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第四章 ハンティング&サーチング-2

「あ、沙羅ちゃん、お帰り」

「……ただいま」

部屋を出ていたとは言え同じ敷地内の地下にいたのだし、しかも予告どおり三十分しか席を外していないのだから『お帰り』も何もないのだが、幸人にはそれ以外に言葉が思いつかなかった。

「沙羅ちゃん、その……」

「何?」

「大丈夫? その……あんな怖そうな人相手に」

一瞬間が空いた。

「あら、心配してくれたの。優しいわね。大丈夫、彼、非常に協力的だったから」

「そ、そう」

もし地下でのやり取りを見れば大丈夫じゃないのは幸人の方だっただろう。

「それより、有力な情報がつかめたわよ」

「え!? ほ、本当かい?」

幸人の顔が明るくなった。やはり、一番聞きたい事はそっちだったからだ。

「ええ。奴らが出入りしている場所、判明したわ。準備をしてすぐにでも……英治は?」

そうだった。一番騒がしいこの事務所の主がいなかった。

「それが、ちょっと前に電話が入って……」

そこまで言ってから幸人は身震いした。ついさっきまで自分の身に降りかかろうとしていた危険を思い出したからだ。


三十分前。

「英治さん?」

そう、あの騒がしい英治がさっきから押し黙っている。『鳥肌が立つくらいだ』と言った後から、椅子に座り机に背を向けた格好で微動だにしない。

心配になって近づいた。

「え?」

よく見ると、英治は椅子の上で両手で体を引き寄せるようにして震えている。後姿にもそれがわかった。

そういえば、幸人は彼や沙羅、そして二人の関係について詳しく知らない。アシスタントだ、と英治は沙羅のことを言っていたが、本当にそれだけなのだろうか。第一、本物の銃を持っている子供がこの日本のどこにいる? 沙羅のあの大人びた口調や態度も、真剣になった(らしい)沙羅に怯えるのも、何かただならぬ過去があるのでは。いや、そもそも、厚生労働省公認のインスペクター、それも吸血鬼の、というところからして謎だ。

一度きちんと訊いておかないとな、と幸人は思った。

「英治さん、その、大丈夫ですか」

「……ふ」

「英治さん」

「……ふふ、ぐふふふ」

「え、英治さん?」

肩の震えが、笑いで上下するのが分かった。

「……今なら邪魔が入らない」

「……え?」

邪魔……とは沙羅のことか。

沙羅の言葉が脳裏に浮かんだ。

英治と二人きりにならないようにね。

「あ、あの、ちょっと……?」

「ふふふ……沙羅も甘いよな~。たかが三十分、されど三十分」

「ひ?」

英治が立ちあがって振りかえった。

正直言って、スポーツインストラクターでもやれば女性の利用者でごった返しそうなほどの美形。スポーツマン系の。

でも、今は眼だけが違っていた。まるで獲物を狙う獣のように鋭く、そして期待で笑っている。

やばい、やばすぎる。

身の危険を今こそ最大限に感じて逃げようとする幸人の肩に手がかかる。

「どうした幸人クン」

「い、いえその」

軽く抑えているように見えて万力で固定されているように動きが取れない。

「なに、ちょこ~っと深いコミュニケーションを図ろうとしているだけさ」

女性向け十八禁コミックに出てきそうな遠まわしの台詞が、余計に恐怖をあおる。

(さ、沙羅ちゃ~ん)

助け舟は別のところから現れた。

「ん?」

(で、電話……?)

机の上の電話が早く取れとせかすように電子音で訴える。その音が幸人には頼もしくも思えた。

「あ、あの英治さん、電話ですよ」

「ちっ……もうちょいだったのに」

(た、助かった……)

「はい、こちら黒崎探偵事務所」

平静を装っているが、やはりどことなく苛立ちが見え隠れする。

『あら、沙羅ちゃんじゃないの』

「何だ冬美さんかよ。せっかくいいところだったのに」

『ご挨拶ね。こっちこそ沙羅ちゃんが出てくれると思ってドキドキしてたのに。今日最初の電話があなただなんてサイテー』

「うっせ、用事ないんなら切るぞ」

『あるに決まってるでしょ……例の件よ』

「そっか」

英治は受話器を持ちなおし、耳にしっかりと当てた。ここまでは受話器の向こうの声が幸人にも聞こえていたが、その後は英治も『そうか』『わかった』を繰り返すだけで内容は分からなかった。


「で、出かけたわけ」

「うん」

幸人は簡単に説明した。英治が迫ってきた事は言わなかったが。

「仕方ないわね。帰ってくるまで待ちましょう……どうしたの?」

幸人が浮かべた不思議そうな顔に沙羅は気づいた。

「う、ううん、なんでも無い」

そういって首を振る幸人。

(どこに行ったかとか訊かないのかな……まあ、行き先は言わなかったけど)


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