2話
転生したと思っていた世界が、しょうもない現実だった。
僕は町に出た。普通に人がいて、日付はトラックにひかれた日と変わらず、時間は午後7時。ごく普通の街だった。
所持金がなかったのでATMで金を下ろそうとしたが、残高は2000円しかなかった。とりあえず服を買うことにした。服には赤いシミがついていて、店員の顔は引きつっていた。唯一の救いは通報されなかったことだ。
着替えた後、あることに気がついた。背中の傷が消えていたのだ。驚いたが、トラックにひかれてテレポートしたことに比べれば大したことではない。もしここが異世界だったとしても、転生ではなく転移ということになることに気が付いた。
帰るために駅へ向かった。電車賃は1000円だが、手元には500円しかない。電話で助けを呼ぼうにも公衆電話は見当たらないし、そもそもかける相手もいない。仕方なく歩くことにした。
道は長く、カタツムリよりは速く、亀よりは速く歩いた。気がつけば今日が終わろうとしていた。
喉が渇いたので自販機で水を買った。お釣りを見ると、百円玉が七枚あったので、それを拝借した。(普通に犯罪)
電車に乗ると、深夜の車両には奥に女性が一人いるだけだった。ずっと歩き続けていたせいで疲れ果て、眠ってしまった。
大きな音で目が覚めた。到着したのかと思ったが、そうではない。人の怒鳴り声が聞こえる。
女性とチャラそうな男が言い争っていた。話の流れから、男が女性に因縁をつけているらしい。助けるべきか迷った。熊にも勝ったんだから、人間くらい……。そう考えていると、女性が突然男を殴った。しかし男はそれを避けた。次の瞬間、男は銃を取り出し、女性を撃った。彼女は避けたが、左腕をかすめた。
突然の出来事に動揺していると、男がこちらを睨みつけた。僕が見ていたことに気づいたらしい。
「お前はこの女の仲間か?」
なぜその場にいただけでそんなことを言われるのか。疑問に思いつつ、助ける義理もないので正直に答えた。
「その人のことは知らないです。」
「ならお前はなんだ?」
「僕はただの通りすがりで……。」
「そうか、答えないのか……なら死ね。」
もしかして彼は国語の時間、ずっと寝ていたのだろうか。そう思った瞬間、銃声が響いた。避けようとしたが間に合わず、腹を貫かれた。激痛が走る。しかし、今日だけで二回も死にかけた僕には耐えられる痛みだった。
死を覚悟した瞬間、男が撃たれた。おそらく女性の反撃だ。そして彼女は男に殴りかかった。男も応戦し、激しい格闘が始まった。
加勢すべきか迷ったが、攻撃してきた相手を倒すべきだと判断し、男を後ろから殴った。奇襲だったので男は「ぐっ」と悶え、意外にも女性も驚いていた。
男は距離を取り、再び銃を構えた。今度は機関銃のようなものを持っている。どうやってそんなものを携帯していたのだろう。
僕は後ろの車両へ逃げた。数発当たったが、もう痛みに慣れてしまっていた。
機関銃は弾の消費が激しく、彼は無駄打ちをしていた。すぐに弾切れになるだろう。しかも先頭の方だから、いくらでも逃げられる。そう考えていると、女性に話しかけられた。
「あなた、協力してくれない?」
「わかっていると思うけど、逃げ続けるわけにはいかない。」
僕はさっきの完璧な作戦を伝えた。
「あなたバカなの? あの弾は能力で作られたものだから、弾切れになるまで時間がかかるの。」
彼女の言葉に驚いた。おそらく鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていただろう。
「まさか、本当にただの通りすがりなの?」
呆れたように彼女は言った。
「とりあえず、そいつを抑えておいて。」
そう言うと、彼女は窓を割り、電車から飛び降りた。
囮にされたのだろうか。
僕は今、銃はおろかナイフすら持っていない丸腰だ。
相手は機関銃持ち、勝てるわけがない。しかし、男はゆっくりと歩み寄ってくる。
逃げるしかない。だが、隠れる場所は少ない。座席の後ろに隠れつつ、リロードの瞬間に後方へ逃げた。
逃げる途中で人の姿が見えた。
「銃を持った男がいます。逃げましょう!」
そう忠告したが、
「そうですか。」
としか返ってこない。動揺も疑いもない。ほかの乗客も同じ反応だった。男も彼らを撃たない。訳が分からず頭がパンクしそうだったが、とりあえず「肝が据わった人たち」だと考えておくことにした。
もう最後尾、逃げられない。確実に殺すためか機関銃からRPGに持ち替えている。自分の力でどうにかするしかない。
ポケットを探ると、百円玉が二枚だけ。