エピローグ
「いいの? 記憶を消さなくて」
墓石に手を合わせていた幸人が振り返った瞬間、沙羅は何度目かの同じ質問を口にした。
「うん……姉さんのこと、辛くても忘れちゃいけないと思うから」
幸人がまた同じ答えを返す。
「ごめんなさい」
「いいよ」
「な~に二人で話してんだ?」
盆時期のもっともきつい日差しの中を、水桶とひしゃくの返却から戻って来た英治が訊いた。
「別に、狼男さん」
「そういう言い方よせって」
やはり抵抗感があるのだろうか。それを知っていて言う沙羅も沙羅だが。
「で、幸人クンはこれからどうするんだ?」
「うん……大学は続けようと思います。姉さんが行けなかった分までやってあげたいし」
「そっか。でも学費とかどうする? 部屋代もあるだろう?」
「あ……そっか」
「ふっふっふっ~、そうかと思ってうちの事務所に荷物移しておいたから。部屋代はタダ、報酬は三人で山分けすりゃ、学費ぐらい出るし」
「え、でも?」
「それに、確か最初来た時言ったよね? 『お金は無いけど何でもしますから』って。今回の報酬、まだだしな。ちょうどいいじゃん、うんうん」
「は、はあ」
「英治」
「何だよ? 筋は通ってるだろ?」
鬱陶しそうに英治が返事をする。
「道理で事務所の掃除をいつもの倍、時間かけてやってたわけね」
「いいじゃん、きれいになるしさ」
「なら、ちょうどいいわ。ついでに幸人さんに射撃訓練の続きもしましょう」
「な? 沙羅お嬢様、その右手に持っているのは何でございましょう?」
「次は動く標的で練習よ、幸人さん。私がまず見本見せてあげるから、良く覚えておいてね」
「わ~っと、ちょっと、タンマ、いやマジで」
「動く標的を狙う時はね……」
「沙羅ちゃん、なんでパイソンじゃなくてマシンガンなの?」
「ぎゃ~っ!!」
賑やか過ぎる三人の声が響く霊園に、姉の墓石が清めの水を受けて一際綺麗に輝いていた。
終
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本サイト投稿時点からするともう8年近く前の作品になり、一部現在にそぐわないところがあるかもしれません。
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