第6話 王女様の思い出
「パール!」
王女は遠ざかる意識の中、最南端の町で健やかに成長するパール姫の姿を思い描いていた。
嫁ぐ前、若き王からの熱烈な求婚を受けたものの、あれこれ悩みながら国中を巡りたどり着いた最南端の小さな町。
王家のはるか遠い血筋に生まれた彼女には、本来ある筈の無い若き王との縁談。
周囲からは、彼女の卓越した魔法能力目当ての求婚だと噂されていた。
その町は美しかった。
丘陵には豊かなブドウ畑、山裾から広がる黄金の麦畑にはゆっくりと風車が回る。
そして、見る度に驚くほど違う姿を見せる深く青い海。
何よりも、天地の恵みに感謝しながら、平凡な日々を天の恵みと満足し、笑いながら平和に暮らす人々。
ある日、最南端の岬で太陽の恵みを歓喜とともに受け入れている海の輝きを見て、彼女もふと全てを受け入れたのだった。
「魔法目当て?そんなことどうだっていいわ。私ずっと前から、あの人のこと好きだったじゃない。ずっと優しくて素敵な人だって思ってたのよ。何を悩んでたのかしら。」
「彼が、この素晴らしい国を一緒に守って、育んで欲しいと言ってくれた。
私をこれまでも、これからも一生愛すると誓ってくれた。
何て素晴らしい奇跡なの。」
「私も貴方を、これまでも、これからもずっと愛しています。」
王女はあの町で暮らしている姫を思い描き語りかけた。
「私と最愛の王の娘パール。
百万の真珠が輝くような、あの海のように美しき姫。
母はいつも貴方を思っている。」
王女は、あの岬で王とパールと三人で、光る海を見つめている姿を思い描いた。
「ああ。何て素晴らしい。」
そして、王女は微笑みながら遠くへ旅立って行った。