第9話 戦車エレファス
深い森の中、それは静かに眠っていた。
戦車エレファス、それが彼の名前。
四角い鉄の箱に車輪を付けただけの名ばかりの戦車。
そんな彼に、美しい王女様がその名を付けてくれたのだ。
あの象よりも大きく強くあれと。
我と共に戦えと。
王女が永遠の眠りについた日、彼の魂も消えてしまった。
鉄の塊の彼に魂などある筈がない、、のだが。
彼は知っていた。
自分が何の為に生まれたのかを。
王女と共に戦いの先陣を務めるのが、
どれだけ誇らしく幸せだったのかを。
あの戦いの後、戦車エレファスは海岸にうち捨てられていた。
石を投げつける者もいた。
王女を守れなかった無用の鉄くず。
ただでかいだけのガラクタ。
世の中が共和国に変わる日の前夜、
そのガラクタは忽然と消えていた。
誰もあの巨大な物体を動かすことなど、
できる筈がないのに。
その夜、錆びた鉄が、軋むように擦れる音を多くの者聞いたという。
まるで、巨象が泣いているようだったと言う人もいた。
そろから、長い年月が過ぎた。
森の中で眠るガラクタには苔がむしツタが絡まり、
いつしか森の風景の一部と化していた。
彼はふと懐かしい波動を感じ、目を覚ました。
「俺何してるんだ。行かなければ。」
戦車エレファス、その錆びた巨体は15年の時を経て静かに動き出した。
錆びついた鉄が、ギシギシと軋むような轟音を立てた。
それは愛する王女と戦いに臨んだ、
誇り高きあの巨象の雄叫びに戻っていたのだった。




