6話
僕は拘束された状態で、指を切断されている。
激痛が走るが、もう慣れた。
傷を治したときのように、指を再生しようとする。だが、簡単にはいかない。傷なら時間が経てば治るが、指は自然に生えてこない。再生する瞬間のイメージが浮かばないのだ。だが、やらなければこの苦痛は終わらない。
体内の肉を、指のあった場所へ押し出すイメージをしてみる。
なんとなく、できた気がする。
「グロいね」
防護服の人物が呟いた。おそらく、まだ皮膚も爪もないんだろう。
残った指を見て、構造を考える。骨、皮膚、爪。再生するというより、創り出す感覚かもしれない。
体中のタンパク質とカルシウムを、指へ押し出し、形を調整する。
今ほど生物の授業を受けていて良かったと思ったことはない。
「君、素質あるよ。普通は再生できないからね」
素質があるのは嬉しい。でも、何もしてないのに指を詰められるのはいかがなものか。
空夜さんがやってきた。
「もう耐久テストは終了だ」
その言葉に安堵する。
「その前に一つ」
また指を切られるんじゃないかと身構えた。
「自分のギフトに心当たりは?」
転生することなんじゃないかと、思っていることを話した。
「ギフトは基本、自分がそうしたいと強く思ったものになる。そう思うんなら、たぶんそうなんだろう」
そう言い、空夜さんは紙を渡してきた。
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検査結果
常世 廻
ギフト:転生
身体欠損 なし
身体能力 D
知能 B
知覚能力 C
再生能力 S
__________
評価はSからFまであるらしい。
なんとも言えない成績だ。最弱と言うには強いし、無双できるほどでもない。能力が特別強いわけでもない。
できることと言えば、ゾンビアタックくらいだろう。
「まだ始まったばかりだ。鍛えれば強くなる」
そう励ましの言葉をもらった。
「もう採用だから、よろしくな」
さらっとそう言われた。そんなのでいいのかよ、と思う。
疑問が一つあったので聞いてみた。
「なんで僕を採用してくれたんですか?」
「理由は二つ。一つは人手不足。もう一つは時嶺の推薦だ。あいつはめったに人を信用しない。そんなあいつが推すなら、大丈夫だろうと思ってな」
時嶺さんがそこまで信頼してくれる理由は、正直わからない。
「初任務は五日後だ。それまで鍛えておけ」
五日で強くなるものなのか?
「トレーニングルームはあっち。倉庫はあそこだ」
一応、ちゃんとした設備はあるらしい。
「当日は正午に、あっちの会議室に集合だ」
こんな場所にも会議室なんてあるのか、と思った。
「今日はもう寝ろ」
そう言われ、部屋に行く前に倉庫を覗いた。
中はとても広く、日用品から武器まで揃っていた。
勝手に持って行っていいのか?
拳銃とナイフ、グレネード、ほかにも色々もらった。
次にトレーニングルームへ向かう。
ここも広く、基本的な器具はもちろん、プールや射撃練習場まで揃っていた。
脚力を鍛えようと、ランニングマシーンに乗ろうとしたとき、声をかけられる。
「それ、私の。どいてくれる?」
幼くて嫌味っぽい声の正体は、さっき僕を殺そうとした少女、黒崎 夜宵だ。
今はゴスロリではなく、トレーニングウェア姿。
「ほかにもあるだろ?」
「最初からそこって決めてたのよ」
なんという自己中心的な奴だ。
こういうタイプに関わるのは面倒だ。
「じゃあ譲るよ」
へりくだってそう言った。
「でも、あなたみたいな弱い人間が使おうとしてたものなんて、使いたくないわ」
殴りたくなる衝動を必死で抑え、別の器具を使った。
寝てもよかったが、こいつには負けたくない。そう思ってトレーニングを続ける。
少しすると、疲れと痛みを感じた。しかし、今までの経験に比べれば、痛みと呼ぶほどのものじゃない。
ただ、体力がない。
一時間ももたず、自分の部屋へ戻った。
思えば、トラックに轢かれてから今日まで、まともに寝ていない。(電車で少し寝たくらいだ)
しかも、その間に撃たれ、殴られ、切られ、指も切られた。普通なら死んでいる。
それでも、あまり疲れていない。むしろ元気なくらいだ。
まだ午後10時だったが、寝ることにした。
目が覚めると、時計は11時。13時間も寝ていた。
それだけ疲れていたのだろう。
寝過ぎて頭が痛い。
最悪な気分だ。なぜなら腹が減っている。
食事も三日ぶりくらいだ。
食堂の場所も教わっていない。そもそもあるのか?
部屋を見渡すと、廊下に自動販売機のようなものがあった。
水、サプリ、そしてパンらしきものが並んでいる。
とりあえず、パンのボタンを押した。
出てきたのは、親指2個分くらいのパン。
食べても腹の足しにならない。
無料なので、十個ほど食べた。だが、味はなかった。
飽きたのでサプリを食べる。
サプリはカプセルくらいのサイズで、味がついていてうまい。
全部の種類を四個ずつ食べた。体に悪そうだが、昔サプリを大量に飲んでも平気だったので、体質的に大丈夫だろう。
腹も満たされたので、施設内を散策することにした。
とりあえず、会議室の場所を確認しておこう。
当日に迷子になって遅刻なんて、最悪だからな。
意外と簡単に会議室は見つかった。
一応、中も覗いてみると、そこには空夜さん、時嶺さん、黒崎がいた。
「新人なんだから、十分前には来なさいよ」
黒崎にそう言われた。
「じゃあ全員揃ったから、少し早いが始めるぞ」
僕は完全に理解した。
──五日間、寝ていたんだ。