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第7話 テオ

ベッドに横たわった老人が言った。

「来春にはパール姫が16になる。王女様との約束の時が迫っておるというのに、この有様とはまったくをもって情けない。」

老人は、かつて近衛隊長として王家に仕えていた男だ。忠義に厚く王女からの信頼も絶大であり、パール姫の脱出に際して御者の役目を仰せつかったのだった。

「父上、体ばかりは仕方ありませぬ。まずはしっかり体を休めてください。

もし春までに体調が回復しなければ、私が代理を務め最南端の町に向かいます。」

「そうだな。何とか旅に耐えられる程には良くなれば良いが。この役目を無事終えることが出来れば、わしはいつ死んでもかまわん。」


「それにしても、どうしたものか。

春にパール姫を都に迎えるは良いが、国は今や共和国。表向き、王家の血筋はあの戦いで途絶えたことになっている。

そして、当時生まれて間もなかったパール姫が生きていることを知っているのは、我らだけとは。

今さら、実は王女様には娘がいて、南の町で普通の娘として育てられたと聞いても、誰もにわかに信じまい。疑う者も多いだろう。

しかし、何故王女様はパール姫の存在を公にしていなかったのだろうか。今となっては知る由もないが。」


「パール姫の誕生は、まさに敵の猛攻撃を受けている最中のことです。王も出陣しなければならない状況では、慶事の発表どころではなかったのでしょう。それに、もし姫の存在が公になっていたら、城から脱出させ、南まで逃げきることは難しかったでしょう。」


「国の事情もありますが、パール姫自身がいざ自分の生い立ちを聞いてどう思うのかも全く分かりません。田舎の普通の娘として育てられたのに、突然貴方は姫様でしたと言われても。」


「育てられた父母と血の繋がりが無いことにショックを受けるかも知れぬ。

父母と離れたくないと、都に行くのを拒むかも知れぬ。

考えたくは無いが、親子で姫を擁立して王政復活、政権を乗っ取ろうと画策することも無いとはいえぬ。

まあ、あの夫婦の人柄からしてそれはまず無いだろうが。

周りからは、そんなことも懸念する声は上がるだろうな。」


「それに加えて、別の問題も発生してます。

北の蛮族が東の海の国を攻めています。戦力差は明白で、征服されるのも時間の問題かと。もし、奴らが海の国の港と船、航海術、船乗りを手にしたら、我が国を海岸線のどこからでも攻めることが可能になります。それこそ、最南端の町などは丸腰同然。 最新の武器を持つ獰猛な奴らに攻められたら、半時も経たずに陥落するでしょう。」


「全くをもって問題だらけじゃ。

春を前にあの町が奴らに攻められ、パール姫に万が一のことでもあったら、王女様との約束すら果たせん。

そんなことでもあったら、わしは死んでも死にきれん。

最南端の町には国の役人もおらんし、何の情報も入って来ん。八方ふさがりじゃ。

誰か信頼を置ける者をかの地に派遣し、情報を得たいものだが、そこまで信頼できる者も思い浮かばん。」




「父上、この際我が息子のテオをあの町に向かわせてはいかがでしょう。テオはパール姫と同じ年頃。父親の私が言うのも何ですが、あいつは十分信頼に足りる男かと。」

「うーん、テオか。確かに最近はだいぶ男らしくなってきた。武術もなかなか達者なようだし頭も良い。

うむ。それも悪くないかも知れんな。

よし、思い立ったが吉日。

テオを呼んでくれ。」


こうして、老人は事の詳細を孫のテオに話すことになったのだった。


「北の者たちが東の海の国を攻めている。

海の国が落ちれば、奴らは船を手にする。

もはや時間はないのだ。

テオ、すぐに最南端の町へ向かってくれ。

そしてパール姫と級友となり、姫の現状を出来るだけ詳しく把握してくれ。

連絡には、我が鷹を使うが良い。

そして万が一最南端の町が戦場になることになれば、パール姫を命をかけて守り、そして町から脱出させるのだ。

頼んだぞ!

我が愛する孫であり、誇り高き若き勇者、テオ。」



こうして、若干15歳の若者テオは、最南端の町に向かい急ぎ馬車を走らせることになったのだった。




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