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第四章 ハンティング&サーチング-1

何てこった。

俺は杭撃ち銃についたゲージでガス圧を確認した。

充分だ。今のところは。

やっぱ、日本はサムライの国か? 拳銃もろくに持ちこめねえ。カタナで叩けって言うのかよ。

まあ、それでも無理やりバラして何挺か持ちこんだがな。

それに、止めのこれがありゃヴァンパイア退治は何とかできる。

しかし、これだけってのはちょっとやばいかもな。

「おい、カーツ、今どこだ?」

イヤホンマイクに向かって叫んでみたが、応答が無い。

「カーツ。お……」

「聞こえてるぜ、ジャン」

「おう、生きていたか」

へへ、そう来なくちゃな。俺が把握した限りでも三人もおっち死んじまいやがったからな。慣れない国とは言え、残った俺達だけでも何とかしねえとメンツがたたねえ。

俺は周囲を警戒した。周りにはシーツを被せた建築資材や、造りかけのよくわからねえ建物が並んでやがる。これなら隠れる場所にこと欠かねえ。

確か、途中で放棄されたテーマパークだか何だかと言ってたな。

「おい、どうしたジャン」

「おっと、すまねえ」

ほんの一瞬だと思ったが、結構間が開いちまったようだ。

「ジャン、今どこだ?」

「ちょうど敷地のド真中、妙に細長いタワーの近くだ。そっちは?」

「じゃ、入り口を六時にして、あんたから四時の方向だ」

「他の仲間は?」

「分からん、応答がねえ」

畜生、もしかして俺達二人だけか?

「武器は?」

「それだけは安心しな。イングラムもショットガンもある。弾もばっちしよ」

けっ、それはお前が応戦してないって事じゃねえのか?

「ようし、一旦退くぞ。俺が通りの真中に出て奴をおびき寄せる。奴の姿が見えたら弾をありったけぶち込め」

「ラジャー了解……ハンターに栄光あれ」

「ああ、ハンターに栄光あれ」

そうだ、俺達はヴァンパイア・ハンター。こんな極東の島国で死んでたまるか。前金はたんまりもらっている。全額欲しいところだが、こんなところで朽ちるよりマシだ。

「行くぞ」

俺は杭撃ち銃を手に通りに踊り出た。おそらくメインロード。このまま行けば出口まで一直線。ヴァンパイアにすぐに気づかれるが、それが狙いだ。

へへ、来いよ、ヴァンパイア……いや、さっきチラッと見たシルエットからすると女吸血鬼ヴァンピレスか?

まだか? もう二十歩も歩いたぜ。

「カーツ、奴は?」

「……見あたらねえ」

よく探せよ。うまく行きゃ俺がコイツで心臓一刺しして終りだ。そうすりゃ残りの賞金だって山分けなんだ。

入り口のアーチが見えた。残り十フィート。

五フィート。

四フィート。

三フィート。

アーチが俺の頭上にそびえたつ。

ちっ、食いついてこなかったか。それとも逃げたか?

「おい、カーツ、退却だ。奴さん、逃げたようだ」

「……」

「おい、カーツ?」

雑音だけが空しく耳に響く。

まさか。

「!?」

上か?

アーチの上から何か落ちてくる!!

俺はとっさに躱してそれに銃口を向けた。

「何!?」

人型をしたそれは、空中で体制を立て直すかと思いきや、おもいっきり地面とキスしやがった。

「!? カーツ!!」

ボディアーマーの前後が逆だ。首をへし折られている?

「そう、これであなた一人よ」

「!?」

ジャップの吸血鬼のくせに、バカ丁寧に英語でしゃべりくさって。

「どこだ!?」

「ふふふ……」

しかもパーク内に設置されたスピーカーを通してやがる。くそっ、これじゃどこにいるのか……

奴が来るとすればどこだ?

後ろか?

前か?

物陰からか?

銃口を全ての方向に向けるが、動くモノは何もない。

「まさか?」

俺は上を向いた。

畜生、気づくのが遅かった!!

頂点に達した太陽を背に、そいつがアーチの上から降って来た。

「ち……くしょ……」

馬乗りで奴は俺を押さえ込んだ。逆光で顔が見えないくせに、犬歯だけ目立って光ってやがる。

「さあ、お遊びは終りよ……勇敢なハンターさん」

こうなったら……

「!?」

逆光でも表情が変わったのが分かった。形成逆転だ。

「へへ……悪魔め……」

くく、形成逆転だ。最後に勝つのはハンターだと決まってるんだよ。どうだい、女吸血鬼? 至近距離で十字架を突きつけられちゃ手も脚も出まい?

俺は首に下げた十字架の鎖を引き千切って、さらに奴に近づけた。

「何のつもり?」

「なっ!?」

奴は十字架を素手で掴むと、片手で握りつぶしやがった!?

「な……ぜ?」

「さすがは西洋の吸血鬼ハンター。用意が良いわね。でも、十字架を恐れるのは西洋の吸血鬼だけ。なぜなら、彼らは元の信仰の教えに背いた事に、心の奥底で罪悪感を感じる。禁忌とされる吸血行為をね。その教えが遺伝子にまで染み込んでいるから無意識に十字架を恐れるだけ。でも……」

「ぐ……」

く、首が……息が……

「その下地がない東洋人には無理よ。それに」

かすむ俺の視界に、握りつぶされた十字架が放られるのが映った。

「どうせ突きつけるなら純銀の十字架にしなさい。安物のメッキ品じゃなくてね。本物なら、私にも効いたかも」


静かな園内に、骨の折れる鈍い音だけが流れた。


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