前はイルナイン。褐色の肌、紅蓮の長髪を後ろでまとめ、瞳にワインレッドを宿している。彼女の服装は腕まくりをして胸元を大きく開け、ヘソが出る長さのワイシャツに、ウエストを2回折ったスカート。その上から丈が腰まである、白いヒヨコ紋付きの黒いマントを羽織っている。耳や鼻、むき出しのヘソなどの箇所にピアスが光る。印象は快活で爛漫といったところだ。
イルナインがニタニタしながら口を開く。
「ここがマヒルが育った町か〜。会えるといいねぇ、初恋の幼馴染クンに♪」
これに対してマヒルが頬を膨らませて「せ、先輩! 怒りますよ……」と応えて続ける。
「この町に来たのは学校の実習が目的なんですから。先輩は私の監督としてちゃんとしてください」
「ゴメンて〜。それにしてもフツーの町だねぇ」
伸びをしながらイルナインが町を見回す。
辺りはごくごく普通の住宅地。だがよくよく目を凝らすと電柱や家の外壁に鋭い刃物で傷つけられたような跡がちらほら。
「ふぅん……」とイルナインがニヤつく。
そんなこんなで2人が住宅地を川沿いに進んでいくと、こぢんまりとした商店街に行き着いた。
そこの中華料理屋に入るなりイルナインが声をあげる。
「こんちゃ〜! 対魔養成学校日本支部から来ましたぁ」
すると厨房から店主らしい中年男性が待ちかねたように飛び出し、一礼。
「お待ちしておりました! この度は依頼を受けて下さり……」
顔を上げた店主が驚く。
「ま、マヒルちゃん!?」
マヒルも驚き、「おじさん、私のこと覚えてたんですか!」
思い出話に花が咲きそうなところをイルナインが割って入る。
「あ〜……。とりま、その前に本題入っちゃいません?」
店主はその言葉に「そ、そうですね。申し訳ない……」と話を始めた。
それによると、店主はこの商店街の振興組合理事長で年々遠のく客足を改善するためにあれこれ企画をしていたのだが、そんな矢先に夜な夜な怪事件が起こるようになり、ますます客が寄りつかなくなってしまったという。
「おじさん、その怪事件っていうのは?」とマヒル。
店主が重々しく答える。
「……切りつけられるんだよ、町が。見えない何かに」
それに対してイルナインが「はいは〜い」と手を挙げた。
「それならアタシ見ましたぁ。民家とか電柱、町のいたるところに刃物っぽい傷が〜」
「それだけならまだ良かったんです。夜道を歩いている時に急に……」と店主はおもむろに左腕の袖をまくってみせた。
そこには包帯で巻かれた腕。町の物だけでなく人まで、つまりこの阿夜花町すべてが切りつけられていることの証拠があった。
「ありゃりゃ、こりゃ大変……」とさすがのイルナインも少し大人しくなる。
全てを話し終えた店主はあらたまって2人に頭を下げる。
「そんなわけでお嬢さん、マヒルちゃん、お二人にはこの怪事件を解決して頂きたい!」
マヒルは席を立ち、店主の隣に行って手を握る。
「安心してください、おじさん。私たちそのために来たんですから!」
こうして2人は店主のもとを後にして、宿で夜を待つことに。
布団に寝転がるイルナインと、教科書を熱心に読み込むマヒル。
「いまどこ読んでんの〜?」と退屈そうにイルナインがマヒルに問いかける。
「妖魔発生のメカニズムの章です」
「あ~、この世に未練のある魂が霊となって、長く留まり続けると大気中の妖気にあてられて妖魔になるってヤツねぇ」
言いつつイルナインが窓の外に目をやるとすっかり辺りは夜闇に包まれていた。
「さぁて、そろそろ行きますか。あ、マヒル〜……」
「なんですか、先輩?」
「お勉強も大事だけど、コレ、忘れてるよ〜」とイルナインは自分の耳のピアスを指さした。
慌ててピアスを耳に付け、部屋を出たイルナインを追いかけるマヒル。
2人は何かがうごめく夜の阿夜花町へ繰り出して行く……。
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